第31話 禁忌の魔装具1

 討ち取った地竜はそのままルナのハコへと回収した。

 その他、地竜の魔石も3つとかなりの収穫だ。

 何よりも大きな収穫は、地竜の巣にあった魔装具だろう。


 蘇生の指輪ではなかったものの、ルナの長距離戦対策として必要だった弓があった。

 弓の使えないルナは嫌な顔をしたが、魔力を装填して放つことが出来る弓であり、ルナにとって最適な弓であると言える。

 ターニャ達もその弓をソル達が貰い受けることに全く異論は唱えなかった。


「使いこなせる気がしません」


 そんなことを言っていたルナだが、実際使ってみると思いの外合っていた。

 本当の矢を弾くわけではないこともあって、魔力を通せば弦が張られ矢が装填される。

 一本の矢をイメージして指を離せば、魔力の矢として放たれる。

 魔力を込めれば込めるほど威力が上がるのもルナ向きだった。


「使いこなせるようになれ。お前の命の要になる武器だ」

「何をおっしゃいますか、もはや私には敵無しです」


 ソルが諭すも、使い勝手がよかったのかルナは満面のドヤ顔。

 いつもながらの調子の良さだった。


 結果として収穫は上々といったところだが、1つだけ残念なことがある。

 ソルは大峡谷の底のどこかに砂漠の地下に埋もれるという遺跡へと通り道があるのではないかと思っていたのだが、らしきものは全く見当たらなかったのだ。


 地竜の血を少なからずかぶったソル達に近づいてくる魔物はほぼおらず、安全な旅路を歩むことが出来たため、探索もじっくり出来たわけだが、御目当てのものは見つからず。

 そのままソル達は無事に大峡谷を抜け、ダイバスの街へと辿り着いたのだった。


「うわぁ、大きな街ですねぇ」

「大砂漠の奥地にこんな立派な街があったとはな」

「自給自足が基本だから、外の世界のような贅沢は出来ないがな」


 ターニャはそう謙遜するが、オアシスから水を引いて水耕栽培をしていたり、畜産も行ってもいるようだ。

 野菜も肉も手に入る。

 加えて、地下から取れる鉱石を使って鍛治も行う。

 この街での生活に困ることはないように思えた。


「魚が食えないのだけが、唯一の難点か」

「む、食えるぞ? もう少し南に行けば海だからな。オアシスの泉にも少なからず魚はいるしな」


 ニャトスがソルの呟き聞き逃さずに補足する。


「マジかよ。本当になんでもあるじゃねぇか」

「何なら住んでもよいのだぞ? ヒューム族に抵抗があるものはいるだろうが、ソル殿達の活躍を話したら大歓迎だと思うぞ。それにニーニャ様救出の恩もある。家の1つや2つ、作らせることも出来るはずだ」

「家をいただけちゃうんですか!」


 いやいや。

 こんな年がら年中暑い地域にはいたくない。

 ルナは家を貰えるということにテンションが上がり気味だが、

 ソルはお断りだった。


「非常に魅力的だが、俺もルナも冒険者なんでね。あ、でもルナ、お前がここに住むなら住めばいいんだぞ?」

「さらりと私だけ置いていくつもりなのショックなんでやめてもらっていいですか」

「そうだぞソル殿、想い合う2人は一緒にいないとな!」


 ニャトスが肩をバンバンと叩いてくる。

 いや、違ぇし。


「俺らのことよりニャトス、あんた、やることあるだろ?」

「ですねぇですねぇ」

「ぬ? ぬぬぬ? なななんのことであろうか?」


 街に戻ったら番おうとターニャに宣言したことをソルもルナも忘れてはいない。

 しかし、ニャトスはこの体たらくである。

 いざ生きて帰ってきてみれば、その後の会話をするのが怖くなったのだろう。

 目が泳いでいる。


 少し前を歩くターニャを見れば、全く気にした素振りもない。

 どうやら脈なしか。

 ソルはニャトスの肩を軽く叩いた。


「ご愁傷様」

「ななな! まだわからんであろう!」

「そうですソルさん! 乙女心は複雑なんですよ! 私にはわかります! 照れ隠しなんです!」


 ルナが言うと全く説得力がないのは何故だろうか。

 いずれにしろ、2人がうまくいこうがニャトスが振られようがソルには関係ない。

 死線をくぐり抜けた仲間と呼べる者達同士が幸せになってくれたらとは思うが、それはターニャの気持ち次第だ。

 そこにソル達が介入する余地はない。


「とりあえず適当に宿を探す。あとはそっちでやってくれ」


 ソルのその言葉に、ターニャが振り向いた。


「何を言っているんだ。貴殿達はニーニャ様を救い、私やニャトスの命までも救い、更には竜喰らいを成した英雄だぞ? 我々の最大のもてなしをさせてくれ。寝床も食事もだ。ソル殿が望むなら女も用意する。みな我先にとソル殿の寝床へ行きたがるだろうよ」

「……ターニャさん?」


 ターニャの言葉に、ルナの顔つきが変わる。

 そうなることがわかっていたかのように、ターニャは微笑んだ。


「ふふ、すまない、ルナ殿。貴殿がいるのにソル殿がそんなことするはずもないか」

「いや、別に責任とらなくていいならいくらでも――」

「ソルさん!!」

「なんだよ、俺も男だ。夢はある」

「そんな夢は夢のままだからいいんですよ!! それに女性を抱かずに三十を迎えれば魔術師になれるって言い伝えもあるんですからね!!」

「なんだと?」


 ルナの発言に思わず興味をそそられた。

 三十を迎えれば、互換の指輪がなくとも魔法が使えると。


「ほら、興味湧きました? おいそれと女を抱いてはいけませんよ? 魔法、使えなくなっちゃいますよ?」

「というか、何で俺が1人も抱いてない前提なんだよ」

「だって抱いてないでしょ?」


 確かに抱いてない。そんなことにうつつを抜かすことは今の自分には許されない。

 しかし抱いてないが、抱こうと思えば抱けるだけの金はある。

 それはつまりもう抱いているようなもんだ。


「さぁな。言う必要はない」

「え? えぇ……そうなんですか……でもまぁそうですよね……仕方ありませんね」


 何がだよ。


「いいんです。ソルさんがどれだけの女性を抱こうとも、私の魅力からは逃れられませんから」

「ターニャ、3人くらい――」

「ってソルさん!!」


 ソルに怒鳴りながらターニャに女は不要だと説くルナなのだった。


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