第4話

 大浴場を後にして、再びロビーへ。

 予想通り、客の姿もなく、従業員も自販機コーナーから遠い所に少人数で働いているだけだった。

 周囲を気にしつつ、ビールを売っている台の所へ無事ついた。今度はほとんど躊躇いを持たずに、素早く支払いを終えた。浴衣の懐へ隠す。瞬間、肌に伝わった冷たさに叫び出しそうになるのを抑えながら、隣の台の前に立った。これだけ他の台とは違って、「蒼田旅館」のロゴが描かれている。

 中にはずらっと「蒼田ソーダ」の瓶が並んでいた。

 あの子のおすすめしていたやつ、これか! 父さんも飲むか分からないけど、一応2本買った。

 少し青みがかった瓶には透明なソーダがとろんと満ちていて、俺はわくわくしながら部屋に戻る道を急いだ。

 部屋は3階。階段を上っていると、例の彼女に出くわした。驚きで瓶を落としそうになりながら挨拶を返す。……と、彼女がほうきを持っていることに気づいた。

「わ……偉いねこんな夜遅くに……蒼田さん、だったよね?」

「もう終わるところだけどね。あと、ソーダでいいよ。君はなんて言うの?」

「俺は狐鼓こづつみつつみ。よかったら鼓って呼んで……あっ、あと。お疲れ様」

 手に持っていた瓶の1本を差し出す。蒼田さん……ソーダ、は受け取ろうとしなかったが、押し付けて急いで階段をかけ登った。ちょっと照れくさかった。

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