第15話
かなえが、楽しそうに鼻歌を歌いながら筍の水煮の水を切っている。買い物から帰り、僕は台所に立とうとしたが、かなえに強く止められたのだった。
「男が台所に立つのか?」
かなえは亭主関白風なことを言う。
「立ちますよ、時には」
かなえはノリ悪いなーなんて言いながらも、僕をソファへと押し戻した。
「私が作るから黙ってテレビでもみてなよ」
「普段どんな料理作るんですか?」
かなえはさっと水洗いした筍をまな板の上に乗せてから、首だけ振り返った。
「最近は全然しません」
「何を自信満々に言ってるんですか」
僕のツッコミに、かなえは満足したように、メロディーもバラバラな鼻歌の続きを少し口ずさみながら、話し始めた。
「お料理は好きよ?自信もあるし。でも自分一人のためにお料理する気にはならないなー」
「あ、それわかります」
「一人分の料理って難しくない?」
僕にも思い当たる節がある。一人分を作ろうとしても、どうしても作りすぎてしまう。
「食べきれないんですよねえ、作りすぎちゃって」
「そう!」
かなえは腕を組んでいかにも憤慨しているとでも言うようにしている。
「キミは男の子だからまだいいよ。私は女の子だからそんなに食べる方じゃないの」
「めっちゃ食べそうですけどね」
茶々を入れると、かなえは僕の方をキッと睨みつけて続けた。
「食べることは好きだけど、そんなにたくさんは食べません」
「すみませんでした」
僕が平謝りすると、かなえは渋々許したようなそぶりを見せた。こんなやり取りも、僕にとってはいちいち幸せに感じられる。
「例えばカレー作ると、もう何日も続けて食べなきゃならなくなるから、もうずっと作ってない」
僕も、カレーは外で食べることにしている。カレーのアレンジはもうし尽くした。
「だから!」
かなえはにっこりと微笑みながら僕の方を見つめた。
「こうやって、誰かのためにお料理ができるのが嬉しいの」
その言葉は、僕の表情を変えるのには十分すぎた。多分、相当緩んだ顔をしているに違いない。
「あれ。顔赤くなってない?」
かなえはからかう表情で、僕を見つめる。僕はそれを無視してテレビの画面へと視線を移した。
「彼氏さんに作ってあげたらいいじゃないですか」
僕は、ぶっきらぼうにそう言った。
「うう・・・」
かなえが渋い顔をしている。
「そりゃ、会えればそうするんだけどさ」
かなえは、急速に元気がしぼんでいくように、言葉の最後の方が弱々しくなっていくのを僕ははっきりと感じた。別にかなえを悲しませたいわけじゃないのに。
「ねえ、男の人ってさ」
振り返らなくてもわかる。かなえは今、不安な顔をしている。声でわかる。
「彼女とそんなに会わなくても平気なの?」
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