第6話 常にボッチの治癒術師6

「はい、では報酬の金貨10枚です」


 リタから渡された貨幣袋の中身を確認し、間違いないことをサインする。

 そして中から3枚金貨を抜き取ると、残り7枚の貨幣袋をルナに渡した。


「ほれ」

「え!? これはソルさんの報酬ですよね? あ!今夜お前は俺のものだと、そういうことですね! いやらしい!」

「ちげぇよバカ。お前に金貨7枚は高すぎる」

「酷い! でもじゃあ、え?」


 不満を訴えながらも、本気で理解できないというように、ルナは目を丸くしてオドオドしている。


「俺は20本切っただけだ。運んだのはお前。余計な労力を使わされた分として、金貨1枚は追加でもらうが、残りはお前の仕事の成果だ」


 困惑しているルナはリタに視線を向けるが、リタは「こういう人よ」と苦笑いするだけ。


「え、なんですか、ソルさんってクソ真面目ですか? バカですか?」

「お前にバカって言われたくねーわ!」

「だって下手したら盗られてたかもしれないのに」

「盗る気なんてなかったくせに」

「……何でそう思うんですか?」


 何故そう思うのか。

 何故だろうな。

 そこまで腐った奴には思えない、と言うのが本音だが、調子に乗りそうなので適当なそれっぽいことを考える。


「まぁ、本気で盗る奴は切り株の裏で俺のことを待っていたりはしないだろ」

「でもソルさんはあの時、本気で追いかけてきましたよね?」

「ぐ……うるせーよ。あの時は感情的になってただけだ」

「本当のソルさんをさらけ出しちゃったってことですね? いいんですよ? もっと出してっ。ソルさんの溢れ出る情欲は全て受け止めますからっ」

「お前はいちいちエロいんだよ言い方が!」

「え、なに意識してるんですか。気持ち悪いんでやめてもらっていいですか?」


 こいつっ!!


「ソルさん……ルナさんが可愛いからってそれは流石に……」


 リタがルナの援護射撃に加わった。


「もう知るか! 帰る!」

「待ってください!」


 踵を返そうとしたソルの服の裾をルナが掴んだ。

 次はなんだ。


「私だって深淵樹を切れません。だから7枚は貰いすぎなんです。これが、ソルさんの正当な報酬ですよ」


 ルナはそう言って貨幣袋から何枚か取ると、貨幣袋を返してきた。

 中には3枚。ソルの手元に3枚。計6枚。

 つまりルナは4枚だ。


「何で半々じゃねぇんだよ」

「だって余計な労力を使わせてしまいましたから」

「なら俺は面白いレアスキルを見せてもらった」


 金貨1枚をルナの手に強引に握らそうとすると、ルナは手を引っ込めてしまった。


「ソルさんの気持ちは嬉しいですが……じゃあその金貨1枚で依頼をしたいです」

「……なんだよ」

「立ち上がるのすら億劫な程疲れてしまったので、宿まで送ってくれませんか?」


 リタが何故かうんうんと頷いている。

 目は鋭く、早くその依頼を受けろという圧も感じる。

 馴染みのリタの反感を買うのも望ましいことではない。


「わかったよ。お前の気持ちもありがたく貰っておく。じゃあ行くぞ」


 おぶるためにルナの前にしゃがんで背を向ける。


「お姫様抱っこじゃないんですね」

「こっちの方が運びやすいだろ」

「そういうことですね」


 椅子がガタリと音を立てると、背中にルナの華奢な肢体を感じた。

 と同時、耳元でルナが囁く。


「いやらしい」


「いやいやいやいやおかしいだろ!」

「嘘です。よろしくお願いします」


 耳元にかかるルナの声が少しだけ柔らかくなった。


「ったく……で、宿はどこだよ」

「ソルさんの隣の部屋です」

「なんでだよっ!」

「今朝、宿を変えました」

「いやだからなんでだよっ!」

「その方がソルさん寂しくないかなと思いまして」

「俺なの!? 寂しいの俺なの!?」

「マスターさんもそうしろって」

「あのオヤジ!!」


 疲れる。だから人と関わるのは嫌なんだ。

 面倒くさいことこの上ない。

 しかし、久々のこの面倒くささも悪くないと、そう思うのだった。




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