飽き性だったのが災いして一つのことを極められませんでしたができることやって生き抜きます
唯織
第0話 そういうことは早く言ってくれ
「ぐぁ!」
持っていた木刀が手から離れ地面を滑る。
「エルドナス。まだまだ甘いが、これまでよく頑張ってきたな。もうすぐお前も15歳。成人になる」
「急にどうしたの父さん?」
よろよろと体を起こしながら父さんの方を見つめる。
「お前には伝えていなかったが、15歳になったら出てってもらうからな」
「はぁ?急に言われても困るんだけど!成人したら出てけってなんだよ」
びっくりするくらい急な展開で困っちゃうな…え?マジ?
「これ、母さんとも話して決定事項だから」
あの…父さん?もうすぐ15歳って言うじゃん?
誕生日明日なんですけど!?え?明日出てけってこと???
えー?
えー…?
ということで、急遽ですが僕の実家で過ごせる最後のいち日になってしまいました。
「エルドナス?どうしたの元気ないわね」
心中を察してほしいんですけどお母様…。
「今日の稽古はそこまで激しいものではなかったと思うのだが…どこか痛めたか?」
しいて言えば…心?
「あのさ…急に明日から一人で生きていけと言われた子供の気持ちわかる?」
おいそこ!二人でちょっと何言ってるかわからないっていう顔して見合わせないで!
「うちの家訓を忘れたのか?」
「大人は一人で生きていくものでしょ。何回も何回も聞いたからわかってるよ」
「お前は明日で何歳になるんだ?」
「…15歳」
「エルドナスもついに成人ね〜。長いようで短かったわね〜」
「だいたい漢たるもの成人したら家を出るのが当然だろう」
だとしたらそういうことは早く言ってくれ…。
「だからって明日出てけってのは無いだろ父さん」
「あら、エルドナスに話してなかったかしら?あなた…ちょっといいかしら?」
食事中ではあったが、父が母に連れられて奥の部屋に行ってしまった。
一人になると暇だな。
今日のご飯は母さんが腕によりをかけた僕の大好物ばかりだった。
この御飯がもうたまにしか食べられないと考えると寂しくなるな…。
というか僕…明日からのご飯とかってどうすればいいんだろう…?
もぐもぐもぐもぐ…さみしいなぁ…。
母が父を連れて部屋に戻ってきた。なぜだろう父がすこし小さく見えるような気がするなぁ…うん。かんがえるのやーめよ。
「ごめんなさいねエルドナス。この人がもう話しているものだと思っていたから話が急になってしまったみたい」
「…でも、決定事項なんでしょ?」
「そうね…私達もそのつもりで準備をしていたから」
「何か最近急に稽古が厳しくなってきたと思ってたからねー。なんか変だなーとは思っていたんだよね。まぁ、出てけと言われて居座ろうとは思わないよ」
だって…決定事項なんでしょ?しょうがないじゃないっすかー。
「あら、意外とすんなり受け入れるのね。あまりに急すぎたから心の準備ができてからでもいいんじゃないかって話にまとめてきたのに」
母は強し…。
でも、そういう事言われるとちゃんと決心したのに揺らいじゃうじゃないですかー。やめてよ〜母さん…。
「ごちそうさまでした!母さんありがとう。今日は僕の好きなものばかり作ってくれてたよね。明日から食べられなくなると思うと寂しいよ」
「まぁ!あなた聞いた?」
ばし!ばし!と父の肩を叩く母。いや待て、その…強くね?
父さん叩かれるたびにビクってなってる…さっきめちゃくちゃ怒られたんだろうなー。母さん静かに起こるから怖いんだよなー…。
自分の食器を片付けて自室に向かう。
この自分の部屋から見る山だったり森だったりという眺めも今日で見納めになってしまうかと思うとさみしい。
自分の意思とは別に一人になるのは初めてなのかもしれないな。
「明日から…一人か…」
一人暮らしをしていたときの癖なのか一人でいるときにはどうしても独り言が出てしまう。
この家に生まれて15年。
僕の中が複雑になってから10年くらい。
日々楽しみながら一生懸命に生きてきたんじゃないかな?
…明日からどうしよ…。
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