第48話 夏の神殿
「「浮島?」」
浮島ということに二人の声が揃った。見た目は対岸か、ただの島だ。まさか浮いているとは、思わないだろう。
「と、言うことはこの泉は見た目以上に巨大であるということか?普通では渡れなさそうな感じであるのぅ」
「モナ殿どうすれば行けるのか?」
いや、行かなくていいし、それに普通では行けない。呼ばれない限りは
「キトウさん行かなくていいですよ。浮島が移動して岸まできてくれればいけますが、そんなこと早々に···」
ギギギギギと怪しい音が何処からともなく響き渡ってきた。
泉の中央を見ていると、島が動いている!!!よ、呼ばれている!そんなはずは···私は勇者じゃないよ。
「行けるようであるな」
そう言ってシンセイが泉の方に足を向けた。いや、行けば恐らく、数日は地上に戻ってこれない。
ドンッという地響きを立てながら浮島が接岸した。
「では、参ろうか」
「モナ殿。如何した?」
シンセイはサクサクと足を進め、浮島の上に乗ってしまった。その姿を見て私はうなだれる。
「浮島に入れば最低5日は出てこれないです」
私の言葉に『なんじゃと!』と言って浮島から出ようとして、透明な何かに弾かれているシンセイがいる。
「浮島に入って5日後に神殿の何処かに生る自分にしか見えない果実を食すれば、出られます」
そう、神殿の地下の一部がジャンルのような密林になっている。そこの何処かに自分にしか見えない果実を食べれば、出られるという仕組みだ。
「はぁ。入りましょうか」
シンセイと頭の上の幼竜を置いて行くことはできない。ベルーイは5日の間も
ほ、本当に帰って来るよね。私は歩いてサイザールまで行けないよ。
そして、私は浮島に一歩····ジュウロウザ、なんで、私を抱えているのでしょうか?浮島に足を取られて泉に落ちたら大変だ?
そう言われてしまったら、何も言えない。
雪にでさえ顔面から突撃した私のことだ。浮島から転がり落ちることは否定できない。
ジュウロウザに子供のように抱えられ、浮島の上に生えている木々の間を抜けていく、その先には冬の神殿と同じように白い建物が垣間見えてきた。近づいていくと、浮島の上にも関わらず、建物の手前には水が満たされた大きな水の庭と言っていいところがある。それが水鏡のように白く美しい神殿を映し出していた。
「キトウさん。そこの神殿の入口を映した水鏡が入口です」
そう、ここは普通に白い建物の中に入っても、夏の神を祀った像しか存在しない。本来の神殿は水鏡の中にあるのだ。
「水鏡が入口なのか?」
「これはこれは奇妙な空間であるのぅ」
シンセイは奇妙な空間と言いながら、なんの躊躇もなく足を水に付けて進んでいく。段々足を進めるごとに、シンセイの体は水の中に沈んで行っている。そして、完全にシンセイの姿も頭の上にいたノワールの姿も見えなくった。
「では、俺たちも行こうか」
ジュウロウザがそう言って、水鏡の入口から足を進め、水の中に入ってく。私の足先も水が浸かる位置にきたが、全く濡れている様子がない。まるで、水があるように幻覚を見さられているようだ。
一階分ほどの階段を降りたあとには、篝火の光が満たされた空間に降り立った。何処を見ても濡れている様子がない。ゲームではなんとも思わなかったけれど、実体験をすると不思議な感じだ。
「この先はいくつも道が別れておるが、どう、いたそうか?」
石の壁に囲まれた広い空間の先には5つの通路が見える。まずは、挨拶に伺うのは普通だろう。
「中央の広めの通路の先に祭壇がありますので、そこで夏の神エスターテ様に挨拶をしましょう」
私がそう言うとシンセイが進み出し、その後ろからジュウロウザが進みだした。
あのー私歩いても問題ないと思うのですが?滑ると大変?
いや、ここは普通に石の通路ですよね。
でもですね。私も歩かないと駄目だと思うのですよ。
ジュウロウザと押し問答をしている内に祭壇のある空間までたどり着いてしまった。祭壇の上部には夏の神を
とても、涼やかな空間だ。
ジュウロウザに石の床の上に下ろしてもらい、床に膝をついて右手を左の胸に添えて、左手は床に添える。
〘この神殿にお招きいただきまして夏を司るエスターテ神に感謝申し上げます。無事にロズワードに行って村に帰れますように〙
─そなた等の願いを叶えてやろう─
ふぉ!またか!
─道中の安全を祈願した娘よ、そなたには輿図と移動の呪を授けよう─
ヨズ?ヨズって何?意味がわからないのだけど?
─守護の娘を如何なる厄災からも守護する力を望んだ者よ、陣の呪を授けよう─
ジンもよくわからないな。
─主の意を汲むことを望んだ者よ、仁の意を授けよう─
ん?呪じゃなくてイ?はぁ、神のお言葉は難しいな。
─そして、久しく我が神殿を訪れた、そなた達に極の逆転を授けよう─
なんだって!
「マジですか!」
驚きのあまり、思わず下げていた
【極の逆転】
ネット上では噂には上がっていた。そのスキルを使うと一定の時間を巻き戻せるのだ。そう、終末を変えることができるという意味の極の逆転。死んだ者も死んだ事にならず、生きたまま存在できる未来を作れるある意味チートスキル。
え?というかここでそんな物もらえた?夏の神殿って5日後に発生する果実を食すればランダムで基本ステータスのいずれかがアップするだけのものだったはず。
「モナ殿如何したのだ?」
私が上を見たまま固まっているので、ジュウロウザが心配でもしたのだろう。しかし、私は興奮したままジュウロウザに答える。
「いかがしたも何も【極の逆転】のスキルですよ!こんな時間の逆行が行えるスキルなんて普通は貰えないです!」
「時間の逆行?」
「そうです!今の時間軸を起点に一定時間が戻せるのです。····まぁ、使うことが無いことが一番いいことなのですけど」
冷静に考えれば、使わないことの方が一番いい。時間を巻き戻すなんて、どれだけリスクがあるかわからない。
「気にしないでください。思ってもないスキルを戴いたので、驚いてしまっただけです。ここで、あと5日ほど時間を潰さないといけないので、私は白亜の間に行きたいです」
「モナ殿が行きたいところに行けばいい。それで、白亜の間というところはどこに行けばいい?」
「先程の道を戻って一番左の細い道です」
私がそう答えると同時にジュウロウザに抱えられてしまった。だから、私は歩けますよ!
ジュウロウザに言っても抱えられているのは変わりがないので、私はステータスを確認する。先程エスターテ神から言われた【輿図と移動の呪】だ。
ステータスを開くとスキルの欄が増えている。マップスキルと転移のスキルだ。え?転移?個人で転移が行えるの?
取り敢えずマップスキルを使ってみる。
すると突然、目の前に立体的な地球儀が浮かんできた。
「ふぉ!」
驚きのあまり思わず声がもれてしまった。
よく見ると、正確には地球ではない。なぜなら、その地球儀には、ユーラシア大陸もアメリカ大陸も見当たらず。薄っすらと記憶の海に没しているゲームの世界儀に見える。
で、これをどうしろと?拡大してみる?
見慣れた現在地を示すマークのところを親指と人差し指を広げる動作をしてみる。うん、微妙に拡大された。それをそのまま拡大してみる···こ、これは航空写真?すごく鮮明に木々が見られ、神殿を囲っている泉がキラキラしている。キラキラ?これはLIVE映像?ど、何処から撮っているの?
あ、木々の間に黒い馬が自分の倍程の大きさの何かの死骸を食べてい··見なかったことにしよう。ベルーイは元気そうだった。
神殿のところをダブルクリックしてみるとピンが落ちてきた。
〘ここに転移しますか?〙
「へ?」
なんか表示が現れた。もしかして、ピンが落ちた所に転移ができる?な、何ていうことだ!ゲームの時に転移のスキルがあったらもう少しスムーズに進められたんじゃないのか?
「モナ殿どうかしたのか?」
私があまりにも怪しい行動をして、怪しい声を発していたから、頭がおかしくなったと思われたのかもしれない。
「え?あの、戴いたスキルが思ったよりも凄かったので、驚いてしまったのです。この世界地図があるだけでも凄いのに、そこで示した所に転移ができるのです!ん?これって何人まで転移ができるんだろう」
転移装置は5人だ。ということはそれよりも少ない?わからない。私の目でもそこまで詳しくは視えない。
そして、そのままジュウロウザを見てしまった。ジュウロウザの新たに発生したスキルはというと。
【星結界スキル】
おお!結界の中でも上から2番目の強固な結界だ。これは極級の魔術を受けてもびくともしない強度がある結界だ。でも、なぜに結界?まぁ、いいか。
「それで、白亜の間とはここでいいのか?」
細い廊下を通り抜けると、突然青い空が広がった。その先には白い美しい宮殿が水の上に浮かんでいるように見える。
しかし、水は石の通路の上を流れるようにあるだけで深さはない。これは白い宮殿を引き立てる水なのか涼を求める水なのかわからないが、この空間は美しいとしか表現ができない。
「ええ、奥の宮殿に行ってください」
「これはいつの間にか外に出たのであろうか?」
シンセイが青い空を見ながら言った。
「室内ですよ。この神殿はあと3つこのようなところがあります。ここは世界のすべての知識があると言われている書物の数々と世界の始まりを記した【世界の書】があるのです」
そう、ゲームではこの宮殿を訪れても、天井まである本を調べても、〘ただの本〙としか示されず、【世界の書】を調べても〘世界の始まりが書かれている〙としかなかった。
んな訳あるか!本がこれでだけあって、目ぼしい情報が得られないなんておかしすぎる!
と、画面に向かって叫んだことが、思い出されて、気になっていたのだ。何が書かれていたのだろうって
そして、私達は5日間という時間を膨大な書物がある白い宮殿ですごし、後ろ髪を引かれながら、果実を探し、夏の神殿を後にしたのだった。
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