第21話 神獣の巫女6
「こんな急に景色が変わるもんなんですね」
ソル達は大砂漠との境界に位置する街ボダライフで一泊し、いよいよこれから大砂漠へ突入するというところだ。
街道は街に入るまでの景色と、街に入って反対側に着いた時の景色では真逆の世界が広がっており、3人の目の前には今、広大な砂漠が広がっていた。
「ニーニャの村は何てところだ?」
「……わからない」
そうだよな。
獣族は大人にならないと村を出ない。
意志に反して連れ去られた10にも満たない少女が、自分の村の名前や場所をわかるわけがなかった。
「獣族の村って沢山あるんですか?」
しゃがみ込み、砂漠の砂を両手で掬っては捨ててを繰り返しながらルナはソルを振り返る。
「まちまちだな。大抵はまとまって生活するが、中には少数で暮らす獣族もいる。ニーニャの村は人は沢山いたか?」
「いたよ。この街と同じくらい」
「……デカいな」
大砂漠の入り口にあるこの街は、大砂漠を横断する行商人や冒険者の最後の休憩地だ。
宿屋をはじめ、酒場や武具屋もあり、街行く人の数はかなり多い。
ここと同じくらいとなると、それはもう村ではなく街だ。
そこまで大きいのであれば――
「当てもなく砂漠に入るより、この街で情報収集した方が早いかもな」
「ギルドに行ってみます?」
「そうだな。街の中には獣族の人もいるかもしれない」
街の出口にいた3人は、踵を返し、ボダライフの冒険者ギルドへと足を運ぶ。
冒険者ギルドの作りは基本的にどこも同じだ。
街から街を旅する冒険者にとって、見慣れた建物はそれだけで落ち着くからという理由だ。
受付に行くと、陽に焼けているのか小麦色の肌の受付嬢が多い。
その内の一人が、ソル達に気づいた。
「あら、初めてかしら?」
「あぁ、昨日ウェステリアからここに着いたんだ」
「ウェステリアから? 珍しいわね。あの街、外に出る冒険者なんていないでしょ」
やはり外から見てもウェステリアはそういう印象らしい。
「俺は流れ者だからな」
「でしょうね。世界を知る男の顔だわ、ふふっ。そそられちゃう」
指を唇に当てながら妖艶に微笑む受付嬢。
受付嬢は何故基本的に容姿端麗なのか。
職員の制服も地域性が反映されるため、ウェステリアの純朴な制服に比べると露出多めの派手さがあり、それも相まって受付嬢は自分の魅力を前面に押し出していた。
「マリーよ、よろしく」
「よ――」
「ルナです! よろしくお願いします!」
差し出された手を握り返そうと手を伸ばしたその時、ルナがソルの身体を押しのけ、マリーの手を横取りする。
「あら可愛い。よろしく」
マリーは笑みを崩すことなく、ルナの手を優しく握り返した。
対峙するルナの鼻息は心なしか荒かった。
「く……やりますね……大人の女感がすごいです」
「あらそう? ありがとう」
「お前と比べることがまず間違いじゃないか?」
ルナは悔しそうにソルを睨み、そして穏やかな笑顔を作った。
「あらそうですか? それは失礼しました。私もまだまだ精進しなければなりませんね」
顔が引き攣っている。無理しているのがバレバレだ。
「そちらの殿方は?」
マリーがルナから手を離し、再びソルへと手を伸ばす。
ソルは軽く握り返すと、足元にいるニーニャの紹介も共にする。
「ソルだ。こっちはニーニャ」
「ニ……ニーニャ。よろしく」
ニーニャは戸惑いながらも背伸びをしてマリーの手を握る。
「まぁ可愛い! ニャ族の方ね、よろしく」
「ニャ族?」
「獣族は名前に必ず族名が入るのよ。ニーニャちゃんはニャ族ということになるわ」
なるほど。これは早速の有力情報だ。
「この辺りにオアシスがそばにあるニャ族の村はあるか? この街と同じくらいの規模らしいんだが。ニーニャをそこに送り届けたい」
「そんな大きな村は聞いたことがないわ。そもそも大砂漠の北側は大砂漠を横断する人達が通るから獣族の村はないし、南側のどこか、しかもギルドが知らないってことは交流がないということかしらね」
「南か」
大砂漠の更に深奥まで進めということだ。
そうなると、ニーニャが連れ去られてからかなりの日数が経っていることになる。
きっとニャ族の面々はかなり胸を痛めていることだろう。
「街中にも獣族の方はチラホラいるから聞いてみたら? きっと酒場あたりに顔を出せば1人や2人はすぐに捕まるんじゃないかしら」
「あぁ、そうしてみるよ。ありがとう」
マリーの助言をありがたくいただき、ソル達はギルドを出て街中を歩く。
すると一角にやたら騒がしい酒場があった。
どうやら喧嘩らしい。店の外にまでとどくほどの男の怒鳴り声がする。
周囲の人も店の方を見やる始末だ。
すると、店の中から男が吹き飛んできた。
後を追って悠然と現れたのは、獣族の女――いや、女戦士か。
革の鎧を軽く纏った軽装備に、腰には曲刀。
獣族の装備と言えばといった風貌だ。
「ひいっ、ケダモノに殺されるー!」
店から吹っ飛んできた男は悲鳴を上げながら逃げていった。
大方、獣族の女戦士に対して侮辱的な発言をしたのだろう。
どこの地域にも頭の弱い奴はいるものだ。
その男の背中に興味を失ったのか、女戦士は再び店の中へ戻ろうと身体を反転させた。
その一瞬、ソル達と目が合った。
それだけだ。
それだけなのに、その女戦士は猛然と駆け出し、曲刀をソルに振るったのだった。
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