第1話 ある少年の旅立ちと独り言

ある晴れた日の早朝


家の前には少年と一組の夫婦が居た


「エルドナス。体には気をつけるのよ。父さんの言葉なんて無理してもっとうちに居てくれても良かったのに」


「ふん!漢たるもの成人したら家を出るのが当然だろう」


母さんが父さんに向けて肘打ちを決める。痛そうだな…。


僕は15歳になったのを気に実家を出ることになったのだ。


出るきっかけになったのは父さんの教えである「大人は一人で生きていくもの」というなんともめんどくさい家訓のせいだ。


それに対して優しい母さんは反発してたっけ


「これかっらはここに帰ってくることもほとんどなくなってしまうかもしれないけど、手紙は書こうと思ってるから待っててね」


「あら、エルはそんな筆まめなほうではないでしょ?気が向いたときだけでいいわ。不幸な知らせが来ないことだけ祈っているわ」


「そ、そうだね。書ける時に書くことにするよ」


「父さん。僕は父さんに教えてもらったことを使ってまずは頑張ってみるよ」


「そうだな。お前は好奇心旺盛と言えば聞こえはいいが、好きなことがどんどん移り変わってしまったからな。俺としてはまだまだ鍛えたり無い気がするのだが、時間はまってくれないからな。ほら、ぐずぐずしてても何も始まらんぞ?行ってこい」


「そうね。行ってらっしゃい。昔みたいに泣いて帰ってくるんじゃないわよ?」


どうやらこの親たちは息子の門出だというのにかっこつけさせてくれる気はさらさらないらしい。


「はは、そうだね。強くなったと証明できるように頑張ってみるよ。じゃあ、二ともお元気で!」


別れの挨拶を済ませて家の入り口とは反対方向へ歩みだす。


…まぁ、ぶっちゃけ15歳で成人って早いとは思うんですけどね?だいたい15歳って中学校3年生じゃないですか!


中学校3年の時のことを思い出してもまだまだ社会出るなんて考えたことなかったなぁ。


あ、そう言えば僕あれですいわゆる転生者ってやつらしいです。


いやーびっくりしましたよー。ある日目が冷めたら目線が低いし腕は短いしなんかしらん天井あるしで大混乱したのがだいたい10年前。5歳くらいの時ですかね。


もともと僕は特にこれといった特徴もないただの日本人だったと思います。


普通科の高校を卒業して第一志望の大学に入れずに滑り止めの大学に行ってと…まぁよくある人生ですよね。一般ピーポーってやつ。


その大学で始めたアルバイト先から声がかかってそのまま就職したりしましたね。


普通の給料をもらって最低限一人暮らしをしていくだけはもらっていたので貧乏ってわけではなかったんじゃないでしょうか。


20代の後半でも残念ながら独り身だったので、いわゆる独身貴族ってやつをしていて毎月の給料は貯金とかできずにいろんなことに使ってしまってました。


老後の生活なんて知るかーってやってたら寝て起きて世界を渡っていたんだから本当に僕の老後の生活なんてものはなかったんですね。よかったのか悪かったのか…。


新しい世界の扉が開いたと思ってテンションが上っていたのつかの間…現実ってやつが襲ってくるんですよ。


もともとスマホ中毒者(自分では中毒気味なだけと思っています)だった僕はスマホの無い生活に半日で飽きてしまいました。


その結果無いものはしょうがないのだからできることをやって楽しもうと思うことにしたんですよね。はい。


例えば、父さんに鍛えてもらおうと思って戦い方を学びました。父さんはもともと兵士として働いたことがあったということで適任だと思ってお願いをしました。


うん。それが失敗だったんだよね。ミスったと言うには軽すぎる間違いを犯したと思っていいのだろう。


結果としては僕は毎日毎日ボッコボコにされてました。


最初は剣。そして弓、槍…家にあったものをすべてやってみたんですけどどれもボコボコにされました。もはや懐かしくすら感じますね!


そこで僕は気がついたわけですよ。


僕には体術の才能はないんだと!はぁ…転生したらいろんなボーナスが合ってもいいはずだから、他の才能があるはずだと家の中を物色し始めました。


そんな時に母親が持っていた魔法の本を読み始めました。


この世界の魔法は構造式という図形を暗記してそれに魔力を通わすことで発動することを魔導入門書を読んだことでわかったのです。


なるほどわからん!となっちゃったんですよ。


でも、諦めきれなくてどうにか魔法を使えないかと魔導入門書を読んで読んで読み続けて1つのことに気が付きました。


この構造式とかいうのって単純に魔法をイメージするための補助をやっているだけなんじゃないかって。だったら僕はこんなものを使わなくても強いイメージを作り出せれば使えるんじゃないかと…。


それからは魔力の操作とイメージの訓練ととやることがたくさんだったんですけど、やっぱり魔法が使えたらかっこいいというただただそれだけを目指して努力を続けて数ヶ月なんとか使えるまでになったのでした。


嬉しくてどうしても親に自慢をしたくなって両親に魔法が使えるようになったことを話したのです。


これが何もかもの間違いだったのかもしれません。


その時の両親の反応といったら…。


「まぁ!エルも魔法を使えるようになったのね!さすが私の子ね」


これは初級編です。ああ、なんと優しい母さんだったのでしょうか…。


「エルは魔法をどんなふうに使いたいんだ?」


「えっと…こう…どーん!って?」


今考えると貧相な語彙力ですよねー。10歳くらいとはいえ転生してるんですよ?ボキャ貧にも程がある…。


「そうか…そもそも魔法と戦闘は切っても切れない関係があり、戦闘ともに伸びてきた技術とも言えるだろう。その中でも武器と魔法の親和性を考えると…」


ここから始まったのは父さんの魔法と武器の親和性の話。あんまりにも長くて隣で母さんは寝てしまうという事件まで発生しました。


それからというもの父との訓練は魔法と戦闘の訓練に変わりました。オブラートに包んだ表現をしても地獄の日々だったと言っていいでしょう。


その辺りから普段の父のことは父さんで訓練中の父のことは教官と心の中で呼ぶことにしました。そしたら少しだけ心が楽になったことはここで告白します。


そんなわけで、いろいろな修行をした5年位でしたかね。


教官(父)が一番得意な剣。魔法との親和性が一番高い弓などなど。なんとなくかっこいいからと始めた双剣はうまくいっていたはずなんですが…。


「あ、これから独り立ちするにあたって1つ助言をしよう。まず、ちゃんとできるようになるまでは剣と弓だけで戦いなさい。俺がしっかりできるようになってから他の武器を使うように。要するに他の武器は禁止な」


なんで条件まで出してくるんだよー!


聞いてないって!何でそういう話ほんとにこのタイミングでポンポン出してくるのさ!


今思い出してもあれですね…ぶっちゃけなくてもムカつきますね…。


思い出しただけでも普通に苛つく。


あと、こんだけ考え事をしても谷底の方にやっと村が見えてきたという事実にも腹が立つ。


父さん…いや、あいつ人嫌いだったとしてもどんだけ辺境の地に住んでるんだよ…。


まぁ…目的地が見えただけでも良しとしますか…。

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