第13話

「で」

 ミユキはかなえが教室から出て言ったのを確認するとさっきまでかなえが座っていた僕の隣に勢いよく座った。

「キミとかなえはどういう関係なのかな?」

 なぜだかこの人に隠し事はできないと僕は感じた。背筋を少し伸ばしながら、昨晩からの出来事をみゆきに簡潔に話した。どこかかなえのお父さんに会ってでもいるかのように。

「なるほどねえ。や、私の親友が申し訳ない」

 ミユキは両手を合わせて僕に謝って来た。

「いや、僕もそんなに悪い気はしてないんで」

 本心だった。

「てっきりあのダメ男から乗り換えたのかと思った」

「ミユキさんも知っている人なんですか?」

 僕は興味津々に聞いた。本人よりもミユキの方がずっと聞きやすい。

「まあねえ。何回か会ったことあるし。君と同い年じゃないかな。そんなに気になる?」

 みゆきはいたずらな表情を浮かべながら僕の顔を見ている。

「そ、そんなことは」

 思わず慌ててしまう。なぜこんなに慌てるのか、僕は特に考えないことにした。

「まあいいや。キミも少しは聞いてると思うけど。かなえ、ジュンににゾッコンなんだけど。向こうは私のかなえに対してに冷たくてねえ」

「それはなんとなく聞きました」

 僕は今朝のやり取りを思い出していた。

「そう。私は本人がいいならいいんだけど、あんまりにも遊ばれてるみたいだからなんか癪でさ」

 ふと昨晩の飲み会で秀幸から聞いた同級生のチャラいエピソードを思い出して苦い気持ちになった。

「僕の同級生にも遊んでるやつ、います。僕もそいつ嫌いだからなんとなくわかる気がします」

「それならキミがあの子の目を覚ましてあげてよ」

 ミユキはニヤニヤしながら僕にそう告げた。

「そんな無責任な」

 僕は困りながらも、まんざらでもない気分になってしまっている。しっかりしろ、自分。

「お、かなえが戻って来た」

 ミユキは足音のする方へ視線を向けながら言った。僕たちの視線の先には急いで駆けてくるかなえがいた。

「そんなに急いでどうしたの」

 相変わらずニヤニヤしながらミユキが言った。かなえは息を切らしていて返事ができない。

「そんなに急がなくたって、かなえの大事な彼氏は取らないわよ」

 思わず僕の方がビクッとしてしまった。

「ちょっと!」

「ごめんごめん」

 ミユキは悪びれもせずに笑って言った。

「かなえ、教授に会っていくの?」

「ううん。ただ久しぶりに学校に来たかっただけだから」

 息が整ってきたかなえは答えた。

「そう。教授悲しむだろうなあ」

 かなえが困った表情を浮かべている。ああ、僕がいるからか。

「僕ならいいですから、行って来たらどうです?」

 僕は空気を読んで提案したけれど、なぜかミユキに却下された。

「キミは気にしなくていいのよ。せっかく来たんだから二人で楽しんでって」

 ミユキは朗らかに笑った。

「でも、せっかく来たんですし」

 僕はかなえを横目に見ながら言った。自分のことなのに何も言わないかなえはニコニコしている。

「どうせ今度また飲み会でも開くよ」

 そういうとミユキは僕の耳元にぐっと近づいて来た。

「それに今日だけなんでしょ、あんたたちの関係。頑張るなら今しかないよ?」

 ミユキはそう僕の耳元で囁くと、また元の位置に戻った。

「ちょっと。今絶対私の悪口言ったでしょ」

 あまりに突然の出来事に頬を上気させている僕と平然としているミユキとをかなえは冷めた目で見下ろしている。

「二人だけの秘密に口出さないで」

 ミユキは意地の悪い表情を浮かべながらゆっくりと席から立ち上がった。

「さてと。私は行くけど。人がいないからってあんまり激しいことはダメだよ、学校なんだから」

 僕とかなえは二人してみゆきに抗議しようとしたが、すでにみゆきは高笑いしながら僕たちの元から立ち去って行った。僕とかなえは顔を見合わせて、どちらともなく笑った。

「何言ってんだか」

「でも素敵な人ですね」

 かなえは少し困った顔を浮かべていたが、僕は感じた通りのことを言った。

「うん。私の数少ない親友」

 かなえはまるで自分がのことを褒められているかのように、嬉しそうに笑った。

「さ、行きますか」

僕はゆっくりと立ち上がり、かなえの隣に立った。

「だね。次行こうか」

僕たちは少しだけ名残惜しい気持ちを残しながら、慣れ親しんだ教室をあとにした。

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