紫電の軌跡〜群れるのは嫌いだが独りが好きというわけではない〜
T&T
第1話 常にボッチの治癒術師1
群れるのは好きじゃない。
人と関わるのは面倒くさい。
冒険者が単独で生きていくには限界があるが、それでも彼、ソル・ラディウスは一人がいい。
ややこしい人間関係なんて、もう懲り懲りだった。
なのに――
「いいじゃないですかー! 一緒に行きましょうよー!」
宿屋兼酒場で一人で酒を飲んでいたはずなのに。
何故か目の前で麦酒を煽り、テーブルをバンバンと叩く女にめっちゃ絡まれていた。
「何なんだよ。あたかも当然のように俺の前で酒飲んでるけど、誰だよお前……」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたね――」
目を爛々とさせながら、その女は白色のローブをはためかせ、胸を張って声を張り上げた。
「ボッチなアナタを救い隊! 隊長のルナとは私のことです!」
「いやホント誰?!」
隊長ってことは他にもいるのかと、そう思いながら周囲に目を見やる。
女の声と大振りな身振り手振りに、周囲の視線が集まっていた。
「おい、アレって――」
「あぁ。本物だぜ。ついにこっちまで来たのか――」
コイツ……有名人なのか?
「ふふっ。どうしました? 私に興味が湧いたようですね?」
ソルよりも頭ひとつ低い身長をものともせずこちらを見下ろそうと踏ん反り返りながら、ドヤ顔かつ恍惚な表情を向けてくる。
野次馬のざわつきも気になるし、興味がないと言えば嘘になるが――
「ウザすぎて常にボッチの治癒術師だろ」
おかげさまで、たった今、興味はなくなった。
野次馬の発言により、女が纏っていた爛々としたオーラが一転して暗く澱んでいた。
ソルに話しかけることなく、ただ、ソルの目の前から動かずにいる。
気まずさに耐えられず、自分の麦酒だけを手に取り、ソルは別のテーブルへと移動する。
「いや、何でついてくるんだよ」
移動するテーブルに、とことこと女は引っ付いてくる。
金魚の糞とはこういうことか。
「いや、むしろこの状況でよく私を独りにできますね!? ボッチと蔑まれる私を放置するとか頭大丈夫ですか!?」
何故、キレられないといけないのか。
お前の頭の方が大丈夫かと。
ソルは言い返そうと思ったが、女の目からは今にも涙が溢れそうで――だからなんだと言うわけではないが、余計に絡まれるのも面倒くさい。
目の前にいるだけで話しかけても来ないのであれば、目の保養として置いておこう。
艶のある赤髪に整った目鼻立ち。
その整った顔が切なげな表情をしている。
これだけでも酒の肴になるというものだ。
すると何を思ったのか、急に笑顔に戻り、満足そうに酒杯を空にした。
「おかわりー! お代はこの人によろしくー!」
「っておいっ! 自分の分は自分で払え!」
「私のこと舐め回すように見てましたよね? いいんですか? 大声で言いふらしちゃいますよ?」
今まで散々声がデカかったのに、こういう時だけ周囲には聞こえないような声で言う強かさ。
ウザい。
しかし、自身の落ち度であることを否めない。
「……ちっ。厄日だ」
「あら、本当に舐め回すように見ていたんですね。私は肌を露出してるわけじゃないのに。溢れ出る美女感は隠せなかったってことですかねぇ。いやぁ〜照れますねぇ」
クソが!!
しかししかし、自身の落ち度であることは否めない。
というか、完全なる落ち度だ。腹立たしい。
「あのぉ……」
なんだよ、まだ何かあるのかよ。
声も出せずに、ただ憎しみを込めた視線を向ける。
「食べ物も注文していいですか?」
ク・ソ・が!!
「……勝手にしてくれ」
喉元まで来ていた罵声の代わりにソルの口から溢れたのは、情け無い諦めの言葉だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます