第8話 急な事件
ニューヘブンポリス市近海
二機の戦闘機が市から250km離れた海上を水しぶきを上げながら低空飛行で爆走していた。
この二機の変わった形の戦闘機はレーダーに映らないよう海面スレスレを滑空していたが、それでも捉えられる筈の防空部隊のレーダーに機影は奇妙にも映らなかった。
戦闘機の内1機は市街地から約5kmの時点でミサイルを発射し、ミサイルは直線を描きながら市庁舎ビルに衝突して凄まじい爆発を引き起こした。
もう1機の戦闘機は港湾の南部にあるセント・ファリス海軍基地に対して2発のミサイルを発射し、ミサイルは停泊していた空母に全弾直撃した。
合衆国の技術水準では空母がたった2発の対艦ミサイルで撃沈する事はあり得ないが、ミサイルは緑色の光を発して爆発し空母の船体は凄まじい悲鳴を上げながら三つに折れて沈没した。
市庁舎にミサイルを撃った戦闘機は方向転換してビルとビルの間を縫うように飛び、「干渉門」の周囲を固める守備部隊に対して数発のミサイルを撃ち込んだ。
次の瞬間猛烈な光と熱と爆風が発生し、守備部隊は吹き飛ばされるか文字通り溶けてしまった。
戦闘機は3回転程すると元来た方向へ飛び去ってしまった。
空母を沈めた戦闘機は機構支部ビルのある方面へ機体を転回させ、ビルへ2発のミサイルを発射した。
しかし、ビルの100m程手前まで来るとミサイルはビルに沿うようにして軌道が逸れて周囲の建造物に直撃した。
戦闘機はすかさず転回し追加の2発を撃ち込んだ。
だがこの2発も同様に逸れてあらぬ方向へとミサイルは飛んで行った。
戦闘機はこれを見て諦めたのか元来た方向へと飛んで行ってた。
15分前―――
ステーキハウス
ステーキを食べている内にマイクは自分でも嬉しいようなそれでいて何処かおかしいなという気分になっていた。
何故あんな事をしたのかは分からないが、こんなトントン拍子で事が進んだのが不思議で仕方がない。
何かに化かされてる様な気分だ。
目の前にいる人物が中継で見た人物とイメージが一致しないというのもある。
公私を分けると言った感じではなく、まるで別人かのようだった。
中継では凛々しく、ビシッとした雰囲気がありそれでいて周囲は従わざるを得ないような風格が見て取れたが、目の前にいるのは只の真面目で笑顔の明るい20代の女の子といった感じがした。
ただ、食いっぷりは中々というかあっという間に肉が無くなっていった。
目の前の女の子が言う。
「マイクさんは記者なんですね。私の名前はクレア・マーヴェリックと言います」
名前は意外と普通だったな。
「一つ聞いて良いですか?」
「答えられる事なら何でも」
「マイクさんはこの街に住んで何年になりますか?」
「この街に来たのは10歳の時ですからかれこれ14年程になります」
それを聞いてクレアは何故か少し押し黙った後こう答えた。
「…そうですか」
彼女の何かに触れてしまったらしい。
この空気を変えるために何か別の話題を振るか?
ファビアンは何事も無いかのようにナイフで切ったステーキを頬張っている。
―――この野郎。
「クレアさんは肉がお好きなようですね」
「はい!!」
クレアは凄い明るい笑顔で答えた。
マイクは続ける。
「もし宜しければ肉が好きな理由を聞かせて貰えますか?」
「私は子供の頃肉を食べれない時期があって、その時内緒で食べさせて貰った肉料理がとても美味しかったんです」
「それがとても感覚に残っていてそれから肉が好きになったんです」
なるほど、たんぱく質と脂肪はその胸と足に行ったという訳か。
しかしながら話していると何処か陰を感じる。まるで無理して明るく振舞っているかのような感じもした。
ただ此処で突っ込むのは野暮だろう。
マイクは更に話題を振る。
「肉以外だと好きな食べ物はありますか?」
「えーっと…思いつかないんです。美味しいとは思うんですけど…」
「好き、という程にはならないんですよね…」
どうしたら良いんだろうか…?しょうがないあの手しかないがやるしかないか!
「幾つかおいしい料理やデザートを出す店を知っているんです。もし良かったら次の機会に何処か行きませんか?」
ファビアンはブフッっとコーラを噴き出した。
(お、お前いきなりそれは無いだろ!もっと刻めよ、段階を!!)
「良いですよ!私この街に来たのにあまり此処の事を知らなくて…気づいたら仕事の事ばかりになっちゃいますし…丁度良かったです」
(雛の刷り込みかな?)
それを聞いたマイク、攻勢を掛ける。
「連絡先交換しませんか?」
(マイク、お前は凄い奴だよ)
「すいません…私そういうアプリとか端末に入れた事なくて…初めてなので操作とか教えて貰えますか?」
「良いですよ…グレープストアに行ってそこから…」
マイクがクレアにアプリの操作を教えていたその時だった。
遠くで爆音が鳴り、ステーキハウスまで音が響いてきた。
「爆発事故か?!」
ファビアンは叫んだ。
「かもしれない!デカいぞ!」
マイクも応じるように叫んだ。
そうこうしている内にもう一箇所で大きな爆発があったらしく、凄まじい爆音が響いてきた。
「お二方、ごめんなさい。私には用事が出来てしまいました」
そこには先程の明るくそして幼い笑顔をした女の子はおらず、冷徹で底暗い目をした女性が居た。
だが、その表情は何処か悲しげだった。
「マイクさん。支払いはコレでお願いします。本当にごめんなさい」
クレアはそう言うと電子マネーが入ったカードをマイクに渡した。
クレアはマイクにカードを渡すや否や店から飛び出して行ってしまった。
ファビアンがマイクの肩に手を置いて口を開く。
「彼女とデートとかそういうレベルじゃ無くなってきたな」
マイクは駆けていく彼女の後ろ姿を眺めていた。
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