第57話 幼児ステータスからの脱却···


 女神仕様ってのがよくわからないけど、ステータスを確認してみよう。私はステータスを開いて見る。


 ·····





モナ


 16歳

 職種:ミコ神子


 Lv.48


 HP 506

 MP 1025


 STR 10

 VIT 6

 AGI 26

 DEX 18

 INT 60

 MND 20

 LUK ∞


スキル

 真眼

 治癒

 魔祓い

 マップ

 転移

 極の逆転


称号

 異界からの転生者

 ラッキーガール

 混じりしカミト

 最恐のシンキ

 惑乱のマレキ

 世界を救った者



 つ、ツッコミどころがありすぎる!

 レベルはまあいい。経験値からすれば妥当なのだろう。

 その割にはHPとMPが低すぎない?


 それも他のステータスは全く変化が無い!これでもか!というぐらいに変化が見られない。幼児ステータスから全く脱却していない。


 これのどこが普通なんだ!


 それも職種がミコって何!ゲームではそんな職種はなかった。


 そして、最後の称号。私、魔王を倒してはいない!



 はぁ。結局私は幼女から成長できないということなのか。


「ぷー」


 私が落ち込んでいるからか、ノアールから心配そうな鳴き声が聞こえてきた。


「戻ろうか」


 そう言って私はノアールの背に腰を下ろす。私の中の不安感は今も感じ続けている。いつ魔物が来るかわからないところに長居は無用だ。転移の間に戻ってジュウロウザとシンセイと早く合流しよう。 


 暗い通路を私を乗せたノアールが進んでいく。爪がカツカツと通路の床に当たる音が聞こえるが、それに混じって別の音も混じって聞こえる。

 気の所為だと思いたい。それも前方から聞こえてくる。引き返すもここの通路は金色の扉のところで行き止まりになっている。


 どうする?


 どうするも何も私には戦う能力はない。ノアールに止まるように促し、考えるも何も手立てがない。腰には私の武器としてムチを備えてはいるが、これは調教用でしかない。


 ノアールが止まったことで、前方の音はおそらく人だろうということは推測できた。カツカツと靴が出す音と思われる。ただ、一人分の足音しかない。リアンたちは3人だ。

 ジュウロウザとシンセイは母さんと同じく足音をたてないで歩く癖があるようで、彼らではない。


 なら誰だ。こんなダンジョンに、それも暗闇に包まれた通路にわざわざ足を運ぶ者は誰だ。


 息を潜め待ち構えていると、暗闇からその人物の姿を捉えられる距離まで近づかれた。ダンジョンの中で漂う淡い光りで確認出来るまでに近づかれてしまった。


 その者は血まみれだった。いや、一人ではない。腕に誰かを抱えているようだけど、何かがおかしい。



 私の眼の前には血を被ったかのように血を滴らせたリアンが立っていた。


「ああ、モナ。こんな所にいたんだね」


 ぞわりと肌が粟立った。目が、目が憎しみに囚われた者の目をして私を睨み付けているリアンに恐怖を覚える。


「やっぱり生きていた。殺したはずなのに生きているからだったんだ」


 いや、私も死んだと思っていたよ。しかし、私が死ぬ必要は元々なかったんだけどね。


「リアン言っておくけど「モナの所為だ!」····」


 何が?


「モナが生きているからルナが怪我をしてしまったんだ!」


 そこを私の所為にしないで欲しい。元々、私はレベルが足りていないと忠告をしたのに、リアンとルナが聞く耳を持たなかったんだ。


 リアンの抱えている人物を見る。顔に血の気がなく。目は虚ろであり。薄暗い空間で目を細めて見ても、ルナの下半身があるように思えない。

 リアンはルナの上半身しか抱えていないように見える。怪我というレベルではない。


「モナが死ねばルナの怪我も治る。そうすれば、ルナの両親も探しに行けるよ。ルナ」


 なんてめちゃくちゃな!私が死んでもルナは生き返らない!それぐらいわからないのか!


 いや、現実を認めたくないのだろう。


「リアン。私が死んでもルナは生き返らない。これが現実。認めなさい。あなたが弱いと仲間が死ぬ。私は今までに何度もリアンに言ってきた言葉。認めなさい。」


 私はリアンに現実を認めるように言葉をかける。武器を取れない私が出来るのはリアンに言葉を掛けることだけ。

 本当なら彼に慰めの言葉を掛けなければならないのだろう。けれど、リアンは勇者だ。こんなところでつまずいてしまっては困る。だから、私は現実を突きつける。

 ルナを殺したのはリアンの弱さだと。


「いや、生き返る。ルナが言っていた。何でも知っているルナがリセットをすればやり直せると」


 それゲームの話だから!


「だから、モナを殺して、そこからやり直そうね。ルナ」


 それも違う!私は死ななくてもいい!


 リアンは右手に持っている剣を私に向けてきた。その時ノアールがリアンに向けてブレスを吐いた。


「グォォォォ」


 という、鳴き声と共にアイスブレスをリアンに向けて放ったが、まだ幼竜のノアールだ。その威力は成竜とは比べ物にはならない。


 リアンは体を反らすことで、ブレスを避け一気に私に近づき、鈍く光った剣を私に向けて振り下ろしてきた。





 向かってくる剣を私はただ見つめるしかなかった。私にこの攻撃に対抗するすべはない。

 ただ一つ。ジュウロウザが施してくれた星結界にかけるしかない。私が、受け止めないとノアールが傷ついてしまう。それだけは避けなければならない。



 その時、風が吹き抜けた。

 私の眼の前には振り下ろされるはずの剣を受け止めるモノが見える。


「モナ。遅くなってしまってすまない」


 ジュウロウザだ。ジュウロウザが来てくれた。

 リアンはジュウロウザの刀に押され、そのまま後ろにぶっ飛ばされた。そして、リアンが飛ばされた先には、白髪の老人が立っている。


「姫。守護者であるにも関わらず、またしても姫を危険に晒してしまった不甲斐ない老兵に、この者のとどめを与えるめいをいただけませぬか?」


 シンセイ。再会早々に物騒なことを言わないで欲しい。私はそんな命令は言わないよ。


「リアンは勇者ですから、魔王を討伐してもらわないと困ります」


「では、腕の一本を」


「はぁ、駄目です」


 ルナルナ狂になってしまったリアンもリアンだけど、直ぐに殺そうとしないで欲しい。命は一つしかないのだから。


 ため息を吐いていると、体がふわりを浮いて私はジュウロウザに抱えられていた。


「怪我はないか?モナ」


 ジュウロウザの言葉に、ぽろりと目から涙がこぼれた。ぽろぽろと涙が止めどなく溢れ出てくる。

 私が泣いてしまったことで、ジュウロウザがオロオロしだす。


 私の心の中は先程のモナ彼女と同じ想いで溢れていた。


 会いたかった。

 側にいたい。

 愛おしい。


 なんだ。私、ジュウロウザのこと好きなんだ。私はジュウロウザの首に縋り付く。


「怖かったー!すっごく怖かった!こんな闇属性の魔物がいるダンジョンに連れて来られるし、常闇の君が現れるし!リアンに心臓に剣を突き立てられるし!「は?」リアンに私が生きているからいけないんだって、また殺されそうになるし「やっぱり殺そう」すっごく怖かったの!」


 私はジュウロウザに泣きついた。けど、ジュウロウザ、リアンを殺さないで欲しい。



 少し、落ち着いた。こんなに泣くだなんてじぃちゃんに行くなと引き止めたとき以来だ。こんなダンジョンの中でいつまでもいるわけにはいかない。


 しかし、なんで私は私の感情がわからなかったんだ?あまりにも心臓がドキドキするから、一時は病気かと疑ってばぁちゃんに相談してしまったじゃないか。今思えばすごく恥ずかしい。

 前世は20数年生きた経験があるのに自分の感情がわからないっておかしすぎだ!


「それで怪我はないのだな?」


 ジュウロウザが私の涙を拭いながら聞いてきた。


「ジュウロウザの結界のおかげで怪我はないよ」


「そうか、良かった。それでアレはどうするんだ?」


 ジュウロウザが視線だけでリアンを指し示した。そのリアンはというと、ルナにすがりついて泣いていた。ルナの何がリアンを依存させることになったのかはわからないが、大切ならルナの言葉だけを信じず情報収集をしとけよ。なら、こんなことにはならなかっただろうに。


 ジュウロウザに下ろすように言うが、首を横に振られてしまった。


「リアンのところに行きたいの」


「何故だ」


 何故って言われても、リアンにこんなところでつまずいて欲しくない。こんなところでつまずいてしまったら、私が16年かけてリアンをシバいてきた意味がないじゃないか!私のほうが怪我をすることが多かったけど。


「勇者は魔王を倒してもらわないと困るので」


「そうか。そうだよな。彼は神に選ばれた勇者だからな」


 ジュウロウザは納得してくれたのか、私を抱えたままリアンの側に行ってくれた。


「リアン。ルナを生き返らせたい?」


 私の言葉にリアンが反応し、ルナの亡骸にすがっていたリアンが顔を上げた。


「ルナは生き返るのか?」


「それはリアンの答え次第」


「何だ!モナ!俺は何を答えればいい!」


 リアンが立ち上がって詰め寄ってきた。ふぉ!血だらけで、動かない人の半分を持って近づかないで欲しい。できれば、ルナはその場に置いて欲しい。何がとは言わないけど、はみ出しているから!


「取り敢えず、ルナはそこに置いて欲しい」


「こんな冷たい床にか!」


「冷たかろうが置け!どちらにしろ置いてもらわないとなんともできない」


 私がそう言うと、リアンは渋々、暗いダンジョンの床にルナの遺骸を置いた。


「リアン。ルナはリアンの知らないことを沢山知っているかもしれない。けれど、そんなことは当たり前、村とその周辺しか行き来しないリアンに比べ、ルナの方が知識があるのは必然でしょ?だけど、その知識も人伝えだったりして、間違えもある。それはリアンが情報を集めて精査しなければならなかった」


 確かにルナはゲームでの知識はあった。でもそれは、ネットの情報も混じっていた。ネットの世界は嘘も混じっている。それが本当かどうかは自分で見極め無ければならない世界だ。鵜呑みにはしてはならない。


「私は言ったよね。そのレベルでは無理だと。最低レベル45にしないとロズワードは無理だと。ガーディアンと戦う体力がない時点で引き返すべきだった。ねぇ。何で進もうと決めたの?」


「···ルナが行こうと言ったから。大丈夫だと」


「このダンジョンに来たこともないルナの言葉を信じたんだね。私から言わせれば、この結果は予想できたよ。だってここのダンジョンの推奨レベルは60だもの」


 私の言葉にリアンが目を見開く。やっぱり知らなかったんだ。



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