第10話 殺せ!殺せ!主の御名の元に(前編)

15:23,10,29,A.C.2028



ニューヘブンポリス市ガデス公国駐屯地を取り巻く機構指揮下の連合部隊陣地


ガデス公国駐屯地を遠巻きに監視している、連邦や合衆国を初めとした機構指揮下にある連合部隊の兵士達は暇を持て余していた。


各監視拠点や包囲の配置についていた兵士や将校達も今回の事態については


上層部の妥協の内に終わるだろう、と予想し合っていた。


ドローン部隊は上空から駐屯地を監視していたが、突如ドローンとの通信が絶たれた。


兵士達は電波障害が起きたのだろうと予測し、機器の調査を始めようとした。


次の瞬間だった。


猛烈な砲火が、各監視拠点とドローン部隊がある航空基地と包囲の配置に就いている兵士達を襲った。


精密爆撃なんてお上品・・・なんてものは無かった。


それは正に「地均し」と呼ぶに相応しい破壊の嵐だった。


凄まじい鉄量と爆炎が兵士や将校達を襲い、瞬く間に灰と肉片に変えていく。


指が飛び散る。手が飛び散る。足が飛び散る。胃が、肺が、肝臓が、脳が、脊髄が、そして血が飛び散りまくった。


辺りは臓物と肉片と血のシャワールームと化していた。


一部の部隊はなんとか合成コンクリートの地下壕に逃れたが、辺りには轟音と爆音が鳴り響き壕の外に出る事は叶わなかった。


轟音と爆音は10分間以上続き、周辺の木々や構造物は根こそぎ吹き飛び平地には巨大な穴がそこかしこに空いていた。


音が止んで他の部隊と連携を取ろうと這い出して来た部隊は信じられないモノを目にした。


重装甲に身を固めた普通の人間の1.5倍以上の背丈がある黒ずくめの兵士達が、巨大な盾と機関銃程もある大きさのハンドガンらしき銃器を持って隊列を組み突進してくるではないか。


それを見た連合部隊の兵士達は頭がフリーズしながらも将校の指揮によって訓練通りに銃撃の配置に着いた。


「「撃てーーーー!!!!!」」


猛烈な銃弾と閃光と爆発の嵐が巨大な盾を持った黒ずくめの重装甲の兵士達を襲う!


だが、銃弾は盾と分厚い装甲に弾かれてあらぬ方向へと飛んでいき、爆発は彼らを吹き飛ばすには至らなかった。


黒ずくめの重装甲兵達はあっという間に射撃陣地に乗り込み、連合部隊兵士達の頭を掴んでは腹や胸に巨大なハンドガンを何発も撃ち込んでいく。


そうやって敵兵が真っ二つになると次の敵兵に襲いかかり、次々と真っ二つにしていく。


黒ずくめの重装甲兵達は素晴らしさを感じる程、機械的に敵兵を屠って行く。


歩兵戦闘車が黒ずくめの重装甲兵に向かって機関砲を撃ち込みながら突進してくる。


黒ずくめの重装甲兵は機関砲を喰らってよろめく。


だが、周りに居た複数の黒ずくめの重装甲兵達がサッとスクラムを組むと歩兵戦闘車へ向かって突進していった。


なんと黒ずくめの重装甲兵達は歩兵戦闘車と衝突するや、突進を押しとどめた!


彼らが歩兵戦闘車を押しとどめている間に後ろから一体の黒ずくめの重装甲兵がスクラムを足場にバッと歩兵戦闘車の上面に飛び移り、ハッチを無理矢理剥がして中の乗員に向かって巨大な銃弾をひたすらブチ込んでいく。


歩兵戦闘車は動きを停止し、黒ずくめの重装甲兵達はまた周辺の敵兵を真っ二つにする作業に戻った。


「後退ーッ!!!後退ーッ!!!全軍後退!!!!」


無線が通じないのか、連合部隊の指揮官はメガホンを使って出来得る限りの部隊に呼びかけた。


黒ずくめの重装甲兵達は壊走する連合部隊を追撃してきた。


だが、1200メートル程追いかけた所で隊列を組み、盾を構えて動きを停止した。


これ幸いにと連合部隊は敵と距離を稼ぐべく、猛スピードで撤退していった。


撤退した後には焼け野原と兵器・武器・人間・構造物の残骸が散らばっていた。


各戦線で似たような事が起きており、現場は混乱の極みにあった。


連合部隊に属する連邦軍指揮官のナタリー准将はこの状況を鑑み、MUTE大隊の投入によるガデス大公国軍への反撃を決定した。


MUTE大隊は空間や精神に変化を起こす超常能力を発揮する者で構成された部隊で、連邦が異世界の一つであるヴェルトで軍事的・経済的優位を担保する要因の一つと言っても良かった。


指令を受けたMUTE部隊はまず最前線の黒ずくめの重装甲兵達を排除するように命令を受けた。


突然戦場だった場所の上空が曇り始める。瞬く間に空は黒い雲に覆われ、雨が降り始めた。


雨が黒ずくめの重装甲兵達に達するや否や重装甲兵達は盾を空に向かって構え、亀甲隊形を取る。


自然界では有り得ない強烈な酸性雨が装甲兵達を襲った。


溶けていく。打ち捨てられた兵器や武器、そして人間の死体がジワジワと溶けて行く。


黒ずくめの重装甲兵達は後退しようとしたが、一歩下がる度に地面を踏むと足裏が溶けていくので、下がる事が出来なかった。


耐酸コーティングをしていない盾はみるみる内に溶けていく。


だが、黒ずくめの重装甲兵達の苦境を把握したガデス大公国の司令官は「彼ら」に出動を要請した。


「事務屋の癖に良く戦況を見ている」


司令官からの要請を受けたはそう呟くと、配下に対して静かに出動を命じた。


そしてこう呼びかけた。


「恐れ多くも主の領域を犯すクソ肉袋共に鉄槌を!」


配下は武器を掲げて応じる。


「「「鉄槌を!!!!」」」


はショルダーアーマー部分と背中部分には黒十字をあしらった専用装甲義体を纏い、地中移動大型兵員輸送車「マオルヴルフAT-3」に自ら乗り込んだ。


「カルロス。時期を見計らって街で『事』を起こせ」


「了解でさァ…首領」


「そしてスール、クレシエンテ、首領を頼むぞ…まあ心配ないと思うがな」


「カルロス!コルテス様に対してその呼び方は止めてって言ったでしょ!」


戦場に似つかわしくない特徴的な衣服に簡易アーマーを身に着けた少女がピンク色の髪を振り乱しながら怒鳴る。


カルロスはたじろぎながら笑った。


カルロスはスールの隣の一風変わった全身装甲義体の青年を見やる。


「……カルロスの頼みなら、そしてコルテスの為なら」


青年はそう呟いた。


「発進させろ!目標の座標はX:62 Y:130 Z:2…」


マオルヴルフAT-3はドリルで地層を掘りながら地中を驀進して行った。


「さァ…自分の仕事に取りかかりますか!」


カルロスは輸送車の後を見送りながら呟いた。


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