第10話 深淵を喰らうもの2
「あったな」
「ありましたね」
フォレストリザードに遭遇して以降、フォレストリザードを超える魔物には遭遇しなかった。
とは言っても、ソルにとってはフォレストリザードも他の魔物も大した違いはないのだが。
ただ、一騎当千のソルの姿が、ルナの目に英雄かのように映ったのは間違いない。
治癒術師としてルナは自身の存在意義を問い直してしまうほど、ソルは無傷で全ての魔物を屠ったのだから。
そして今、ソルとルナの目の前には、苔が生え、蔦が生い茂った石造りの建物があった。
噂の遺跡である。
古代遺跡は基本的にかつて栄えていたとされる魔法都市の遺跡のことだ。
魔法都市の遺跡故に、遺跡内には魔装具があることが多く、冒険者達はその魔装具を目当てに遺跡に飛び込むのだ。
通常、魔法は魔導書にて習得する。
適性や能力がある者には魔導書の中身を読むだけで魔法が使えるようになるのだ。
しかし、中には魔導書に記載されていない魔法もある。
多くのものが使用できるようになることが危険視されるような、そういう魔法は魔装具へ込められ、使い手を限定するようにされているものが多い。
そのため、魔装具の価値は金貨や大金貨というレベルで売買できる物ではない。
魔装具1つで、人生働かずに過ごすことも可能になる場合もあるのだ。
「使えない魔装具だったら売るか」
「蘇生の指輪以外の場合は、どうするかはお任せします」
「わかった」
何故『蘇生』の指輪が必要なのか、とソルは問いたかったが、問うまでもない。
蘇生したい大切な誰かがいるからなのだろう。
蘇生の概念や条件はわからないが、ルナにとって今それが必要なのであれば、ソルはその指輪を譲るつもりだった。
遺跡に足を踏み入れると、吸血蝙蝠や硫酸を吐く百足などが襲いかかってきたが、こともなく処す。
途中、遺跡の施設から魔力を帯びた廃液が飛び出してきて、ルナを庇って火傷のような状態に陥るも、ルナの治癒魔法で難なく元通り。
そんな感じで石造りの部屋を着実に1つずつ潰し込んでいく。
中には古代文字が刻まれた丸いステージがあるだけの部屋もあったりしたが、全体的に遺跡は魔法都市らしさが漂っており、魔法の研究所のようだった。
壁画のようなものに、古代文字が吹き出しのように付け加えられていたものもあった。
我々は魔法をどうやって授かったのか。
魔法は神からの贈り物である。
壁画はそうした分析がされているものらしかった。
その壁画を見て、ソルもルナも不快感を露わにする。
「神などいない」
「神なんていません」
ソルもルナも互いに顔を見合わせる。
珍しく意見が合ったことに、ソルは思わず口元を緩めてしまった。
「あ! 笑いましたね! ちょっと私にキュンとしましたね! いや〜照れますねぇ」
「何でそうなるんだよ。たまにはいいこと言うなと思っただけだ」
その部屋の奥には更に扉があり、奥にもまだ部屋があることを訴えかけてくる。
魔石の装飾が施されていることから、この遺跡の重要な部屋であることがわかる。
「ようやく当たりかな」
「普通に開けばいいですけど」
ソルが扉に手をかけるが、扉はビクともしない。
「重いとか、そういう次元じゃないな」
ソルの隣まで歩み寄ってきたルナが扉を調べると、
「恐らくですが、魔力を通して開ける扉だと思います」
魔石がついてるということは、そういうことかもしれないとは思ったが、やはりそうなのか。
ルナが魔力を通してもいいかと伺うようにソルを見て、ソルもまた頷く。
すると扉の魔石は光を帯びて、扉はガタンと音を立ててスライドし始めた。
「こういうのがあるから、俺は一人じゃ遺跡踏破出来ないんだよな」
自身の無力さにため息を吐くソル。
それを慰めるようにルナは明るい口調だ。
「いいじゃないですか、今は私がいるんですから。私のこと、大事にしてくださいね?」
「そうか、今後はお前以外の魔力持ってる奴を連れて来れば解決だな」
「何でそうなるんですかー!」
ルナの不満をよそに、扉は開き切る。
扉の先の空間に、パッと青白い魔力の光が灯る。
「魔灯ですか…結構な広さですね」
扉の位置から見える中は、ドーム型になっており、その壁面には魔灯がズラリと並んでドーム内を照らしていた。
その部屋の中心には、光を帯びた小箱が1つ。
そしてその小箱の奥には小箱を守るように両腕を伸ばして鎮座している巨体があった。
「どう見ても魔装具を守るゴーレムだよな」
「ですね。1体しかいないのはラッキーですね」
「とりあえずあの小箱を拾ってお前に渡す。ゴーレム退治はそれからだ」
「私は扉付近にいればいいですか?」
「それでいい」
「魔装具だけ取って逃げるっていうのは?」
「この遺跡を破壊しながら追ってくる可能性があるから、それは最後の手段だな。倒せるなら倒したい。あのゴーレムにも魔石があるはずだからな」
遺跡で見つかる魔石の買取額は大きい。
内包される魔力の純度も密度も高いからだ。
「わかりました」
ルナが深呼吸する。
ソルとルナが、同時に扉をくぐる。
中に足を踏み入れた瞬間、ソルが小箱まで瞬時に駆けた。
小箱を掴む。
刹那、ドーム内の空気が震えた。
ゴーレムが起動したのだ。
小箱の両側にあったゴーレムの腕が、そこにあった空間を押しつぶす。
しかしすでにそこには小箱もなく、ソルもいない。
小箱を持ったソルはルナの目の前に戻ってきていた。
「任せたぞ」
小箱をルナに渡すと、ソルは再び、ゴーレムへと向かっていくのだった。
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