第49話 謎の直感
遺跡ダンジョンとして有名なロズワード。そのロズワードに一番近い街サイザール。ここは冒険者の街と言っていい町だ。大抵が腕に自信を覚え、次のステップとして未発見のエリアが存在するというロズワードでその未発見エリアを見つけて名を売り出そうという一人前に毛が生えた感じの冒険者たちのたまり場となっていた。
と言うことは、治安が悪いと言うことだ。
なんか、ガラの悪そうな人が往来で堂々とカツアゲをしている姿を見てしまって、ここに来た事を後悔している自分がいる。
日中、道端で堂々と『酒を飲む金が無くなったからくれ!』と、一人の人を数人で囲んでいたのだ。この街の警邏隊はどうなっているんだ!
「姫よ。集合場所は何処と言っておったか?」
シンセイがリアン達との集合場所を聞いてきたが、こんな治安が悪そうなところで素直に集合場所に行けるはずもない。
集合場所の【グロージャン】は宿屋兼酒場なのだ。まさに冒険者のたまり場。そんなところには行けない!
「【グロージャン】ですが、先に泊まるところを探しましょう。ベルーイを預かってくれて、ガラの悪い冒険者がいないところを」
「フム、ならこちらかのぅ」
そう言ってシンセイは前を歩き出した。シンセイの謎の直感が働いたらしい。
謎の直感。エスターテ神から与えられた仁の意というものだ。ステータスには何も反映されていなかったが、私の意を汲むことに特化した謎の直感だ。
喉が乾いたなと思えば『姫、休憩にしようぞ』と言ってきたり。あれ?調味料が足りなくなりそうと思えば『姫、塩を買ってまいりましたぞ』と岩塩を差し出してきたり····できれば次からは岩塩はすり潰して粉にしてほしい。ふぉ!握って粉々にした!!
みたいな事があり、どこぞの執事ですか?と口走りそうになった。
本人にそれはどんな感じわかるのかと聞いてみたところ『感であろうか』と本人も首を傾げていたので、直感的に何かを感じるのだろう。
そして、たどり着いたのが、斜めに傾いたた2階建ての建物だった。隣は武器屋で反対側は防具屋だった。その間に挟まれた建物の入口は大きく開いており、それも傾いているのだ。この状況から推測するにここで乱闘騒ぎがあったのは間違いない。
シンセイ!なぜこの建物の状態でサクサク中に入っていく!それもベルーイを引き連れて!その上にはぽってりとした腹を上にして寝ているノアールがいる。
ああ、完全に傾いた建物の中に入っていったよ。ジュウロウザが歩みを止めないので必然的に私もその後に付いて傾いた建物の中に入っていく。
中は元はテーブルや椅子であったであろう木材が散らばっており、その奥からは光が差し込んでいる。勝手口?
光が漏れている勝手口らしきところを抜けると、目の前には緑が溢れていた。鉢に花が植えられており、目隠しであろう木々も剪定されており、傾いた廃墟の庭とは思えなかった。そして、その先には赤い屋根と白い壁が印象的な建物が建っている。
「あら?お客さん?」
鉢に水やりをしていた恰幅のいい女性が私達をみて声をかけてきた。
「おお、そうじゃ。この近くのダンジョンに行くのでな、連泊をお願いしたい。それと馬竜の世話もお願いしたい」
「まぁまぁまぁ!馬竜を連れたお客さんだなんて何年ぶりかしら!あなた!あなた!お客さんよ!」
恰幅のいい女性は慌てて建物の中に入っていった。本当にここは宿屋だったんだ。しかし、ここで放置されても困るんだけど。
「おう、客人悪かったな。うちのやつが慌ただしくて、騎獣舎はこの庭の奥だ。まぁ、中に入ってくれ」
入口から出てきたのは、その入口が狭いと言わんばかりに身をかがめ、ガタイの良い体を小さくして出てきた鮮やかな赤い髪が印象的な男性だった。
「プッ!」
思わず吹き出してしまって慌てて口を押さえ視線を反らす。駄目だ。笑っては駄目だ。人の趣味をとやかくいうのはいけないことだ。
そう、出てきたガタイの良いの男性はピンクのフリフリのエプロンをそれもリボン増し増しのエプロンをつけていたのだ。ガタイがいいのにぴったりとサイズが合っているのでわざわざ誂えたのだろう。
これは可愛いですねと褒めるところなのだろう。しかし、口を開こうものなら笑うことが止められない気がする。
「それはおヌシの趣味であろうか?」
「ぐふっ」
シンセイそこを真面目に聞くの?あー駄目だ。肩が震えてしまっている。
「ん?のぉぉぉ!い、いやこれはだな。ウチのやつが可愛いからつけろと!俺の趣味じゃないぞ!」
ガタイのいい男性は顔を真っ赤にして、慌ててエプロンを外していた。そうかあの女性の趣味か。しかし、もともとありはしない私の腹筋は限界をむかえようとしていた。
「ぷっ!くっ。もうだめ···あはははh!!ピンクのフリフリが可愛すぎて!ギャップが凄すぎ!あはははは····」
·····
「はぁ···。笑い過ぎた」
また、こんな事で体力を消耗してしまった。
「まぁまぁ、3名様ね。何泊希望かしら?お食事は?お部屋はどこがいいかしら?」
恰幅のいい女性が詰め寄るように聞いてきた。だけど、こちらの予定は未定だ。
ベルーイを騎獣舎にあずけてきた、シンセイは『はて?どのようにすれば一番いいのか?』と首を傾げている。その頭の上にいるノワールが落ちそうになって、まだ飛べない翼をバタバタさせていた。
「おい!それって幼竜か?」
「まぁ、ドラゴンだなんて初めて見たわ」
宿屋の夫婦がノアールに興味を示しだしたからか、ジュウロウザが私にここから一歩も動かないようにいい。夫婦とシンセイの間に割って入って行った。
「まだ、予定が決まってない。数日分の宿泊と馬竜の世話代を前払いで星貨一枚出す。キッチンが付いているならこちらで食事は賄う」
そう言って星貨一枚を差し出す。その星貨を見て宿屋の旦那さんは驚き固まってしまった。
「せ、星貨!!200万
「まぁ。それなら奥の離れを使ってもらえばいいわ。あそこは一ヶ月で200万
どうやらこの宿の主人は女性の方のようだ。せっかちな感じだけど、商売の話となると、ちゃっかり高い金額を提示してきた。
この一ヶ月で大体の相場というものがわかるようになってきた。女性は通常の倍の価格を提示している。しかし、壊した備品の金額は請求しないとも提示した。
普通ならこの金額を言われれば手を引く金額だ。
「それでいい」
ジュウロウザはそれに対し二つ返事を返す。ぶっちゃけお金には困ってはいない。換金はされていないが、大量の宝石や魔石を持っているからね。
「まじかよ」
旦那さん。商売上手の奥さんを見習うべきだね。金払いのいい客の金はさっさと受け取っておくべきだ。
そして、奥の離れという所に案内された。普通に平屋の一軒家だ。外見は風通しがいいようにか、広めの窓が一番に目に入った。日差しよけか、雨よけのためかはわからないが、屋根のひさしが長く、その広い窓の上を覆っていた。中に入ると、玄関を入ってすぐに広いリビングダイニングがあり、少し狭いがキッチンと水回りが隣にある。
それに5つの個室あることから、かなり広い一軒家だ。
「裏庭も好きに使ってくれていいわ。だけど、『バーベキューだ』と言ってこの辺りに悪臭を放つ煙を充満させないでね。通報されちゃうから」
いや、バーベキューで一帯に悪臭って何を焼いたんだ!
「それから、出入りは裏口からしてくれて構わまいわよ」
そう言って宿の女主人は戻って行った。
「これはよいところではなかろうか。入り口の建物を見て、ちと心配はしておったがのぅ」
シンセイはそう言いながら室内を見渡している。
あの斜めに傾いた建物を見て何か思ったのなら少しぐらい躊躇する素振りでも見せてくれていいと思う。普通に堂々と入って行ったよね。
「さて、これからどうするか」
ジュウロウザは私にカウチソファに座るように促し、そう切り出してきた。ジュウロウザは未だに私がこの事に関わることが嫌なようだ。
「そうであるな。まだ、あちらがここに来ておるかもわからぬ。どこであったか?様子でも見てくればよいか」
シンセイはノワールを私に差し出し、私がむっちりとした幼竜を受け取ったのを確認すると、踵を返して宿を出ていった。えっと集合場所の名前しか私は言っていないのだけど大丈夫?
「モナ殿。何度も言うが、本当にダンジョンに潜ることをやめないか?」
ジュウロウザが一ヶ月言い続けて来たことを口癖のように聞いてきた。だから、私も同じ返答をする。
「断っても彼女は諦めることはないでしょうね。彼女は私の幸運の力で得られる物が欲しいのですから」
ロズワードで得られるレアアイテムは人魚の鱗だけではない。人魚の鱗はパーティーメンバー全員を人魚化して深海にある水の神殿に、そして水竜の洞窟に行くアイテムだ。
それ以外に50階層の無骨なガーディアンを倒すと【金の針】がドロップする。それが転移装置を起動するアイテムなのだ。
ルナの目的はガーディアンを倒して金の針をドロップさせること。そして、ガーディアンはその一回しか現れない。一発勝負で金の針をドロップさせないといけないのだ。そこを逃すと、空中都市ネルファーキルで起動させるしかない。
いや、他にも古代遺跡は存在するけど、入口が破壊されているとか、ガーディアンが強すぎるとかで、かなり後半にならないといけないところだったりする。
他の大陸にも古代の転移装置はあるけど、4つの大陸の転移装置を全て起動させないかぎり、大陸間の転移はできない。
だから、ロズワードで転移装置の起動をしたいのだろう。
「もし、次の目的地のためにロズワードに行くと言うなら手段は他にあります。しかし、現時点で彼女の望みを叶えるとするなら、幸運の力が必要なのですよ」
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