第53話 そっと触れるだけ
「姫。あの者たちがこの階層に入りましたぞ。あと1刻ほどでこちらに来るであろうが、まだお休みが必要ならブチのめしてまいろうぞ」
シンセイの物騒な言葉で目が覚めた。
「まいらなくていいです」
「なんじゃ。つまらぬのぅ」
そんな残念そうな声と共にシンセイの足音が去っていった。私は外に出る準備をするために体を起こそうとするが、ジュウロウザに抱きしめられていて動けない。
あれからテントに入り、待っていたが、どれほど待っていてもリアンたちが来ることはなかった。3日後って言ったのはそっちだろうが!
リアンたちがこの50階層に来たらシンセイが教えてくれるというので、仕方がなく寝ることにした。
このダンジョンってフィールドかなり広いのだけど、シンセイ程になるとそんなこともわかるのだろうか。
シンセイが起こしにきたということは、起きなければならない。ならないのだけど···。
「キトウさ「モナ。おはよう」····」
かぶせてきた!ジュウロウザ呼び以外は認めてくれないのだろうか。
「おはようございます。ジュウロウザ」
しかし、ジュウロウザが私を放してくれる様子がない。うっ··そんなに見つめられても困るんだけど。
「あのー、起きたいのですが、放してもらえません?」
「ああ」
返事だけ!
いや、だからね。シンセイが言っていたじゃないか。一時間後ぐらいにリアンたちがここに来るって。
しかし、ジュウロウザはベッドの中で私を抱きしめた。
「はぁ、嫌だ。本当に嫌だ。本当に必要なのか?あのリアンという者に会わなければならないのか?」
この一ヶ月、ジュウロウザは口癖のように言っていた。行く必要があるのかと。
でも、ここ最近はリアンがいる事に対して嫌だと言っていることが多い。リアンがいる事が駄目なのか。
「リアンがいることが駄目?」
「ああ。いや、嫉妬だ。腹立たしいほどに嫉妬を覚える」
嫉妬?!リアンのどこに嫉妬する要素が?
あれか!ハーレムモードのことか!
「モナ、何を考えているか知らないが、恐らく違う」
え?ハーレムモードに嫉妬してるわけじゃない?っているか、なんで私の考えていることがジュウロウザにわかるんだ!
「はぁ、モナは自分の評価が低すぎるな」
なぜ、そこに私の評価が入ってくるのかわからないのだけど?
ジュウロウザはため息を吐きながら、私を抱えたまま起き上がる。
「モナ。守護のスキルを」
「····」
「モナ」
「今までどおりでいいですよね」
私が視線を横に向けながら言うと、ジュウロウザは私の頬を手に添え、強制的に顔を正面に向かせた。
「家族と言ってくれたのに?」
言ったよ確かにそんなことを言った。だけど、それは守護者とその対象者を上下に分けるということに対しての言葉だ。
「言いましたけど、言いましたけど!それとこれとは違います!」
何で守護スキルを発動させるのに、なんでキスをしなければならないことになるんだ!
「キョウヤと間違えてしたのに?」
「ぐふっ!」
したよ!したけど、一度だけだ!もう、クソムカつくキョウヤの名を出さないで欲しい。何度か寝言で暴言を吐いていたことでも、文句を言われたけれど、あれは、心の奥底に押し込めていた怒りが未だに消化されていないだけだ。
三十路前の女の恨みは相当に深いからな!
「モナ?」
くっ。3日前からこの攻防を毎朝しているのだ。本当にジュウロウザの心境に何が起こったのだ。
すればいいってことだよね。すれば!
私はそっと触れるだけの口付けをした。
くっそー。すっごく心臓がバクバク言っている。直ぐに収まってくれないと困るよ!
そして、私はジュウロウザに結界を施され、テントの外に出てリアンたちを待っていた。その足元にはシンセイが
「吾が戟は姫の意を介し敵を討ち滅ぼさんことを誓おう」
物騒なことを口にしているが、これがシンセイの守護スキル発動の誓いの儀というものらしい。
守護者によって守護の発動条件が違うようだ。なんか釈然としない。
ジュウロウザはと言うと、ご機嫌でテントを畳んでくれている。ここ3日程の朝の攻防を失くしてくれないだろうか。私の心臓が保たない。
「おお、やっと来たようであるぞ」
シンセイが私達が来た方を見ながら言ったが、私も目にはさっぱりわからない。
目を細めて見ていると、ジュウロウザに鞄を肩に掛けられ、外套を深々と被らされた。
そのジュウロウザはというと厳しい視線をシンセイが言った方向に向けていた。
その方向から足音と息遣いが聞こえてきた。話し声ではなく、ただの息遣いだ。
私の目にも見えてきたが、その姿はボロボロと言ってよかった。え?いったい何があったのか。
「な、なんであんた達の方が早く着いているのよ!」
ルナが一番はじめにそんなことを言ってきた。そこは遅れてきて申し訳ないって謝るところじゃないの?
「それになんでそんなに小綺麗なのよ!」
え?それは真面目にダンジョンの攻略なんてしていないし、私は名声とかいらないし。
「人を待たせておいて言うことはそれかのぅ」
シンセイが戟の柄で地面にカツンと叩きルナを責める。
「爺さん。ルナを責めるな!弱い俺がいけなかったんだ」
リアンがルナをかばうように前に出て言った。弱い?まさかと思いリアンのレベルを視る。
レベル42だと!約束の45に届いてないじゃないか!これだとレベル45で覚える【レイブレイクソード】が使いえないじゃないか!これがないとストーンゴーレムの硬さに対抗できない。
ついでに他のメンバーのレベルを視ると。
女剣士ルアンダ Lv.25
踊り子シュリーヌ Lv.21
魔術師メリーローズ Lv.53
聖女ルナ Lv.16
ルナ!レベル16ってどういうことだ!あれだけリアンのレベルのことで舌打ちしていたくせに、ルナ自身がレベル16ってないわー。
ロリババア以外話にならん!出直してこいと叫びたい。
私をここまで呼び立ててこれか!
「はぁ。これでストーンゴーレム2体とどう戦うつもりなのか聞いていい?リアン?馬鹿でしょ?仲間を殺したいの?」
「これがあるから大丈夫だ!」
そう言って堂々と見せてくれたのが、私が渡した【暁の星】だ。
本当に馬鹿だった。
「それ使ったことないでしょ?こんなところで使えば、奥にある転移装置も木っ端微塵になると思うけど?」
するとリアンを含めた4人が一斉にルナを見た。恐らくこれがあればガーディアンを倒せると言ったのだろう。確かにゲームでは倒せたかもしれない。だけど、ここは現実で地下のダンジョンだ。
【暁の星】というアイテムの超新星的爆発をまともに受けて使用者も生きていけるかどうかわからない。
因みに私の眼で見てみると。
【暁の星】
レアアイテム。使用者の命を喰らい世界を揺るがす程の爆発を起こす。
ただし、魂の質が悪いと不発に終わる。
と、ある。魂の質がどういうものかわからないが、大抵が恐らく使用者は命を喰われて終わることになるのだろう。だから、これは使用するより売った方がいいものだ。
「つ、使ったことないわよ!だけど、あんたも使ったことないでしょ!」
「それはそうね。そんな使用者の命を吸って爆発を起こすものなんて、怖くてつかえないもの。だから、私は売れば星貨1枚の価値があるって教えてあげたじゃない」
「はぁ?!なんですって!」
私が『はぁ?』だ!
「ルナどうする?」
「これは出直した方がいいのじゃ!」
「····」
「····」
女剣士ルアンダと踊り子シュリーヌは疲れすぎて、言葉も出ないようだ。だが、ここまできて戻れるのかとい不安の顔色がみえる。
あちらはなにやらモソモソと話をしだした。ここまで来いと言われ来たのに、もう一度とか面倒なんだけど。これはもう、レアアイテムだけ渡せば良くない?
「シンセイさん。ちょっとこっちに来てもらえますか?」
シンセイをこちらに呼び寄せ、ジュウロウザとシンセイに提案をする。
「あの、私もう彼女たちにつきあわされるのは嫌なので、ジュウロウザとシンセイさんでガーディアンを倒してもらえません?それで、さっさと村に帰りましょう」
ルナはレアアイテムが欲しいだけだ。それが手に入れば私など必要ないはず。
「しかし、姫がガーディアンに命じれば済むのではなかろうか?」
シンセイの言うことは最もだ。しかし、そんなところを見られれば、その先もいいように使われるかもしれない。ダンジョンでない古代遺跡にはいつくか開かない扉があった。その扉の向こうに行けるとわかれば?
うん。これ以上関わらないことが一番いい。ルナ。リアンのことは頼んだ!
私はシンセイの言葉に首を振る。
「わかり申した」
え?これだけでわかるの?シンセイから了承を得たので、ジュウロウザの方を伺い見ると、すごい笑顔だった。
「これで、関わらなくて済むというなら、喜んでガーディアンとやらをぶっ殺そう」
いや、ガーディアンは作り物だから。壊すという言い方の方がいいかな?
ジュウロウザとシンセイにストーンゴーレムの弱点を教え、シンセイにリアンの方にレアアイテムだけ渡すから、あとは好きにしてと伝言をことづけた。
しかし、ここでこんなにボロボロになっていては、ルルドでは生きてはいけない。なぜならルルドでは···。
あ゛?なんでリアンがこっちに来るんだ?隣から発せられる雰囲気がだんだん悪くなってきているじゃないか!
「モナ。悪いんだけど。回復薬と傷薬を持っていないかな?もう、俺たちが持っていたものは使ってしまってないんだ」
それはそうだろうね。ここのダンジョンの推奨レベルは40だからね。足手まといがこんだけいれば、使い切ってしまうだろう。
だけど、誰が素直に渡すか!
「聖女のルナに頼めばいいんじゃない?」
「ルナはまだ見習いなんだ。あんまり無理はさせられない」
はぁ?見習いだからなに?ロリババアは別として、レベルが一番低いルナがそんなに疲れてない様子なのは、彼女は戦闘行為には参加していないということだ。
回復役として、参加しろよ!
「へぇ。じゃリアンは見習いだから何もさせてない、足手まといを仲間に入れているんだ」
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