第5話 常にボッチの治癒術師5

「おかえりなさい。相変わらず仕事が早いですね。さすが樹喰いのソルさんです」


 出迎えてくれたリタに伐採運搬済証明書を渡しながらソルは苦笑う。


「それ浸透してんの? 樹喰いのソルって」

「深淵樹を必要としている方々には浸透してますね。畏敬の念すら感じますよ。あら……この証明書、伐採『運搬』済ですね? しかも、20本!?」

「そりゃな」


 ソルは背中を指差すと、ひょっこりとルナが顔を出す。

 それを見たリタに笑みが溢れる。


「なるほどなるほど。パーティ結成、おめでとうございます」

「結成はしてない」

「えー! まだそんなこと言うんですかー!」

「お前が俺の木を盗んで、捕まえたところが木材置場だったってだけだろうが」


 頬を膨らますルナの額を指で弾く。

「あぅっ」と呻きながらそのまま倒れ尻もちをつく。


「お、おい大丈夫か? すまん。そんなに強くしたつもりはなかったんだ」

「あ、ありがとうございます」


 手を伸ばすが、ソルの手を掴むルナの力は弱い。

 顔色も少し悪いように見える。

 リタもカウンターから出てきて、心配そうにルナが立ち上がるのを手伝う。


「20本も運んだのであれば、消耗は激しいと思います。というか間違いなく消耗します」

「そうなのか?」

「ハコ持ちでも、深淵樹を運ぶとなれば、優秀と言われる方でも2本が限界です」


 なんだそれは、初耳だ。

 ハコ持ちはもっと持てるものだと思っていた。


「運んだというか、ソルさんに追いかけられたといいますか」

「ルナさん、ソルさんに捕まったとのことですが、少しの間は逃げられたんですか?」


 手近な椅子を引き寄せルナを座らせると、リタが怪訝な表情でソルとルナを見る。


「あぁ。コイツが口だけの女じゃないってのはよくわかった。捕まえるのに手こずったのは事実だ」

「口だけの女じゃないなんて……相変わらずソルさんは――」

「ルナさんもしやハコ渡りも使えます?」


 故意ではないだろうが、ルナの下品な言い回しを遮る形でリタが間に入る。


「えぇ、使います。疲れますし、なるべく使わないようにしてましたけど」

「ハコ渡り? なんだよそれ」


 リタの視線が一瞬厳しくなるが、すぐ元の表情に戻る。


「まぁ知らないとしても仕方ありませんか。ハコ持ちですら珍しいのに、ハコ渡りまで出来る人なんて噂でしか聞いたことないですし」

「いやだからハコ渡りって――あっ」


 ハコ持ちのハコ渡り。

 流石に思い当たる。


「俺から逃げてたアレか!」


 捕まえようとしたら目の前から消えて数メートル先に移動していたあの技のことだ。

 魔法だと思ったが、スキルらしい。


「そうです。ソルさんが速すぎて連発して逃げるしかありませんでした」

「ルナさん、もしやそれを深淵樹を持った状態で?」

「えぇ、流石に疲れました。あはは」


 リタの表情が驚きと共に深刻さを増していく。

 ハコ渡りというものが非常に珍しいということはソルも理解した。

 だがそこに深刻さを孕む問題はないように思える。


「どうしたリタ?」

「あ、いえ、ルナさんはある意味有名な方でしたが、ハコ渡りまで可能とは初耳です。むしろ逆に何故、こんなに稀少なスキルをお持ちのことを知られていないのかと」

「簡単なことですよ。この街に来てからハコ渡りを使ったのは、今日が初めてですから」


 ルナがリタに当然のことだと笑いかける。

 だがそれでもリタは腑に落ちないらしい。


「だとしても、そもそものハコの能力の高さが異常です。そこについても何も知られていないなんて――」

「常にボッチだからじゃねぇの?」


 ソルの言葉に、リタは目から鱗と言った感じで手を叩いた。


「二人とも酷いです!」


 椅子に座りながらジタバタと不満を訴えるルナが何故か滑稽に思えて、ソルとリタには自然と笑みが浮かんでいた。



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