第55話 転移装置

十郎左 side


 モナが消えた。目は離してはなかった。ドロップした金色の針を見て、間違いはないとほっとした様子だった。


 あいつらだ。あの魔術師が奇妙な魔術を放ったことは確認した。だから、モナをかばおうと手を差し出したところで記憶が途切れている。

 おかしい。まるで、ぷっつりと切り取られたかのように記憶がない。


「将よ。落ち着かれるがよい。恐らくアーテルの魔女であろう。時を操ると耳にしたことがあるぞ」


 アーテルの魔女?時を操るだと!


「将。お主は姫に結界を施したのであろう?滅多なことでは姫は傷つかぬ。それにノアールもついておる。フォッフォッフォッ」


 シンセイも俺に落ち着くように言ってはいるが、相当怒っているようだ。短い付き合いだが、あの笑い方をするときは相当頭にきているときだとわかった。


「それにほれ。事情を知っていそうなのを見つけたであるぞ」


 そう言ってシンセイは姿を消し、再び目の前に現れた。確か、あのリアンという者の仲間の女だったな。


「おい、モナを何処にやった」


「ひっ!」


「将よ。そのように恐ろしげな顔で問うても答えてはくれぬぞ。のぅ。娘子よ。姫はどこぞに連れて行かれたのか、教えてくれぬか?くれぬのなら、その綺麗に塗られた赤い爪を引き抜いてやろうぞ」


「い、いやー!」


 シンセイも大概だろう。女がガタガタ震えている。


「ルルドよ!」


 女は叫ぶように答えた。


「なぜ、モナを連れて行った。もう、モナは必要ないだろう?」


「ヒッ!言っておくでありますが、これはルナが言っておりましたことよ。私は詳しくは知らな···」


「さっさと言え!」


「将よ、殺気が漏れておるぞ」


 言い方がまどろっこしいからだ!さっさと言えばいい!


「生贄でありますのヒッ····」


 女はそれだけを言って気絶をした。シンセイ、人のことが言えないぐらい殺気がもれているが?


「これはこれは、由々しき事態であるのぅ」


「ああ、これはぶっ殺すしかないな」


 俺とシンセイは同時に歩き出す。奥にある転移装置のところにだ。


 フォッフォッフォッとシンセイの笑いが先程から止まらない。



 転移装置。軽くだが、モナから説明は受けていた。




「え?転移装置に興味があるのですか?」


「興味というより、その金の針如きで動くのかという疑問だ」


 そう、ただ疑問だった。針があるだけで転移装置が動くのかという疑問。

 そんな疑問にモナは笑って答えた。


「そんなわけないですよ。ただ、ここの転移装置に足りない物が指針の針ということだけです。場所を示す針と次の転移が出来る時間を示す針」


「連続して転移ができない?」


「できませんよ。転移するために必要な魔力を溜めるために時間が必要ですから」


「ああ、その時間か」


「別の大陸ではその魔力を溜める魔石が必要だというところもありますからね」




 そう、問題が転移に必要な魔力だというのなら、魔石に俺の魔力をブチ込めばいい。


「それで、将よ。あと時間は如何ほどあるか?」


 時間?何のだ?

 

「時間とは?」


「姫の力で押さえつけられていた。お主の闇のことじゃ」


 ああ、そうかと思い出し、ステータスを開く。最近はそんなことを思うこともなかった。これも全てモナのおかげだ。


 ·····


「残り時間は0だ」


「それは急がねばならぬぞ」


 時が止まっていたという割には俺のLUKが-10000000に戻っていた。外を繋ぐ大きな扉の方からミシミシと音が響いてきた。何かが入って来ようとしているのだろう。


 転移装置の台の上に立つ。目の前には二つの円盤に金色の針が付いていた。一つは円盤に地名が書かれており、針はある一点を差していた。その名はルルド。やはりルルドに行ったことには間違いはないようだ。

 もう一つは赤と緑に分けられた円盤があり今は赤い色の所に針があった。これが恐らく時刻を示すものなのだろう。


 足元をみると人の頭部程の大きさの石が埋め込まれていた。かなり大きな魔石だ。これに魔力を溜めればいいのか。


 足元に向かって魔力を注いでいく。すると、赤と緑の円盤の針が動いた。やはりこれでいいのだろう。


 扉の方からの音が大きくなってきた。バキバキと破壊される音が響いてきた。


「わ、私も連れて行って欲しいであります!ここに居たら死んでしまうであります!」


 気絶していた女が扉からの音の大きさに目を覚ましたのだろう。そう言って、女は転移装置の台の上に乗ろうとしていた。


 死んでしまう?モナを生贄にしようとしているのにか?


「フォッフォッフォッ。それは娘子の都合であって、吾らの都合ではないのぅ」


「あ、でも。私このままだと死んでしまう」


 女は涙ながらに訴えるが、俺から言わせれば、だから?と問いたい。


『テンイデキマス。テンイシマスカ?』


 その無機質な声と共に扉が破壊された音が聞こえた。扉があったところから顔をのぞかせたモノはドラゴンだった。恐らく地竜だろう。


「あ。た、助けて」


 女は地竜を見て助けてと言ってきたが、何故、俺がお前を助けなければならない。と思ったが、ここが無事でなければ戻って来れないなと、ふと頭に過ぎった。それは困ったことになるだろう。


 俺は女の所に行く。すると女はほっとした表情になり手を差し出してきた。

 なんだ?俺がその手を取るとでも?モナとも手を繋いだこともないのに?


 女の手を蹴り上げ、転移台から離す。そして、刀に手を添え、ドラゴンに向かって抜き放つ。ドラゴン如きが邪魔をするな。


 崩れ落ちるドラゴンを視界に収めながら、俺とシンセイはルルドに向けて転移をした。


─────────────────


モナ side


 混乱が収まってきて、冷静になってきた。私、馬鹿だ。犠牲って何!私は普通にゲームでは通ってきたし!


 実はこの先の部屋に石の置物があるのだ。そちらの部屋からこちらの部屋には行けるけど、帰りが帰れないという状態になってしまうので、ここに石の置物を置いて行くというのが、ゲームの進め方だ。

 だけど、転移の間からはそんな置物はないので、ゲームをしていた誰かがここで仲間に別れを告げるを選択して、仲間を置いて先に進んだことをネットにあげていたのだろう。

 それをルナが勘違いをして私をここに置いて行ったと。で、ネットでは生贄だと叩かれていたので、そこもルナが勘違いする要因の一つとなったのだろうな。


 はぁ。帰るか。私は立ち上がろうとするが、先程の恐怖と安堵感でプルプルして足が上手く動かない。え?これは困る。


「ぷー!」


 ノアールが一鳴きして、私の腕から転げ落ちた。え?私の腕も限界だった?

 べちゃりと地面に落ちたノアールを拾おうとすると、ノアールが光に包まれた。


 何が起こった!


 光が収まると、大型犬程の大きさの四足歩行のドラゴンがいた。


「ノアール?」


「ぷーぷー」


 あ、その変な鳴き声はノアールだ。ノアールは自分の背を私に向けてぷーぷーと言ってくる。私に乗れと?


 まぁ、まともに歩けなさそうなので、遠慮なくノアールの背中に腰を下ろす。うん。なんだかベルーイが小さくなったみたいだ。


 あ、私が四角い台から降りたために扉が閉まった。まぁ、向こうからは入れるからいいよね。


「帰ろうか」


 私はノアールに言って、もと来た道を戻るように首を撫でた。う、うん。鱗だね。


 もと来た道を戻っている。だけど、なんだろう?心の奥がざわざわとざわめいているような。大切な何かを探しているような焦り?不安?いや、やっと見つけた安堵? 


 私の心が私で無いようなぐちゃぐちゃな感じがする。下を向くとぼとぼとと涙がこぼれいる。


 おかしい。これは何かおかしいと冷静な私と、見つけた見つけたと喜ぶ私がいる。お前は誰だ!と言っても私だ。


 はぁ。困った。


 帰りたい自分と、あちらに行きたいと言う自分がいる。


 あちらは駄目だという自分と、行かなければならないという自分がいる。



 ああー!!!

 わかったよ。行けばいいよね!


「ノアール。あっちの曲がり角を曲がってくれない?」


「ぷ?」


「うん。ちょっと、寄り道。」



 薄暗い道。すべての床と壁が黒い。ただ、淡く漂う光が空中に漂っているから暗闇ではない。そんな、道に入って行く。


 このダンジョンの魔物は、とても強い。それも闇属性だ。光の魔術があって初めて対抗できる。あとは、力技のゴリ押しだ。ここの推奨レベルは60。それも他の大陸で勇者の光を手に入れてからの方がいい。


 サブイベント【常闇の君】


 サブイベントだから別に攻略する必要はない。ただ、ここには聖剣エスパーダがあるのだ。


 『死して尚、封印せざる神のなれの果』を倒せば得られる。ただ、相手は神だ。再び眠りにつくだけで、神殺しになるわけではない。


 そう、私は『死して尚、封印せざる神のなれの果』が封じられた場所に向かっている。


 サブイベントの名でもある【常闇の君】。その『死して尚、封印せざる神のなれの果』の残滓のことだ。ダンジョン内でさまよっている残滓。何かを探しているのか、封じた神を呪ってさまよっているのかわからないが、攻撃は受けるのに【常闇の君】には攻撃が通らない。だから、逃げの一択なのだ。


 で、その【常闇の君】が私の後に付いてきているんだけど·····無言で何も音を立てず付いてくるって、ホラー映画ですか!


 横目でチラチラ見てみるけど、普通にイケメンなんだけど!!ゲームじゃ黒い影だったけど、現物は青白い肌に黒いダボッとした衣服を引きずるように纏い、床につく程の長い黒髪が蠢いているが、顔に生気がないだけで、イケメンだ。



 と、扉の前までそのまま来てしまった。ノアールはプルプル震えながら頑張って歩いてくれた。私が重くてごめんね。しかし、ノアールに首を振られた。

 え?付いてきた存在の方が嫌だったと。

 ああ、ホラーだもんね。


 目の間には金色の扉がある。黒い世界に光が差すように金色の扉だ。

 この扉は闇待月が無いと開かない。


 月。


 私は私を見下ろす常闇の君を見上げる。生気のない金色の目が私を見ている。月か。


 はぁ。しかし、私はここに来てどうしたかったのか自分でもわからないのだけど?どうすればいい?


 私は私を見下ろす常闇の君に話しかける。


「ねぇ。私に何か用でもあるの?」


 ····


 答えてくれるわけはないか。これはただの残滓だ。本体はこの扉の向こうに封じられている。


 ガチャッ


 異様に耳に響いた。何かの鍵が外れる音。ま、まさか!!!





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