第17話

「いただきます」

「いただきます」

 かなえの後に続いてそうつぶやいた。いただきます、なんて何年ぶりに言っただろうか。そんな律儀なかなえにも僕は惹かれていく。

「結構おいしくできたよ!」

 かなえは僕が先に食べるのを待っている。僕はかなえの作ったチンジャオロースを口に運んだ。かなえが、僕の言葉を待っている。

「美味しいです」

 僕はわざと悔しそうに、そう言った。

「でしょう!参ったか!」

 かなえは、どうだと言わんばかりに笑ってから、自分も食べ始めた。

「お米の硬さは大丈夫?」

 かなえは少し心配そうに僕に尋ねてくる。

「はい、バッチリです」

 硬めなご飯が好きな僕にとってはぴったりだった。

「良かったー。キミの好み聞く前に炊き始めちゃったから少し不安だったんだ」

 かなえはホッとしたのか、箸を持ち直してかなえ自身も食べ始めた。その食べっぷりに僕は見とれてしまった。

「何よ。なんか文句ある?」

 視線に気づいたのか、かなえはムッとした表情で僕をにらんだ。

「いや、素敵だなあと思って」

 僕は思った通りにそう言った。

「何、急に」

 かなえは頬を少し赤らめながらも食べ続けている。

「たくさん食べる女性は素敵です」

 からかい半分、本心半分で僕はそう言った。

「もう。いいから食べよ?」

 かなえは困った顔でそう言った。

「はい。すげーうまいです。完全に胃袋掴まれました」

「んふふ。良かった」

 満足そうにそう言うかなえが、とてつもなく可愛い。無意識にかなえへの思いを言葉に乗せて滲ませていく自分に気づき、少し恥ずかしくなる。


「ね、この後どうする?」

 皿の上がだいぶ片付いた頃に、かなえがそう尋ねてきた。

「そう、ですね」

 特にしたいこともなかった。と言うより、僕はすでにかなえと一緒にいられたらそれで良かった。

「かなえさんはしたいことないんですか?」

 かなえは斜め上を見つめながらうーんと唸った。

「そうだなあ。思いつかないなあ」

 まずい。このままだと、何もなく終わってしまう。

「続き」

「え?」

「続きをしませんか?」

 かなえは頭上にはてなマークを浮かべている。

「かなえさんが、学生時代に行った場所。行き尽くしませんか?」

 とっさに出てきた提案がそれだった。

「それとももう行き尽くしました?」

 僕は、かなえに恐る恐る尋ねた。

「うーん。たくさんある」

 考えたのち、なぜか申し訳なさそうにかなえさんは言った。

「たくさんあるけど、なんか申し訳ないなー」

「何を今更」

 僕は、笑顔で言えたと思う。

「せっかくなんだから色々回りましょうよ。かなえさんの学生時代のこととか、すごい気になるし」

 本心だった。

「本当に?せっかくの休みなのにいいの?」

「はい、もちろん。かなえさんさえ良ければ」

 かなえさんは僕の返答に、満面の笑みを浮かべた。

「嬉しい!ほんとは久しぶりに行きたいところあるの」

 かなえは今にも行きたいと言う感じでテーブルの上を片付け始めた。

「あ。あとで洗うんで流しに置いておいてください」

 キッチンへと向かったかなえに僕はそう伝えた。

「本当?じゃあ置いとく。まあ、あとで私が洗うけどね!」

 そう言って食器を流しに置き、水でサッとすすぐと、かなえは僕の方へと戻ってきた。出かけた後もかなえさんは再びこの家へと戻ってきてくれるつもりなんだ。そう思うと、僕は胸が熱くなった。

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