第54話 ガーディアンを倒そう

「モナ!ルナを悪く言うな!モナこそ何もできないだろう!」


 リアンの言葉にジュウロウザの右手が動こうとしたので、左手を掴んで動かないように視線を向ける。


 そして、リアンに手をかざし、治癒のスキルを発動させる。


「その何もできない私を村の外に連れ出したのは誰?リアンでしょ?それに何もできないなりに私にも出来ることはあるけど?」


 傷がついていた頬に、右腕に滲んでいた血。アチラコチラに付いていた擦り傷。すべてが綺麗に治っていた。そのことにリアンは驚きを隠せないようだ。


「ああ、私はカスステータスだからね。治すのは同郷のリアンだけ、それ以外は治さない。ばぁちゃんの薬が欲しいのなら、そうだね。銀貨1枚で人数分の回復薬を売ってあげる。良心的な値段だよね」


「1万Gガルか。それぐらいなら」


 そう言ってリアンは銀貨2枚を差し出してきた。ああ、一人2本出せということか。私が銀貨を受け取ろうとすると、ジュウロウザが銀貨をふんだくり、私の鞄からばぁちゃんの薬を8本分をリアンに押し付けるように渡した。


「そうだったね。モナは頑張り屋さんだった。そうか、こんなことも出来るようになったのか」


 何故かリアンが嬉しそうに言ってきた。いや、治癒スキルは努力如きで手に入るものではない。神の加護を受けてのことだ。ついでに退魔のスキルももらってしまったけどね。


 リアンはキラキラエフェクトを振りまいて私を見て言った。


「モナ。俺たちと一緒に行かないか?」


「はぁ?寝言は寝て言ってくれる?私のステータスを知ってよくそんなことが言えるよね。私の助言を無視するほどルナの言葉を信じているのよね。そうね。ルルドに行くなら出直しなさいよと私は助言をしておくよ。あとは好きにすればいい」


「モナ。考えておいてね?」


「行かないと言っているのがわからないのか!馬鹿リアン!」


 忘れていた。リアンにははっきりとした言葉で言わないと、自分の都合のいいように解釈をする癖があるんだった。


「うん。わかったよ」


 笑顔で返事をされたけど、本当にわかってくれたのだろうか。

 リアンは回復薬を持って座り込んでいる4人の元に駆け足で向かって行った。ああ、リアンを相手にしていると疲れる。


「はぁ。さっさとガーディアンを倒して帰りましょう」


 もう村に帰りたい。ベルーイを迎えに行ったら速攻転移で帰ろう。


「ああ、あいつの顔は見たくない」


 ジュウロウザもあのキラキラエフェクトがうざいと感じてしまったのか。勇者か特典かなんか知らないけど、キラキラエフェクトうざいよね。いや、フェリオさんも漏れているから、血筋の問題?


「姫。ノアールを持っていただけるか?」


 シンセイがオプションノアールを差し出してきた。


 取り外していいのか!

 今まで、ずっと付けていたじゃないか!


 まぁ、戦いになるから邪魔なのだろう。私はシンセイからノアールを受け取る。孵化して一ヶ月経つが、あまり変わりがない。やはり、そろそろ肉を食べさせた方がいいのだろうか。幼竜なんて育てたことがないからわからないよ。


 巨大な扉の前に立つ。天井までめいいっぱい扉が存在している。その昔は繊細な粧飾でもしてあったのだろう。その名残がところどころに見えるだけで、今はただの石の扉だ。


 その両開きの扉をシンセイが軽々と開ける。重そうに思えたけど軽い?シンセイが片側の扉を押さえ、その隙間にジュウロウザ先に入り、その後に私が続いて入り、最後に扉を押さえていたシンセイが入ってきた。その扉が閉まるとき、ものすごい音を立てて閉まっていった。え?本当は重い?


 中を見渡すと、煌々と明かりが灯された広い空間が広がっている。その中央奥には丸い円状の舞台のような場が見える。恐らくそこが転移装置だ。


 そして、広い空間の両端に仏像のように突っ立っているストーンゴーレムが2体存在している。その大きさは天井と変わりない。目測5m程か。


 ジュウロウザとシンセイが武器を構え、ストーンゴーレムに近づいていくと、ゴーレムの目が光を灯し、ゴゴゴゴと動く。

 ·····が、目の光が消えた?!


 え?どういうこと?ジュウロウザを見ると刀を鞘に収めているところだった。シンセイはというと、首を傾げていた。

 何が起こった!


「あ、あの?私にはわからなかったのですが、何が起こったのですか?」


「いやはやなんとも、人形相手では面白みも何もないでありますな」


 は?

 シンセイは手応えがなかったと言わんばかりに残念そうにしている。そして、ストーンゴーレムの額の石を取って来ると言って、動かなくなったゴーレムの方に向かって行った。


「弱点がわかっていれば、簡単なものだ」


 そう言いながら、ジュウロウザがこちらにやってきた。ああ、弱点ね。確かに額の石を壊せばいいとは言ったものの、普通では届かない高さなんだけど?

 きっと凡人の私には理解できないことが起こったのだろう。


「姫。これでよかろうか?」


 シンセイが私に差し出してきた。二本の金色の針だ。指針の針。転移装置を動かす指針の針だ。それを片手で受け取る。


 うん。間違いはない。


【転移の指針】

 転移する場所を指し示すものと、次に転移出来る時刻を示すものである。


「ええ、大丈夫です。場所と時刻を示す針で間違いありません」


 私が二人にお礼を言おうとしたところで、背後から声が聞こえた。


『レプトロック!!』


 な!この呪は·····

 レプトロック。それは時を止める呪文だ。あのロリババア固有魔術の一つでもある。


 私は目を覚ました。いや、目はずっと開けていた。ただ、時が解かれたのだ。


「モナ。大丈夫?」


 目の前にキラキラリアンの顔があった。苛つく!!いや、その前に何が起こった!


「ここはどこよ!」


 周りを見渡してもジュウロウザとシンセイの姿が見えない。すごい不安感が襲ってきた。ヤバイ。ここやばいよ!


「ルルド遺跡だよ」


「はぁ?!リアン!馬鹿でしょ!今のレベルでルルドに来てどうするの!」


 絶対に死ぬ。こんなところに居たら絶対に死ぬ。


「うるさいわね。ここに来ることが目的だったのだから、ルルドに来るなんて当たり前でしょ!」


 ルナは何を言っているのだと言わんばかりの態度だ。私が何を言っているんだと言いたい。


「ルナ!常闇の君のサブイベントを攻略して、そんなことを言っているのよね」


 あのサブイベントを攻略して言っているのなら、何か考えがあってのことなんだろう。


「はぁ?サブイベントなんてする必要ないでしょ?ああ、でもネットでは見たことあるから大丈夫。常闇の君を見つけたら逃げればいいのでしょ?」


 駄目だ。サブイベントを攻略してなかった。戻ろう。私だけ戻ればいい。


「悪いけど、私は帰るから」


「駄目よ。メリーローズ!」


「悪いけど来てもらうのじゃ」


 ロリババアがそう言うと、小さなステッキを私に向けて振り、『エルバアノ』と呪を唱えた。草が私に絡みつき、帰ろうとした私を引き止めたのだ。

 まだ、ここは転移装置がある部屋だ。時間はかかるだろうが、待てば転移装置が使えることになるのに!

 っていうか魔術で拘束されているのに結界が反応してない!使えない!

 あれか!攻撃性がないからか!


 私はノアールごと拘束され歩かされている。そう、ノアールを抱えたままだ。す、少しならいいのだけど、流石に筋肉のない私の腕がプルプルしてきた。


「ぷっぷー?」


 何を言っているかわからないけど、心配してくれているのだろう。


「ちょっと、早く歩けないの!」


 ルナに文句を言われた。いや、私の歩く速度はこれ以上早くならない。幼児並の速さからは早くはならない。


「悪いけど、私の歩く速度はこれで精一杯。リアンに聞いてみなさいよ。答えは同じだから」


「リアン!モナが遅すぎるわよ!」


「え?モナとの散歩はこんなものだよ。これ以上早く歩くとコケるから、もっと遅くなるよ」


 リアンは経験済みだ。私を散々引っ張り回したのだから。


「チッ!まぁいいわ。もうすぐだから」


 何がもうすぐ?出口はまだまだ先だけど?


「でも、ここは魔物がいないのじゃろうか?」


「いないならそれでいい。それよりもお腹が空いた」


 お腹を擦りながら女剣士ルアンダが言っている。携帯食でもかじっておけばいいのに。


「ここで、休憩なんて取らないからね」


 ルナの言うとおりだ。ここで休憩なんて命取りになってしまう。はぁ。私はここで死んでしまうのだろうか。


 ん?あれ?踊り子シュリーヌが居ない?ああ、そうか転移は5人まで私を転移させるために踊り子シュリーヌを置いてきたということか。



「ああ、多分ここね」


 ルナがそんなことを言って足を止めた。目の前には厳重な金属製の扉がある。あれ?なんかここであったような?うーん?


「メリーローズ!」


「わかっておるのじゃ。すまぬのぅ」


 ロリババアは私に謝って部屋の中央に連れて行った。そして、四角い台の上にのるように促す。


 くー!喉の奥に何かが詰まっているように思い出せない。違うな。目からウロコが溢れるくらい?ああ、なんだか不安感に押しつぶされそうで、思考がまとまらない。


「リアン!さっさとしてもらえる?」


「モナごめんね」


 そう言ってリアンは腰に佩いてある剣を抜いた。

 あ!思い出した!


 私の左胸に衝撃が走った。


 転移の間からはルルド遺跡の出口にはいけない。だけど出入りできる方法があるとネットで流れていた。仲間を犠牲にすると扉が開くと。


 はぁ、そういう事か。だから、私に一緒に来ないかといい続けていたのか。最悪だなリアン!お前が犠牲になれ!


 っていうか結界は!!エスターテ神!使えないスキルをジュウロウザに与えたのか!


 胸の衝撃に私は後ろに倒れていく。そして、扉の開く音。去っていく足音。



 ·······




 ·····ん?痛くない。痛いのは倒れた時に打った頭が痛い。

 私を拘束してた草もなくなっていたので、刺されたはずの胸元を擦るが何も傷が付いていない。

 結界が役に立っていた!これはあれか!私の身を傷つけるモノに対して防御するというものだったりするのか!


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