第56話 モナである私と彼女
扉が内側から開く。ギギギギという蝶番が軋む音が耳によく響く。
ど、どういうこと!ここには鍵がないと入れないはず!私は闇待月なんて持っていない!
なら、どうして開いた!
常闇の君がその開いた扉の隙間から中に入っていく。
だ、誰が開けた!元々鍵が掛かっていなかったというオチか!
そ、それはそれで恐ろしい!
扉が完全に開いた。その先は真っ暗で何も見えない。
「プゥ~」
ノアールの怯えた鳴き声が聞こえる。私はあそこに招かれているのだろう。ここに来てばぁちゃんの言葉が降ってきたのだ。
『モナ。神はいつもモナの事を見ておる。忘れるでない』
きっと鍵を開けたのは封じた神なのだろう。ノアールから私は降りる。
「プッ!」
「ノアール。ここで待っていてくれるかな?私は呼ばれているみたいだから」
ノアールは必死に首を横に振って私の横にピタリと寄ってきた。これは何が何でも一緒に行くと言うことだろうか。こんなに震えているのに、無理しなくてもいいのに。
ノアールが離れる様子がないので、そのまま私は扉の先の光が届かない暗闇に入ることにした。はぁ、待っていてくれていいのに。
中は何も見えない程真っ暗な闇に包まれている。だけど、どこに行けばいいのかはわかる。ただ、まっすぐに進めばいい。
私は暗闇の中で足を止める。ここが目的地?
ぽっと明かりが一つ灯った。もう一つ。もう一つと私を囲むように火の明かりが灯っていく。
そして、私の前には先程の常闇の君が立っていた。いや、恐らく本体だ。ゲームでは醜悪な物体X的な姿だったが、これが本来の姿なのだろう。
「こんにちは」
取り敢えず話しかけてみる。
·····
返答がない!何しにここに呼んだんだ!用があるならさっさと言え!と、いうために私は口を開く。
「エルドラードは意地悪ね」
は?いや。私はそんなことを言いたいわけじゃない!
「貴方をこんな所に封じ込めてしまうなんて」
なに?この感情は?悲しみ、絶望、喜び、愛おしい。コレは私の感情では無い!誰だ!
「ふふふ。あまり怒らないで、少しだけ私に時間をちょうだいね。
私でない私がそう言った。意味がわからないが、少し黙っておこう。
「ありがとう。ここにいる私は欠片でしかないから、何もできないわ。そう、何も」
悲しみの感情が伝わってきた。何もできないか。
「貴方に謝りたかったの。ただ、その一言を言うために随分時間が掛かってしまったわ。何度も何度も転生するけれど、欠片である私は貴方の居場所すらわからず、一言を言うことが叶わなかったの。ごめんなさい。私が愚かだったわ」
愚かと私は言った。目の前の常闇の君に向かって。ただ、その謝られた常闇の君は微動だにせず、私を見ている。
「
ん?私が世界の一部に還る?じゃ、私は?
「ああ、大丈夫。
その言葉に常闇の君が動いた。私の腕を掴んだ。そして、私を突き放す。
私の中から何かがズルリと抜けた気がした。
私はそのまま外の方に体が引っ張られていく。そして、私の目には常闇の君に抱かれている私が映った。
ああ、なんだ常闇の君も彼女のことが好きだったんじゃないか。
転生を繰り返す程、常闇の君が好きだった
常闇の君もさまよって、彼女のことを探していたのだろう。
この世界を創造した神。ルギアとクレア。その名が刻まれたものは夏の神殿の【世界の書】しか存在しない。
【世界の書】それは世界の成り立ちを記されたもの。
創造主ルギア神と女神クレア神が世界を創り上げたことから記されていた。平和が世界を満たしていたが、ある時世界に亀裂が走り闇が溢れ出してきた。
創造主ルギア神は世界の溢れた闇を己の内側に取り込み、闇に支配され、世界を壊し始めた。その闇に支配されたルギア神を主神エルドラードが封じ、女神クレアが亀裂を修復するために世界の一部となった。
そう【世界の書】には記されていた。
最後に“ルギア神を封じるために同じく名も封じることとした。この書以外の全てを破棄する”と。
私とノアールは金の扉から放り出された。そして、再びガシャンと鍵がかかる音が重く響く。
はぁ。とため息が出やた。なんで私の中に女神なんかがいるんだ!
あり得ないだろ!
パンパンパンパンパン
何?近くで手を叩かれる音が聞こえる。私とノアールしか居ないはずの封印の間の前でだ。
首を音がするほうに向ける。
そこには、私と同じミルクティー色の髪に常闇の君と同じ金色の目をした人物が立っていた。
「誰です?」
「誰かって?君にはわかるんじゃないのかな?」
ええ、なんとなく見覚えがありますよ。ゲームのオープニングでね。
「エルドラード」
「ええ!呼び捨てー!そこはサマとかつけてよ」
「で、そのエルドラードがなんの用?」
「呼び捨ての上に、タメ口!」
何かエルドラードの顔を見ているとイライラしてくる。何故かわからないけどイライラする。
「で、何の用件があって、私のような人間の前に顕れくさったのでしょうか?」
「くさった···はぁ。褒めに来てあげたんだよ。本当にまいっていたんだよ。もう、これ何回目っていうぐらい同じ時を繰り返していたからね」
は?
「もう、君には感謝だよ。ああ。さっき君の中に女神がなんでいたんだって言っていたけど、君が女神の転生した子の中に入っているだけだからね。萌ちゃん」
何だって!
「いや、私は口に出してないし、思っていただけだし!人の心を読むな!モエって呼ぶな!なんかエルドラードに呼ばれるとイライラ度が増してくる!」
「うんうん。君の魂を選んで正解だったね」
何一人納得して、とんでもないことを口にしているんだ!
「いやー。本当にさ。困っていたんだ。モナの中に女神の欠片がいるってことは世界の一部になった女神と繋がっているってことってわかるかな?」
はぁ?繋がっている?世界の一部になった女神と?
「それが、モナが世界に絶望をすると世界の一部になった女神と共鳴して、世界の破壊をもたらすんだよ。そこでリセット。また、途中からやり直すんだけど、またリセットの繰り返し、大変で大変で」
ん?それって【極の逆転】を使ったってこと?
「うん。そうそう」
いや、私、口に出してないし。
「君はゲームの最後をみたよね」
「はぁ?」
なんでここでゲームの話がでてくるんだ?
ゲームの最後ってエンドロールのこと?プルム村の風景から始まって、幼い子供たちが遊んでいる姿、農作業している大人の姿。そして、モナが二人の子供と一緒に勇者リアンを迎えるのだ。
「あら?戻って来たの?」
と10歳くらいの子供と幼い子供がいるモナが口にするのだ。
「その人は誰?リアンのお世話になった人?」
モナは首を傾げながら勇者リアンに尋ねる。まさかリアンと結婚式を挙げ、世界中から祝福され挨拶に来た真のヒロインとはモナにはわからない。
「モナ。彼女は俺の妻になった人だ」
その言葉にモナは微笑む。
「リアンの妻ってなあに?」
「ああ、結婚したんだ。モナも祝ってくれるだろ?」
「ええ、勿論」
そう言って、モナは子供を下に降ろして、手にしたムチを真のヒロインの方に振り下ろすってところで、画面がブチッと黒い画面になり、スタッフロールの続きがはじまり、一度仲間にした者達の映像が流れ出す。
そして、最後に“やり直しますか? Yes・No”と出てくるのだ。
何を!っと勿論突っ込んだ覚えがある。
モナ。最悪だ。ってなんで中途半端に映像が切れるんだ!
「そう、それそれ」
いや、私の思考に入って来ないでほしいのだけど?
「あの勇者の子って毎回、
え?あの子供たちは一体なに?
「ああ、子供ね。君が天使って言っている子の子供と、君の妹の子だよ」
何だって!あれがリリーの子供とソフィーの子供だったのか!それならあの10歳ぐらいの子供にも納得出来る。
「それで、
でも、君も知っているように、
だけど、勇者は
そして、
は?あのブチッって画面が切れたあとにリアンがモナを殺していた!最悪だ!
「そう、何回やり直しても駄目だった。で」
そう言って、エルドラードは私を指さした。
「君たちの世界で、
無理ゲーの上に無茶ゲー!モナエンディングってどうすればそんな物にたどり着けるんだ!
「うん。無理だったね。だから、君の魂を引っ張ってきた。君って恋人に裏切られても文句を言いながらゲームしていたし、これなら世界を崩壊させなくて済むんじゃない?って思ったわけ」
なんだと!そんなことで私がここにいるのか!いや、世界の崩壊は大変なことだけどね!
「だけど、君は僕が思っていた以上の成果を上げてくれた。だから、わざわざこの僕が君の前に出てきて褒めて上げているんだよ」
思っていた以上の成果?
「そう、あの母神の欠片の所為で、色々気を使っていたことが、もう、気にしなくて良くなったし、父神の封印も解けかけてどうしようかと思っていた所に、母神の欠片を送り込んだから、大人しくなってくれるだろう?もう、これ以上ないってぐらい素晴らしい結果を得られたよ」
いや、エルドラードにとっていい結果っていうだけだよね。
「だから、僕直々に君のお願いごとを聞いて上げるよ。なんでも言ってもらっていいよ」
なんか、こいつ嫌いだな。
何でも?なんでもかー。こいつのニヤニヤした顔を殴りたいって言ってもいいかな?
「えー。それは駄目だよ」
だから、私の思考を読むな!
「それじゃ、
世界の書には詳しいことは書かれていなかった。本当に概要だけを記載されただけのように。
「え?そんなことでいいの?それはこの僕が父神を封じるように、そそのかしたからに決まっている」
お前が悪いじゃないか!
「この僕が全てを統べる神だからね」
ああ、こいつを神と崇めるのは嫌だな。私は英雄様とエルフの姫を崇める村に生まれて良かったよ。
「これじゃ。僕の凄さをわかってもらえないからね。君のステータスを女神仕様から普通に戻してあげるよ」
は?女神仕様?
「この世界を十分楽しんでいってくれるといいよ」
「いや、女神仕様って意味が···コゥラァ!消えるんじゃない!」
エルドラードはニヤニヤ笑いながら消えていった。やっぱり、殴らせてもらったほうが良かった。
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