第36話 禁忌の魔装具6

「行くのか。もう少し滞在して欲しかったんだがな」

「お姉ちゃん……」


 ルナの部屋に戻った後、部屋を訪れてきたのはターニャとニーニャだ。

 ダイバスに蘇生の指輪がないとなれば、ソルとルナが大砂漠にいる理由はない。

 また指輪を探す旅に出るため、ターニャとニーニャにそのことを告げた。


「やることがあるんでな」

「そうか。なら仕方ないな」

「とは言っても、ニャラーダ経由で地竜の革鎧の製作をダイバス一と言われる鍛冶屋に依頼しているから、それが出来上がってからだけどな」

「なるほど。では実質あとどれくらいだ?」

「1週間以内というところだな」

「1週間か」

「やった! まだもう少しお姉ちゃんといられるんだね!」

「うん、もう少しね」


 ニーニャの頭を撫でるルナ。

 撫でながらその視線はソルに向いた。


「それにしても、貴重な地竜をまた私の為に使って……いいんですか本当に」


 ルナが身に付けている革鎧はウェステリアを出る時に買った間に合わせだ。

 思いもよらず地竜という素材を手に入れた今、加工しないわけがない。

 竜の素材は耐物性能も耐魔性能も基本的に高いため、ここで革鎧を新調するに越したことはないのだ。


「いいんだよ。防具はいいものにしとけ」

「愛されてるな、ルナ殿は」

「わかりますぅ? やっぱり愛されてますぅ?」


 でゅふふとルナがにやけ顔を晒す。

 それをわざわざ訂正するのも面倒くさい。


「お前もニャトスに愛されてるだろ?」

「『も』!? 今、ソルさん、『も』って言いましたよ!?」

「ニャトスか……まぁ……そうなのかな」


 ソルもターニャもルナの発言を無視。

 今じゃないと察したのか、ルナは膨れ面をしながらもターニャの方の話題の方が気になるのか、目をキラキラとさせ始めた。


「ニャトスさんからは何と?」

「まぁ……考えて欲しいとな」

「それで? それでターニャさんは?」

「ニーニャ様の護衛もある。ニャトスの想いを無碍にするつもりはないが、今は考えられないと言ってある。私の他に腕に覚えのあるニャ族のメスが現れたら、考えてみるつもりではいる」


 一歩前進といったところか。

 十分だろう。


「護衛はどう決まるんだ?」

「年一回、ニャ族内で大会があるんだ。そこで決まる。そうそう、その大会ではないんだが、ソル殿に頼みがあってな」

「頼み?」

「竜喰らいの英雄の話はニャ族内はもちろん、ガル族とキー族にも当然伝わっている。特にガル族は戦うことが生き甲斐でな。腕に覚えのある者達が、手合わせしたいとのことだ。顔繋ぎをして欲しいと頼まれてな」


 なるほど。

 竜には挑みたくないが、竜喰らいに挑めば自分の実力が竜にかなうかどうかがわかる。

 それを確かめたいということだ。


「どうせ鎧が出来るまで暇だしな。別にいいぞ。それでターニャの面目も立つんだろ?」

「ありがたい。そうしてくれると助かる」


 獣族の戦闘種族か。

 少しは楽しめるかもしれない。


「じゃあ呼んでくる。ニャトスと共に自警団訓練場へ向かっていてくれ。そこで落ち合おう」

「わかった」

「ではお連れしよう」


 そう返事をするターニャの後ろ、部屋の扉からニャトスがにゅるっと現れる。

 どこにいたのやら。

 大方、ターニャと顔を合わせるのが気まずくて陰に隠れていたに違いない。


「私は見ているだけでいいんですよね?」

「お前はお前で魔弓の練習もしとけ」


 せっかく地竜の巣から手に入れた魔装具だ。

 しかもルナにうってつけ。

 練習するに限る。


「ルナ殿にはニャ族からの申し入れがある。身軽さが自慢のニャ族としては、ルナ殿のハコ渡り……だったか? それと勝負してみたいと」

「それって追いかけっこですか?」

「まぁそういうことだ」

「うぅ……基本動きたくないものぐさなのですが、追いかけっこならご協力します」


 斬り合いや殴り合いであればルナは退くつもりだったようだが、内容が追いかけっこなら自分の領分と思ったのかもしれない。


「じゃああとでな」


 ターニャとは部屋の前で別れると、ソルとルナはニャトスに連れられダイバスの自警団訓練場へと向かうために外へと出た。


「ヘタレめ」

「な! ヘタレとは心外だ!」


 別にソルは誰がとは一切言っていない。

 その言葉にニャトスが勝手に反応しただけだ。

 それに気がついたようで、ニャトスがポリポリと獣耳をかく。


「次の大会でターニャの後釜が出てくるといいな」

「というか、ニャトスさんが側近で1番なんですよね? 育てればよくないですか?」

「確かにな。いないのか? 目ぼしい奴は」

「いるにはいるのだが……」

「「だが?」」


 ソルとルナの声が重なる。

 ニャトスは言いづらそうに、重い口を開いた。


「手取り足取り教えたらな、ほら、何というか、間違いがあるかもしれんだろう?」


 ニャトスの顔が少しずつにやけ、鼻の下が伸びていく。

 鼻息も少しずつ荒くなっていく。


「そいつはターニャもよく知っている奴だし、それをターニャに知られたら――いや、でもそれでターニャが嫉妬して『私のことも抱け!』となる流れも……あるな」

「ねーよ」

「ないですね。というか、その顔気持ち悪いんでやめてもらっていいですか?」

「ぐはっ」


 ソルは慣れたものだが、ソル以外に向けられたルナの毒は見事に刺さり、道の真ん中で膝から崩れるニャトスなのだった。



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