第14話

キャンパスを出て、再び商店街を並んで歩いた。どこへ行くという当てはなかったけど、ただ並んで歩いているのがとても心地よかった。

「さ、スーパー行くよ」

「え?」

 僕がこれからの予定を聞こうとするより先に、かなえが言った。

「一緒にお買い物をして、一緒にお料理をするの。なぜならカップルだから」

「はあ」

 かなえは鼻歌を歌いながらまた歩き始めた。僕があっけにとられていると、かなえが振り向いた。

「どうした、後輩くん」

「いえ、あの」

「そうか!」

 また何か良からぬことを思いついたのだろう。次の瞬間、かなえが勢いよく僕めがけて突進してきた。

「恋人だもんなあ。うん、うん」

 あっけにとられていた和也の左手に暖かい感触が伝わってきた。手を握られたことに気づくまでに少し時間を要した。

「なっ!」

「キミはこれがお望みだったんでしょう?」

 満足げにかなえが微笑んでいる。

「さ、行こー」

 繋いだ手をブンブン振りながら僕をグイグイと引っ張り始めた。

「仕方ないですね」

 僕もここまできたら、とかなえの考えに乗ることに決めた。

「それでこそ、だね」

 かなえはにっこりと笑いながら歩調を合わせて歩き始めた。

「そういえばキミはどこのスーパーを使ってるの?」

「僕ですか?」

 この付近には三軒もスーパーがひしめき合っている。ポイントがつくスーパー、オーガニックを扱った高級スーパー、安さが売りの業務スーパー。僕はその中の一番利用しているスーパーを思い浮かべた。

「僕は業務スーパーです。安いんで」

「あ、私と一緒だ。部屋からは一番遠いんだけどね」

「そうなんですよ」

 安さには変えられないよね、なんて地元スーパーについて語らい合いながら歩いていると、あっという間にたどり着いた。

「話してるとあっという間につくね」

「本当に。一人だとあんなに遠いのに」

 僕が同意している間も無く、カゴをカートに乗せてかなえが近づいてきた。

「はい、彼氏の仕事」

「あ、はい」

 僕はかなえからカートを託された。

「さ、何食べる?」

「かなえさん、そもそも料理できるんですか?」

 かなえはムッとしながら頬を膨らませた。

「バカにしてる?これでも私はちゃんと自炊してますー」

「あ、尊敬です。敬意を抱きます」

「思ってもないこと言わないの」

 かなえはむくれたまま、野菜売り場をうろつく。僕はその後をついていく。

「で。キミは何が好きなの?」

「あー。中華ですね」

「ほほう。米をたくさん食べるタイプだな?」

「ご明察」

 ふふん、と鼻を鳴らしながら野菜をカゴに入れ始めた。どうやらメニューが決まったらしい。

 ピーマン、タケノコ。

「先生、チンジャオロースですか?」

「よくわかったな。嫌いか?」

 かなえは振り向きもせずに、肉売り場へと進んでいく。

「大好きです」

 僕は少し強い口調で答えた。そのことに僕自身が少し驚いた。

「私も大好きだよ」

 かなえは振り返って、笑顔でそう答えた。

 彼女が答えた、好きの対象がチンジャオロースのことだとわかってはいても、その言葉は僕の心臓を高鳴らせるには十分だった。僕がチンジャオロースだったら良かったのに。

「どうした?彼氏」

 不思議そうに立ち尽くす僕をかなえはキョトンとした表情で見つめている。

 ああ、そうか。僕はかなえのことを好きになったんだ。

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