第32話 禁忌の魔装具2

「すごい宴会だな……」


 大勢の人と接するのが好きではないソルは目の前に並ぶ料理と、自分とルナがその主賓の席に案内されていることに憂鬱になる。


「少し気持ちが悪くなってきました」


 憂鬱なのはルナも同じだった。


「我慢しろ、俺もだ」

「うぅ……」


 ターニャとニャトスの面子を保つために嫌々ながらも参加した宴会だ。

 少しは滞在しなければ申し訳ない。

 ターニャとニャトスにはすぐに席を外すという前提で宴会に参加するという条件をつけた。

 少しの辛抱だ。


「この度は我々の巫女と側近の二傑を救っていただきありがとうございます」


 ニャ族の族長だというニャラーダが席に着いた2人の前で跪く。

 ニャトス達に比べると少し皺が目立つ老齢ながらもまだまだ現役と言える風体のニャ族だ。


 ソルはそんな堅くなるなと軽く手を上げると、ニャラーダも姿勢を楽にする。

 ターニャとニャトスは部屋で休んでいるニーニャの護衛でここにはいない。

 その代わりに、ニャラーダの後ろには見知らぬニャ族の男がいた。

 漢という感じのニャトスと比べると優男という感じだ。


「セニャンと申します。ニャトス達からは壮絶な旅路だったと伺っております。お疲れ様でございました。また、ニーニャ様を救っていただきありがとうございました」


 ソルの疑問を感じ取ったのか、セニャンはソルと目が合うと表情を緩めて名乗った。

 その自己紹介は何の嫌味も不快感もなくソルに届き、対人折衝能力の高さが窺えた。


 とは言え、ターニャもニャトスもろくな出会いをしていない。

 ターニャはいきなり斬りつけてきた。

 ニャトスは死にかけだった。

 その二人と比べてしまえばどんな挨拶も上品に見えるのかもしれない。

 ただセニャンの纏う柔和なオーラは、今のターニャやニャトスにも纏うことは出来ないだろう。


「成り行きだ。だからそんなに畏まらないでくれ」

「さすがは竜を喰らう者ドラゴンブレイカー、その器も大砂漠のように広いのですね」


 ただ、やり辛い。

 ソルはこういう社交辞令的なやり取りが苦手だった。

 ターニャやニャトスのように飾らない者の方がやり易い。

 ソルは愛想笑いを浮かべるだけでセニャンとの会話を終えようと試みる。


 それだけでソルがこれ以上の会話を求めていないと察したセニャンは笑みを浮かべて頭を下げるとそのまま黙した。

 こういう空気の読み方も出来るのであればありがたい限りだった。


「また変な二つ名が付いちゃいました……喰らってばかりですね私達」


 目の前に並ぶ取り分けられた料理を手に取りパクパクと口にしながらルナが残念そうに呟く。


「喰いしん坊のルナ、いいんじゃないか?」

「ネーミングセンスなさすぎです。出直してください」


 ルナにしては珍しくテンションの低い切り返しだ。

 よほどこの場が辛いと見える。

 ルナの腹が一杯になったタイミングでこの場を離れることを考えていると、ニャラーダが再び話し始めた。


「して、ソル様、ルナ様。ニーニャ様をここまでお連れいただいたのは成り行きとのことですが、お二人の行き先をお伺いしても? 何かお手伝いできることがあるのであらば我らニャ族一同全身全霊でもってお手伝いさせていただきます」

「そうだな……ある魔装具を探している。蘇生の指輪というのを聞いたことあるか?」

「……いえ、残念ながら」

「そうか、じゃあ大砂漠の地下に眠ると言われている古代遺跡について知っていることがあれば教えてほしい」

「大砂漠の地下の遺跡ですか……」


 ニャラーダは目を瞑り、俯いて思案する。


「地下の遺跡のことはわかりませんが、ここダイバスは古代遺跡を活用して作った街だと言われています」

「なんだと?」

「それはまた……」


 ニャラーダの言葉に、ルナの憂鬱そうな顔にも生気が宿る。


 地下ではなく、地上にあったということか。


 砂漠の中にありながらもダイバスを囲む環境は確かにいい。

 加えてターニャ達三傑が持っていた魔装具。

 地竜が持っていた魔装具。


 魔装具があるということはどこかに遺跡があったということだが、そういうことか。


「この街にある魔装具は、ターニャ達の魔装具だけか?」

「いえ、他にもあります。ガル族もキー族も持っています。他部族の管理下にあるものは誰に貸し与えているかわかりませんが」

「なるほどな。誰が持っているかはわからずとも、どんな魔装具かはわかっていると」

「そういうことです」


 その中に蘇生の指輪はないということだ。

 一縷の望みを抱いていたが、そんなうまい話はないようだ。

 ルナも表情には出さないようにはしたものの、その落胆ぶりは見て取れた。

 そしてそれはニャラーダも同じようだった。


「蘇生の指輪とは、他者を蘇らせる魔法を込めた指輪、ということですよね?」

「えぇ、そうです」

「……条件付きではありますが、似たような指輪なら――」

「あるんですか!?」


 ルナが食いつく。

 それもそうだ。

 探していたものがあるかもしれないとなればその興奮も致し方ない。


「……ご期待には添えないものと思われますが、明日、お持ちします」

「聞きました!? ソルさん! あるんですって!」

「落ち着け。期待には添えないと言っているだろう。期待するな」


 互換の指輪と同じように、代償が伴うのだろう。


「条件付き、なんだろ?」

「はい。その条件は、お二方の目で確かめられた方がよいかと思います」

「わかった」

「お願いします! いやぁ〜明日が楽しみですねぇ」

「だから期待すんな。条件見た時の落胆ぶりが目に浮かぶ」

「大丈夫です。どんな条件だろうと、覚悟は出来ています」


 さっきまでのテンションの低さが嘘のように、ルナは満面の笑みで食事を続ける。

 覚悟を決めているというのだ。

 恐らくは自分の命と引き換えに発動する魔法かもしれないということを想定しているのだろう。


 その場合、ルナを止めることはソルには出来ない。

 ルナの抱えている想いをどうするかはルナにしか選択する権利はないのだから。



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