第52話 地底湖ロズワード
3日後、私達は緑の森に囲まれた中に突如として現れた砦のような建物の前に立っている。これが地底湖ロズワードの入り口だ。
素材は何でできているかわからないが、滑らかな白い石の外壁で4つの塔が東西南北に物見台として存在している。その四方の物見台に連なる建物が堅牢に存在している。正面には大きな扉があり、そこがこのダンジョンの入り口となるのだ。
「ここが入り口とは、なんとも頑丈なつくりであるな」
シンセイが扉の前で顎を撫でながら、感心している。確かにダンジョンというより、防御拠点として使われていそうな、たたずまいにみえる。そして、その扉も何の金属かはわからないが、扉全体に金属が貼られている。
「モナ。今日が約束の3日目だが、いいのか?」
あれからジュウロウザは私の事を『モナ』と呼ぶようになった。しかし、私はジュウロウザから呼ばれ慣れていないので、呼ばれるたびに心臓がドキドキしてしまう。それもサイザールの街から森の中を移動する間も今も抱えられっぱなしなので、そのドキドキがジュウロウザに伝わらないか心配だ。
「ええ、大丈夫です。キトウさ···ジュウロウザ」
今まで通りキトウと呼ぶと笑っていない笑顔を向けるのはやめて欲しい。怖いよ。
「中に入って北の塔を目指してください」
私がそういうと、頭の上にノアールを乗せたシンセイが扉に手を掛けた。ノアールはシンセイのオプションなのだろうか。雪華藤を食べるとき以外私のところには全く来ない。やはり、ドラゴンは鳥と違って親の刷り込みはないのだろう。
黒いオプションを乗せたシンセイの手によって、重い音をたてながら扉が開いていく。
中は魔道具の光だろうか。明るく、白い石の床を照らしていた。ジュウロウザが足を進め中に入っていき、その後にシンセイも中に入ってきた。という事は当然扉を支える者が居なくなれば、物凄い音を立てて大きな扉が閉まっていく。これ、開くよね。
「階段があるのぅ」
シンセイが白く反射している床に対し、闇を取り込んだようにぽっかりと穴が空いているところを指した。
「そこはダンジョンの入り口なので無視です」
私は北の物見台の様な塔に行くように促した。下に向かっていく階段なんて無視だ。誰がまともに50階層もダンジョンを攻略するか。私に死ねと?
ここに転移装置があるということは、その昔、転移装置を移動手段として常用していたということだ。直通の通路が存在しているに決まっている。
「しかし、古代遺跡と言うには綺麗なものであるな」
シンセイは古代遺跡に入るのが初めてなのか、杖をカツンカツンと付きながら、あちらこちらに視線を向けている。勿論シンセイの魂と言うべき
「ここはまだ機能しているようですからね」
まぁ、私も古代遺跡なんて初めて入るけどね。
「ダンジョンが元は観光施設だったとは驚きだな」
ジュウロウザがボソリともらした。
そう、ここは観光施設だった。この情報を得たのは夏の神殿の【世界の書】がある白亜の間だ。夏の神殿で5日の間で調べられる事を調べまくったのだ。しかし、全く時間が足りなかった。
元々は地底湖を観光資源とする観光施設だった···らしい。
ゲームでも神秘的な青さにキラキラエフェクトが追加されて綺麗ではあった。
「ここであるな」
北側の塔の中に入る扉が目の前にあった。
「姫」
シンセイが扉の横にある白い石を指し示した。見た目は壁の白い石と同化してわからないが、よく見ると丸い半球状の石がある事がわかる。
ジュウロウザがそこまで歩いていき、私をその半球状の石の前まで抱きかかえて行った。あの~私、歩けますよ。
はぁ、普通の石の床なのに歩かせてもらえない。
私は半球状の白い石に手を伸ばして触る。
···何も反応しないけど!書いてあったことと違うじゃないか!
『ザー····ザッ···ピッ』
な、何か雑音の後に電子音がした!もしかして、暫く使う者がいなかったからバグってる?
『オナマエヲドウゾ』
抑揚のない音声が聞こえてきた。その問いに私が答える。
「モナ・マーテル」
『ジッジー···ジ·····ピッ。
おお、マジで開いた。何でゲームの時にわからなかったんだ!私が使えるということは、リアンも使えるという事じゃないか!
そう、この古代遺跡を造った者たちは私の先祖だった。····らしい。エルフ族は世界中を支配していたが、何がきっかけかはわからなかったけれども、一人の人物を残して絶滅したと記されていた。
奇跡の姫ルトゥーナ・マーテル以外全てが死に絶えたと。
何が起こったのか、その辺りのことを調べようとしたけれど、膨大の量の書物の中から見つけ出すことは5日という時間ではできなかった。
しかし、英雄という者が存在したということは、英雄が必要な事態が起こったということが考えられる。今回リアンが勇者となったように。
今、ふと思った。古代遺跡が通常運行可能だということは、もしかして、ガーディアンと戦わなくてもいいんじゃない?
先程、私が名を名乗ったように、名を名乗れば通常運行として使えるはずだ。どういう仕組みかはわからないが、声に交じる魔質を測りエルフ族の末裔と判断したのだろう。
ガーディアンは外敵に転移装置を使わせて転移させないようにするために存在していると思われる。
ゲームではガーディアンを倒すのにすごく苦労したのだ。それが戦わなくても···ん?ちょっと待て、名を名乗る?
なんか挑発のコマンドで勇者が怪しい文言を口にしていたような····確か····
『やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ。我こそはリアン・マーテルなり!』
どこの歌舞伎役者だよ!源平合戦か!と、つっこんだ記憶が思い出されてきた。
しかし、名乗ってはいる。名乗ってはいるが挑発だ。ガーディアンが2体もいる場で誰が挑発を使うんだ!
うん。考えなかったことにしよう。どうせ、ガーディアンと戦うのはリアンたちだ。
扉が開いた先には、丸く壁に囲まれた空間があった。その床には冬の神殿で見たエレベーターの紋様が描かれている。
え?まさかこれも急降下するのだろうか。
先に黒いオプションを頭の上に乗せたシンセイが陣が描かれていた床の上に立ち、それに続きジュウロウザも陣の上にたった。
思わず体が固なる。
『トビラ・トジマス』
フリーホール第二弾だろうか。この待ち時間が途轍もなく嫌だ。
·····
·····
い、いつ落下するの!
『トウチャク。トビラ・ヒラキマス』
な、なんだって!いつ落下した?私、気絶していた?それとも不具合で扉が閉じて開いただけで、移動してないってオチ?
扉が開いた先は先程と全く異なる空間だった。薄暗く岩肌がむき出しの壁が目の前に広がっている。
うん。移動している。あれか!冬の神殿の方のエレベーターがおかしかったのか!それはそうだよね。あれは心臓に悪すぎる。
シンセイが警戒をしながらエレベーターの外に出た。
「何も居らぬぞ」
その言葉を聞いたジュウロウザが続いてエレベーターの空間から出ていく。すると背後からプッシューという音がし、振り返ると、ただの岩壁になっていた。
え?これ帰りわかる?
慌ててマップを開くと····く、黒い。今いる所しか地図に表れていない。ダンジョンだからか!地図をタップしてみても何も変わらない。代わりに別の表記が表れた。
【この場で転移は使えません】
なんだって!ダンジョンだからか!
「モナ、何かあったのか?」
「え?ちょっと気になって地図を開いたのですけど、ダンジョンだからなのか、今居る地点しか地図に表記されていなくて、転移も使えないと出ただけですので、たいしたことではないです」
私がそう言うとジュウロウザは何かを考える素振りをみせ、その後に私に手をかざした。
「結界は使えているから神の加護が使えないということではないようだ」
ジュウロウザは【星結界スキル】を私に使ったようだ。何かに包まれた感覚になったけど、目には何も見えない。
私のマップスキルが使えないのはダンジョンを自分の力で攻略しろという事なのだろう。言っておくけど自力って私には無理だからね!
「地図が使えなくても問題ないですよ。もう、転移装置がある扉が見えていますから」
私が指し示した方には上にあった建物と同じ白い石でできた、天井まである扉が固く閉ざされ存在していた。
その扉は淡く仄かに光を放っている。
私が示した方にシンセイを先頭にして進んでいく。ダンジョンというわりには、ここはエトマのダンジョンと違って空気が淀んでいない。
はぁ、よかった。あのなんだかよくわからない臭いって鼻の奥に残るんだよね。
扉の前に到着した私は大きな扉を見上げる。この扉の中に入ると2体のストーンゴーレムから攻撃を受けることになる。それもかなり巨大なゴーレム。
そのゴーレムの額にある石を壊せばいいのだけど、かなり高い位置にあるので、足を攻撃して倒れたとこに額を攻撃するということを繰り返して倒していくのだ。
しかし、何度も言うが私は戦えないのでレアアイテム要員として控えるのみ。
っていうか、リアンたちまだ来ていないのか?いつ来るんだろう。
「姫、テントの中で待つというのはいかがか?」
シンセイがそう提案してくれた。
それがいいかも。ここで突っ立っていてもしかたがないからね。
私がうなずき、外套の下にある鞄を表に出すと、シンセイが『失礼いたす』と言って私の横掛している鞄を開け、テントを出した。
いや、私を下ろしてよ。いつも言っているけど、何で外だとベルーイの上か、ジュウロウザに抱えられているままなの!そして、そのままテントの中に直行。過保護も大概だよね!
血を吐かれるのはもうごめんだって?
あれの元凶はリアンでしょうが!!
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