第24話

「本当に何してんだろう」

 落ちたピースに目をやると、強烈な無力感に襲われた。もうどうでもいいや。僕は床を這って、落ちたピースを拾い上げると、再びジグソーパズルの前に座った。

「進めとくか」

 僕はかなえたちに対する無力感と、嫉妬と嫌悪感ともうなんなのかもわからないドロドロとした感情を腹に押し込んで、あまりにも美しい街並みを作り上げることにした。

 

 かなえが戻ってきたのは、出て行ってから三十分も経ってからだった。公園からジグソーパズルを買って僕の部屋まで帰ってくるよりずっと長かった。

「長かったですね」

 自分の言葉に棘があるのを自分で感じた。

「ごめんね・・・」

「謝る必要なんてないですよ」

 かなえの方を見ずに僕はそう言った。責めるつもりなんてないのに、嫉妬の塊の僕の口からはそんな言葉ばかり出てしまう。

「でも、本当にごめん」

 かなえはこちらに来ることもなく、扉の前に佇んでいる。

「ジュンヤはなんて?」

 僕の問いにかなえは押し黙ってしまった。

「なんかあったんですね」

 僕は初めてかなえの方を向いた。

「うん・・・」

 かなえは今にも泣きそうな顔をしている。その表情を見て、さっきまでの嫌な気持ちが何処かへ行ってしまった。僕は嫌な人間だから。

「大丈夫ですか?」

 我ながら現金なものだが、悲しんでいるかなえを見てなんとかしてあげたいと思ってしまう。

「大丈夫」

 そう言いながら泣きそうな顔をしている。

「大丈夫じゃないでしょ?」

 女性が口にする大丈夫と言う言葉は大丈夫じゃない、と何処かで聞いたことがある。僕はゆっくりと立ち上がり、かなえを見つめた。相変わらず泣きそうな表情で立ち尽くしている。やはりどう見ても大丈夫ではなさそうだ。僕はゆっくりとかなえの方へ近づくと彼女の眼の前で立ち止まり、少し屈んでかなえの顔を覗き込んだ。

「本当に。大丈夫じゃないでしょう?」

 彼女は、答えなかった。僕はそっとかなえの腕を掴むと、そっと抱き寄せた。

「これはルール違反じゃないですよね」

 かなえは何も言わず僕の胸の中で頭を縦に振った。

「落ち着いてからでいいですから。何があったか、教えてくれませんか?」

 話すだけでもいい、そんな気がしたから僕はそう言っていた。彼女は鼻をすすり始めた。暖かい吐息が、服越しに僕の胸を温めていた。僕は悩んだが、かなえの頭の上にそっと手を置いた。

「今くらいは我慢しなくてもいいんじゃないですか?」

 自分でもびっくりするくらいキザな言葉が僕の口から出て来るとは思わなかったが、とうとうかなえは声を殺すこともせずに嗚咽を漏らした。僕はかなえの頭にそっと手を乗せた。僕はかなえに対する同情の中に少なくない、ジュンヤに対する優越感が混じっているのを感じた。今は僕こそが彼氏なのだ、と。

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