第2話 常にボッチの治癒術師2
「っ…飲み過ぎた」
酒場の二階が宿の店に泊まっていてよかった。
二日酔いになる程に飲んだ状態で離れた宿まで帰るなんて苦行は絶対にしたくない。
昨夜はルナとか言う変人のせいで偉い目にあった。
おかげさまで財布の中身はだいぶ軽くなってしまった。
しかし、その地獄からも解放され、あとはこの二日酔いというプチ地獄から解放されればスッキリである。
酔い覚ましのレモンジュースをもらうため、ソルは階下へ向かった。
「おぅ、ソル。おはよう」
「おはようマスター。レモンジュースを頼む」
「二日酔いか? ポーションにするかぃ?」
「まだ俺からむしりとるのかよ。二日酔いにポーションなんてもったいない真似は出来ないよ」
二日酔いはポーションで治る。ただし、高い。
治癒魔法でも治るのだが、二日酔いなんかに魔法を使うバカは見たことない。冒険者にとって魔力の使いどころは生死を分けるからだ。
まぁどの道、ソルは治癒魔法など使えないのだが。
「治癒が必要と聞きまして!」
頭に響く高い声にビクッと肩が震える。
ソルが振り向くと、そこには地獄が待っていた。
「ふふっ。来ちゃったっ」
まるで恋人に黙って会いに来たかのような振る舞いをする女がいた。
いた気がする。
何も見ていない。二日酔いによる幻覚だ。
いかんいかん、早く治さねば。
「マスター、レモンジュースを頼む」
「ふふふー! 来ちゃった!」
カウンター越しにレモンジュースを頼むソルの隣から身体をグイグイと押し付けながら顔を覗き込んでくる。
幻覚じゃないらしい。
「……来ちゃったじゃねぇよ」
「来ちゃいました?」
「口調の問題でもない。俺は二日酔いで死にそうなんだ。相手してやる余裕はない」
「じゃあ今はもう相手してもらえるってことですね!」
「……は?」
マスターからレモンジュースを受け取り、まさに飲もうとしたその時、違和感を覚える。
頭が痛くもなければ気持ち悪くもない。
「お前……まさか……」
「はい、治癒魔法をささっとかけておきました。どうです? 仕事の早いデキる女でしょう?」
ソルは天井を仰ぎ見る。
バカがいた……冒険者稼業をしている奴なら、こんなことに限られた魔力を使わない。
「はっ! お前、冒険者じゃないのか?」
「へ? 冒険者ですよ?」
バカだった……。
「そんなに震えるほど嬉しかったですか? へへへ〜そこまで喜ばれると照れますねぇ」
「呆れてんだよ! ったく……まぁ、治してくれたことには感謝する。だが、冒険者なら、貴重な魔力をこんなことに使うな。こんなことに魔力を使ってるやつを誰も仲間に入れようと思わないぞ」
そう吐き捨てると、ソルは冒険者ギルドに向かうために店の出口へと足を向ける。
そんなソルの腕が、グイッと引っ張られた。
「おいソル。レモンジュースの金置いてけや」
「……やっぱり?」
「ったりめぇだボケ。まだそんな耄碌してねぇよ」
「はいはい」
カウンターに置いたままの口をつけていないレモンジュースの脇に小銭を置く。
「お前、それ、酔い覚ましの礼だ。飲んでくれ。じゃあな。あとは頼んだぜマスター」
放っておくとついてきそうだったこともあり、この場に引き留める理由を作る。
その間にソルはギルドに行ってちゃっちゃと依頼を受けて外に出ようと画策した。
「あ……さん」
後ろからソルを呼ぶ声が聞こえた気がするが、ソルは店を出ると一目散にギルドへと走ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます