第11話 後輩のリトライ
一年のうちに四回も告白された、と言うとモテるようにきこえる。
一年のうちに同じ女子から四回コクられた、と言うと執念ぶかいというか……もしかしたらストーカーじゃないかって疑われるだろう。
答えは、そのどちらでもない。
おれは〈モテない〉し、彼女はストーカーでもなんでもないんだ。ふつうの女の子だ。
「じつはずっと前から……っていうか、先輩が目当てで入部したりしてまして……」
あれは文化祭の後片づけのときだった。
「せっ」
ちょうど部室に二人きりになったところで、意を決したように彼女は言ったんだ。
「先輩が、すきです」
おれはここで、とんでもないカンちがいをした。
「先輩って
「あ、いや」
「んー……なかなか好みが
「いえ、その」
「
「……はあ」
「まーでも、おれも陰ながら応援するよ。がんばってね」
そう言うと、彼女は照れたように下を向いた。
すこしズレたメガネのまま、口元だけで笑っていた。
その後、彼女は部にあまり顔を出さなくなってしまった。
たぶん、おれが
それが一回目。
そこからループを
放課後、チョコを両手で差し出すと同時、電光石火で想いをぶつけてきた。
「
正直、おれの心はゆれた。
まだ〈略奪愛しないと進級できません〉というルールを知らされる以前のことだ。
ゆれにゆれた。ゆれまくった。右手が、チョコの数センチ手前のとこまで伸びた。
(だめだ)
女子からすれば、ふかく考えすぎだって笑われるかもしれない。
でもおれは考える。本命のチョコを受け取る
「ごめん」
「……あ」
「ほんとごめん」
彼女は悲しい顔で下に向いた。
口元をきゅっと強く結んで。
その後、二本松さんが退部届をだしたことを知ったのは、ふたたびループする一日前のことだった。
うしろから車がきた。
車一台分ぐらいのせまい道なので、おれが彼女の自転車を押して
「あ、あの……目当てっていっても、小説に興味があるのはホントで……」
知ってるよ。とくにラノベに詳しいもんな。サドルの下の自転車のカギにも、有名なラノベのキャラのキーホルダーがぶら下がっている。
告白になれた、のではないと思うがおれの頭は冷静だった。
今の心をそのまんま、言葉にできた。
「二本松さん」
「はい……」
「おれ、好きな人がいるんだ」
ですよね、と彼女はかすれた小声でいった。
気弱な彼女がせいいっぱい強がっているようで、胸がいたい。
「じゃあ、あの、これで……失礼します……」
「うん。気をつけて」
おれは彼女が見えなくなるまで見送った。
きっと、彼女に会うことは、もうない。次の部活は明後日の水曜だが、二本松さんは部室にあらわれないだろう。
「はーーーーーーーっ」
「特大のため息かよ。今のでアニキの幸せ、だいぶ逃げてったぞ?」
自分の部屋に、
中学二年生の14才で年下、かつとなりの家の妹なのに、いつからか(あるいは最初から)おれにタメ口だ。
(あれ? 今日……、月曜日だよな)
おれの記憶では、あの夏祭りのあとは水曜に部屋にきていた気がするが。
まあ、こいつは気まぐれだからな。こうやって夕食のあとにふらっとおれの部屋にくるのは、それほど珍しいことではない。
そして目的はおれではなく、
「ちっ! こんのぉ! あーっ! さいあくーっ!」
ゲームだ。オンラインでみんなと戦うみたいな、そんなヤツで遊んでいる。
こっちはこっちで明日の予習をするか、と机にむかったとき、
「お姉ちゃん、よろこんでたよ」
ふいうちされた。声のトーンを落として、真面目な感じで話す智花。
「シンちゃんとたくさんしゃべっちゃったー、って。楽しかったよー、ってさ」
「そっか」
「内心うれしいクセに~。『そっか』とかクールぶっちゃって」
二本松さんをフッたこともあって、素直によろこべないんだよ。よろこべるテンションじゃないんだ。
「つきあっちゃいなよ」
「おい。カツのことは知ってるんだろ?」
「パードン?」
「ごまかすなよ。カツから告白されてオッケーしたって聞いてるくせに」
携帯ゲーム機をおいて、ベッドの上にあぐらをかいた。
「知らない。ほんと」
おれと智花の視線がぶつかる。
たがいに、きょとんとした表情だ。
知らない?
いや……花梨が話しそびれただけかもしれないな。なにせ昨日のことだし。
「おはよう」
おれは次の日も、花梨を待ち伏せした。
もう〈しつこくしたら嫌われるかも〉とか〈いっしょの登校はイヤかも〉とか、そんな小さいことを気にしている段階ではない。
いっそ「嫌い」とはっきり言われるまで、こっちから押しまくろうと思っている。
「シンちゃん! 今日も待っててくれたんだ」
「あのさ……おれといっしょでも……」
「いいに決まってるじゃん!」
意外にも、おれのほうが
あまりにも、花梨がうれしそうにしたから。
いつもの通学路。
おれは過去の花梨に鍛えてもらったトークで、現在の花梨を楽しませる。
あはは、ととなりで笑う彼女をみていたら、ほんの一瞬、こいつの彼氏になれたような錯覚を起こした。
「じゃ、またな」
「えーっ? まだだよ。せめて校舎に入るまで。ねっ?」
「おまえがいいなら……」
視線を感じる。
校舎の一階の窓の向こう。
(二本松さん)
おれが気づいたのに気づくと、彼女はサッと顔をふせた。
「好きな人がいる」からの登校デートっぽい光景。
彼女にはつらい場面のはずだ。
さぞショックだろうと思ったんだが――――
彼女はそんなに、弱くなかった。
「先輩」
放課後の帰り道。
校門を出たところで呼び止められる。
「あ、あの……」
カゴにのったスクールバッグに、恵、という漢字がおしゃれな線で書かれたキーホルダーがついていた。
二本松
それが彼女の名前だ。
「ふしぎな、その、夢のようなお話なんですけど」
視線はうつむき気味で、おれと目を合わせてくれない。
「私……なんどもなんども、先輩を好きになって、それで」
両手で自転車のハンドルをにぎったままの二本松さん。
黒ぶちのメガネのレンズに、くすんだ黄色みたいな夕日が反射していた。
胸元でゆれる赤いリボンタイ。
そよ風で〈ふわっ〉と横に流れる伸びかけのショートボブ。
半袖のブラウスの下に、しっかりTシャツを着ているところが、いかにも寒がりの彼女らしい。
「なんども、あきらめてるんです。そんな経験をどこかでしたような、おかしな感覚がありまして……ご、ごめんなさい。ヘンな話、しちゃってますね……」
ちっとも、だよ。
実際にループを体験しているおれにとっては、彼女の話はファンタジーでもなんでもない。
力強いリアル。
「それで、その、結論といいますか……あのっ! これからは私っ!」
力強い目。
力強い声。
おれは女の子の強さを、
「先輩を、絶対にあきらめないつもりです!」
放課後で、まわりにはたくさんの生徒がいて、
じろじろと注目されているのがわかる。
その中に、一人、見なれた後ろ姿があった。
一万人の中からでも、見つけられる自信があるあいつが。
タイミング的に、いまの二本松さんのセリフを聞いていないはずがない。
気を
おれの視線の先を、後輩の彼女も追いかけた。
「きっと私にもできるんだから……」
わーっ、と近くの男子生徒がバカみたいに
が、おれの耳には確かに届いたんだ。
長い
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