第51話 本当に迷惑

「ああ゛?!私がそんなことで嫉妬を?馬鹿じゃない?」


 私の背負っているネコ共が一斉に牙を出し威嚇をした。


「バカじゃと?」


「さすがカスヒロイン。口が悪い」


 ルナ。そのままその言葉を返してあげるよ。


「まぁ、そっちの言い分を聞いてあげる。3日後50階層の転移門の前に来なさい」


 は?なんでそんなに偉そうなわけ?3日で50階層?え?3日もダンジョンにいなければならない?嫌だなぁ。


「白髪の娘よ」


「何よ!私は銀髪よ!」


 シンセイの呼びかけにルナは否定した。ごめん、私も白髪だと思っていた。


「欲しい物が手に入れば吾らは帰って良いよな」


「いいよ。いいよ。私も命がおしいからね。そいつが引き起こす地獄に巻き込まれるのはごめんだからね」


 ルナははっきりとジュウロウザを指をさして言った。


 なんかすごく嫌な感じだ。いや、これは以前の私の姿でもある。はぁ、どうしよもない事を言って、人を責めても仕方がないのに、私は馬鹿だった。


 ジュウロウザの袖を引っ張って、戻るように促す。


「あ!モナ、待ってくれない?」


 私が帰ろうとしたところで、リアンに呼び止められてしまった。私は視線だけをリアンに向ける。


「モナ。一緒に俺たちと行かない?」


「はぁ?!」


 何馬鹿なことをリアンは言っているんだ?


「そこのお爺さんはモナの守護者だから仕方がないけど、そこのヤツはただ依頼されてモナの護衛しているだけだよね。だったら、俺たちと一緒に行かない?」


 リーアーンー!!お前人の話を聞いていたか?


「リアン。言っとくけど彼は母さんたちと同じSランクだから。リアンはまだBランクだよね。一緒に行動する理由が無い」


「でも」


「リアン。リアンのすべきことに私は必要ないでしょ?私は戦力にならない。そうよね?」


 私がそう言うと悔しそうな顔をリアンがした。マジで意味がわからないのだけど。


 ん?もしかしてリアンも私をレアアイテム要員として欲しているってこと?

 宿屋兼酒場の【グロージャン】は色んな人が集まる場所なのだ。逆を言えば料金が安い。宿泊料も提供される食事の料金もだ。

 そういう事か。

 私は鞄から1つの石を出す。爪の大きさ程の石だ。エトマのダンジョンでゴミのように散乱していた宝石の一つ。赤い石の中に白い星が入った宝石。普通に売っても星貨一枚はするだろう。


 それをシンセイに渡し、ルナに渡すように言った。それをシンセイから受け取ったルナは目を見開く。


「【暁の星】!こんなレアアイテムをなんで?」


「アイテムとしてつかてもいいし、レアアイテムとして売ってもいい。売れば星貨一枚程になる」


「「「200万ガル!!!」」」


 ヘボ聖女ルナとロリババアメリーローズ、そして、リアンが私の言葉に反応した。やはり金に困っていたのだろう。名声だけでは食べていけない。


「それあげるから、今後私を村から連れ出すような事をしないでもらえる?はっきり言って迷惑。家に押しかけて来て、武力を振り回して、普通に対応していた両親に怪我させて、寝込んでいた私の部屋に押し入ろうとして、本当に迷惑。」


 そう、家でこの人たちは丸腰の両親に攻撃をしたのだ。父さんは頑丈だからいいけど、母さんも肩に怪我をして、ばぁちゃんが即座に対応してくれなかったら、本当にやばかった。新築の家が父さんによって破壊される危機をばぁちゃんが回避してくれたのだ。

 あ、うん。母さんの怪我を見て父さんがキレてしまったらしい。魔物用の眠り香で父さんを倒したばぁちゃんには感謝だ。後で私のスキルで母さんの怪我は綺麗に治したよ。


「あと、聞いたと思うけどリアン。貴方が自分の役目を終えるまで村への立ち入りは禁止。忘れないでね。もし、忘れて村に入ろうものならキールが『ぶっ殺す』って言っていたから」


 キールのリアンへの殺意は衰えないらしい。


 リアンの返事を聞くことなく、私は【グロージャン】を後にした。




 あー。これはどうすればいいのだろう。ジュウロウザの機嫌が凄く悪い。何が原因か見当がつかない。私が悪いのか?

 食料を買い足ししている間も、宿屋に戻る道中も宿に戻った後も、隣から不機嫌な気配をビシビシ感じる。

 シンセイはというと居心地が悪いからか、ノアールを連れてベルーイの様子を見に行っている。


「キトウさん。昼食ができたのでシンセイさんを呼んで来ますね」


「モナ殿」


 私も居心地が悪いので理由をつけてジュウロウザから離れようとすれば呼び止められてしまった。


「なんですか?」


 仕方がなく足を止め、声がした方を振り向けば、すぐ近くにジュウロウザがいた。いつの間に!


「俺は必要ないのか?」


 ····いったい何の話?!ごめん。どういう過程で、この言葉が出てきたのかさっぱりわからない。


「あのー。何の話ですか?」


 少し考えてみたけどさっぱりわからない。


「依頼破棄のことだ」


 ·····え?


「あのそれでキトウさんが必要でないという話になるのですか?護衛の依頼はプルム村に帰ってきた時点で完了しているのではないのですか?」


 そもそも、あれは父さんとフェリオさんが私のクズステータスを心配して村と王都の往復の護衛の依頼だったはず。それが星貨5枚で依頼したと父さんから聞き出したのだ。あまりにもジュウロウザに旅費を支払ってもらったので確認したのだった。


「その後はシオン伯父さんに頼まれたのですよね」


 母さんからその後にシオン伯父さんのポケットマネーでジュウロウザに星貨10枚が追加で支払われたと聞いた。


 個人間の取引だ。他者の介入はされない。だから、交渉の決裂が入るとすれば、ジュウロウザとシオン伯父さんの間でのこと。それも、シュエーレン連峰から帰ってきたことで完了している。


「契約上は全て完了しているので、依頼破棄はできないですよ」


「え?先程のことは?」


 先程?ああ、ルナに言った事か!


「フェリオさんから『リューゲンが守護者なのは有名だからいいけど、ジューローザが守護者ってことは内緒だよー』と言われたので、外向きには護衛の依頼で行こうって決めましたよね?」


 だからルナに存在しない依頼の解約はできないし、依頼者が提示した4倍の解約金もルナに支払う能力はない。


「そもそも、あのリアンのパーティーメンバーに金がかかっているので、最初の依頼解約金すら払えないのは、わかってました。守護者であるキトウさんを外してダンジョンには潜りませんよ」


 恐らくとか多分という言葉ではなく、絶対にあのメンバーとダンジョン潜ることは無い。

 一番の理由はリアンだが、メンバーにも問題がある。


 あの胃袋ブラックホールの女剣士ルアンダだ。そのルアンダの食料確保だけでも無理がある。彼らは拡張機能が施された鞄を持っているように思えなかった。だから、常に食べ続けないルアンダは食料調達難しいダンジョンではかなり厳しいだろう。


 踊り子シュリーヌは回復も戦闘攻撃もできる万能型だが防御力が全く無く、直ぐに戦闘不能となる。回復がルナのみだとかなり厳しい。


 本当になんでこの二人をメンバーに加えたのだろう。見た目だろうか。


「そうだったな。表向きという事だった。てっきりモナ殿に捨てられるのかと」


 いや、だから拾ってないし。

 ジュウロウザの機嫌も戻ったので、シンセイを呼びに行くために、止めていた足を動かそうとすれば、ジュウロウザに抱き寄せられた。


「あの?」


 ただ、無言で抱きしめられた。これは私はどう対応すればいいのだろう。

 ·····お昼ご飯。

 シンセイー!戻ってきてこの状況をなんとかしてー!くっ。こんな時に仁の意というものは反応しないのか!


「キトウさん、おひr「十郎左だ」·····」


 え?いや、名前は知っておりますよ。


「あの者はリアンと呼ぶのだから、名前で呼んでくれてもいいだろう?」


 あ、そういうこと。別に構わないけど、突然どうしたのだろう。


「ジュウロウザさん「十郎左だ」····」


 えっとこれはどういうこと?発音が悪いということだろうか?


「あの?何が駄目です?言い方ですか?発音ですか?」


「駄目ではない。だが、守護者という立場は神人カミトより下だ。だから敬称は必要はない」


 まぁ、そうなんだけど、私は人の上に立つような人じゃない。上とか下とか決めるのは好きではない。


「守護者だからといって私より下って変だと思います。そうですね···」


 守護者とその対象者とはどういう存在なのだろうか。よくわからない。でも、シンセイもジュウロウザも以前から居たように村によく馴染んでいた。うん。そう。


「仲間というものを私はよく知りませんので、家族という言葉が一番しっくりくると思うのです。十郎左はどう思いますか?」


 村人の血をたどると英雄アドラと奇跡の姫ルトゥーナに行き着く。ということは、村というものは大きな家族だ。氏など意味をなさない。

 ルトゥーナ・マーテル。村で生まれた子供にはマーテルの名を頂く。奇跡の姫の子だという名だ。全てがルトゥーナの子だと。


 しかし、今度はきちんと発音してみたけど、どうだ!

 ニコリとジュウロウザに笑ってみせると、少し驚いたような表情をして、そのあと優しい笑顔を返された。


「そうだな。モナ」


 はう!

 心臓を鷲掴みされた上に、口から飛び出して来そうな衝動に襲われた。いや、頭に星が飛んでいる?100mを全力疾走したときの衝動?自分で自分の言っていることがわからない。

 私、壊れている?


___________


その頃の秦清


「姫から救助要請に答えて戻ってきてみたものの、これはのぅ」


 秦清の目には十郎左に抱きしめられながら、ニコリと笑ったまま固まっているモナの姿が映っている。


「何やら姫は混乱しておるのぅ。しかし、年寄が出しゃばれば将に怒られそうじゃ。どうしたものか」


 秦清は頭の上に乗っかっている黒い幼竜に話しかけるが、幼竜からは『ぷーぷー』という寝息だけが漏れ出ていた。


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