第3話2位じゃダメなんですか?

14:46,10,26,A.C.2028


 ニューヘブンポリス市湾岸商業エリア・マルクト社本社


 マイクは取材を終え、マルクト社本社32Fにある休憩スペースの自販機近くでダイエットサイダーを飲みながら、トイレに行ったエザキ係長を待っていた。


 マイクは今朝のニュース映像を思い浮かべながら、窓の外に広がる市の湾岸商業エリアの景色を眺めていた。


 脳裏に焼き付いた褐色銀髪の女性の事が頭から離れない。そこら辺の女優やモデルより美しい女性だった。


 マイクがニヤつきながら窓の外を眺めていると強引に現実に引き戻すかのような強烈な声が聞こえてきた。


「バンドルマン記者!! 何をニヤついてボケッとしている!」


 エザキ係長だ。こんな所でがならなくても良いだろうに.


 周りのマルクト社社員が驚いてるが、構わずエザキ係長は続ける。


「今日の取材内容を会社に持ち帰って今週中に纏めなければいけないのは分かってるでしょ! 今は休憩時間じゃ無いの!」


 マイクは応じる。


「ハイハイ。分かりました係長。でも帰社の準備は終わっているから何時でも帰れるようにしてますので」


 エザキ係長の形相がみるみるウチにエラい事になっていく。


 なんでこんなに機嫌が悪いんだ。今日は特に悪い。MAXが10だとすると11くらいだ。今日の落ち度と言えば今朝の遅刻ぐらいだが……


「私は先に特急で帰社するから! 貴方は別の電車で帰りなさい!」


 マズいな。先に帰社されたら後で部長に何を言われるか分かったもんじゃない。


「係長。ここではマズいですから……一旦ココから出ましょう」


 もの凄い目で睨まれるが、怯んではいけない。


何とか係長をエレベーターに誘導し、気まずい雰囲気が充満したエレベーターに乗って なんとかエントランスの外まで連れ出す事が出来た。


 社外に出るや否や係長はこちらも振り向きもせずに特急便のモノレールへ向かっていた。


 ~15分後~

 エザキ係長特急便のモノレールの車内で、憤懣やる方ない雰囲気を醸し出して取材の内容を端末のツールで纏めていた。


 あのニヤケ面。能力自体は劣っているワケでは無いのに組織人としてはまるで駄目なあの筋肉男。


遅刻も直らないし、何度も同じ事を言っても改善しないし、かと思えばこちらの考えを見透かしたような行動を取る難物。


 それだけなら何時もの・・・・事。激高するような事でも無い、冷静に対処出来ている。


 頭では理解している。彼の自由さや能力が社会の規範やプロとてしてのあり方や組織人としてあるべき姿から逸脱している事が。


 彼の行動が気にくわないし、どうしても彼のやり方に干渉してしまう事も。


 それでもプロフェッショナルとしての一線は越えないように努めてきたつもりだ。


 でも今日は一線を越えてしまった。私は見てしまった。彼が会社の大型モニターに映る銀髪の女に見とれていたのを。仕事が終わった後も銀髪の女の事を考えてるのを。


 分かってしまった。


 なんで? 何故? どうして? どういう事? そんな顔・・・・私は見たことも無い。


既に2年も上司として仕事をしているのに私の前でそんな表情した事もない。

 

係長に昇進した時も『そうですか。おめでとうございます』ぐらいしか言わなかったし、私に対する敬意も親切心も好意も感じ取れなかった。


 その表情は画面に映る初見の違う世界で生きてる女じゃなくて、ソレ・・は普段から貴方の面倒を見ている私に向けられるモノじゃないの!? 


 好意を向けろとは言わないからせめて私を見なさいよ! 


 得体の知れない複雑な感情が止めどなく溢れ出して制御出来ない。抑えられない。悔しくて仕方がない。唇を噛みしめ、右手を思いっきり握り締める。


 爪は手の平に唇には歯が食い込み、血が流れ出す。


 向かい側のサラリーマンらしき中年男がエザキを訝しそうに眺めているが、エザキはその事にすら気が付か無い程自己の感情に没入していた。


 停車のアナウンスが車内に流れ、エザキはハッとした。


 いけない。こんな事ではいけない。分かっている。私は周りが見えなくなっている。頭を切り替えろ私。


 エザキの頭はなんとか仕事モードに切り替わり、作業を進めていく。


 秋の陽射しに当てられながら、特急便はビルの隙間をすり抜けつつ、規則正しい駆動音を響かせながら彼女の会社近くまで向かっていった。



 11:12,10,26,A.C.2028


 ジアース調停機構ニューヘブンポリス支部


 3級調停官のトーサイは1級調停官のクロイスに呼び出され、日当たりの良い廊下を急いで走っていた。


 クロイスのオフィスの前に辿り着くとインターホンを押す。


「トーサイ3級調停官です。只今参りました」

「入れ」


 オフィスのドアが開く。


 トーサイは先に要件を述べた。


「要旨は端末で拝見させて頂きました。クロイス1級調停官」


「駐屯軍の再配置に相応しい施設・土地、市街地警備のための部隊配置、そして地下道・地下鉄の封鎖。これらについての情報収集及びプランの策定ですね」


「これを明日13:00までにという事で宜しいでしょうか?」


 クロイスは応じる。「そうだ。ただ、追加で極秘に依頼したい事があって直接呼び出した」


「はい。承知いたしました。それで追加のご依頼とは?」


 クロイスが端末に手を翳すと部屋の中央に三次元モニターに市とその周辺の土地が立体で映し出された。


 クロイスは三次元マップを動かし、ニューヘブンポリス近郊のヘブンポート市の丘陵地帯へズームさせていく。


「ここはかつて連邦軍が居を構え、広大な地下要塞を構築した場所だ。港湾とは地下道で繋がっている」


「この施設を再利用出来るよう密かに整備しておいて欲しい。使用・改築許可は既に連邦政府と合衆国政府から出ている」


 トーサイは一瞬驚いて固まったが、直ぐに返答した。


「そ、それだけの危険がこの調停機構管理都市とその周辺に迫っているという事ですか? 俄には信じ難い話です」


「この都市に攻撃を仕掛けるという事は複数の機構参加国を敵に回すことに等しい。世界・・大戦ですよ」

 

 クロイスはコバルトブルー色の目を光らせながら答える。


「そうだ。少なくとも本部の評議会にはその危険性を考えている方が居られる。情報分析部門を通さないで迅速な決定が下されたのには私も驚いたが」


「予算は後から付ける。現業務と並行して人員と機材の確保と手配を急いで欲しい。ただ、この件に関してはイルミナ連邦とダリウス合衆国・アークトリス連合王国出身者のみでチームを構成しろ」


 トーサイは背後で並々ならぬ事態が進行している事を素早く理解し、即答した。

「承知致しました。直ちに業務に取り掛かります。それで納期は如何程ですか?」


「2か月だ。それ以上の時間は無いと思われる」








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