第46話 気持ち悪い

 目覚めるとソフィーから凄く謝られた。どうやら、苦味を抑える物を入れ忘れたらしい。

 まぁ、私もリアンにイライラしすぎて勝手に死にかけて、体力回復薬を作ってくれたソフィーに不信感を抱いてしまったのだ。私こそソフィーに謝らなければならない。


「ソフィー、ごm「ですからモナをここに連れて来てと言ってるのです!」····」


 そう、今一階に客人が来ている。その客人の声で目が覚めたのだけど。はぁ、頭痛が痛い。いや、頭が痛い。

 思わず頭を手で押さえてしまう。


 リアンが朝早くから押しかけてきたらしい。それもハーレム状態のパーティメンバーを引き連れて。ハーレムかぁ。今度はどんなメンバー構成になったのか。


「姫、うるさいハエ共を木っ端微塵にして来ようぞ」


 シンセイ、扉の横で杖をトントンつきながら、そんな物騒なことを言わないでほしい。新しい家が木っ端微塵になりそうだ。


「しなくていいです」


「しかし、モナ殿。これではゆっくり休めないだろ?」


 ジュウロウザがベッドの上の私の隣に腰を下ろして、私の顔色をうかがいながら言ってきた。

 あれから死んだように爆睡したから体力は完璧に回復している。これ以上寝る必要はない。

 しかし、一階からは私を出せと言う女性の声がずっと聞こえ続けている。これもまた一種の嫌がらせだろうか。


「はぁ」


 ため息が出てしまう。そんなにロズワードに行きたいのなら勝手に行けばいい。ん?なんだか下の方がいきなり騒がしくなった。


「これはこれは如何なものか」


 シンセイが扉の向こう側を厳しい表情をしながら横目で見ている。


「ソフィー殿、扉の方は危険なゆえ、モナ殿の方に」


 き、危険ってなに!ソフィーはジュウロウザの言葉に従って、ベッドの上に上ってきて、ジュウロウザとは反対側の私の左側にヒシッとしがみついて来た。

 え?だから何が危険なの!


 するとドッドッドッドッと重い足音が廊下から響いてきた。こんな足音の人はこの家には居ない。

 すると扉の前で止まり、突然扉がぶっ飛んだ。ベッドは部屋の端にあるので私への被害は何もないが、南側の窓を突き破って扉が外に飛んでいった。


 村の皆が一生懸命作ってくれた家を壊す奴は誰だ!と、扉があった場所を睨みつけると····シンセイだけしか居ない。あれ?


「キトウさん。扉を壊した人はどこに?」


 ジュウロウザの袖を引っ張って確認してみる。私にはわからなかったが、ジュウロウザには見えていたのかもしれない。


「シンセイが一撃で伏した」


 ああ、カウンター攻撃ですか。

 ジュウロウザはシンセイの事をいつの間にか敬称を使わずに呼ぶようになっていた。仲がよろしいようで。


「ルアンダ!じいさん、お前さんがルアンダをこの様にしたのでありましょうか?」


 そんな声が廊下から聞こえた。ルアンダ?あれか、燃費がとてもとても悪い女剣士。


「そうじゃぞ」


「許せないであります!」


 その言葉の後、シンセイの姿が一瞬ぶれた。そして、何かが倒れる音。


「シュリーヌ!お主!シュリーヌまでも許さないのじゃ」


 幼い子供の様な声が聞こえ廊下に雷鳴が響いた···えっと、耳を塞いでくれてありがとうございますと言えばいいのか。私はジュウロウザに両耳を塞がれていた。

 しかし、この行動は必要なのだろうかと無言でジュウロウザを仰ぎ見る。と、額に口づけをされた。ふぉぉ!ジュウロウザ!村に戻って来てから不意打ちが多くないか!


 どうやら雷鳴は鳴り止んだようで、両耳は解放されジュウロウザに頭を撫ぜられた。

 くー。心臓のドキドキが収まらない。


「メリーローズ!」


 うぉ!リアンの声に思わず体がビクリと反応してしまった。


「リアン、あのボケ老人に手を出してはいけませんよ」


「でも、ルナ」


「わたしが説得してみましょう」


「わかったよ。ルナ」


 うぉぉぉぉ!鳥肌が!もの凄い勢いで全身に鳥肌が立った!なぜかわからないけど、リアンのルナルナ攻撃に私は全身を震わせた。おかげで、心臓のドキドキは収まったけれど。


「リアンにぃちゃん。気持ち悪い」


 私の隣から同じ様にルナルナ攻撃を受けたソフィーから『気持ち悪い』の言葉が出てきた。姿は確認できないけど、声だけでキモいよね。


「おじいさん、そこを退いていただけるかしら?何故ここに貴方がいるのかわからないけど、わたしはモナに用があるのよ」


 私に用があると言って、強行突破されたけど、それって普通じゃないよね。家の中で武器を振り回して、魔術を撃ち放って、普通じゃないよね。


「吾は護るべき御方のために武器を取っておる。洟垂れ小僧たちのように人を無闇に傷つける為に武器を持っているわけではない」


「ですから、モナに用があると言っているのですよ。世界を救うためには必要なのです」


「人様の家で武器を振り回す輩が何を言っても意味はなさぬ」


「ちっ!だから!あたしは!モナに会わせろって言ってんの!」


 ルナさん。被っていた猫でも逃げ出しましたか?


「モナのレアアイテムがドロップする能力がいるって言ってんの!じいさんのボケた頭には理解できないかもしれないけどさぁ」


 ルナさん。シンセイはボケてませんよ。

 って言うか、ルナ口悪る!いや、人の事はいけないけど、私は初対面の人には猫30匹ぐらい背負って話すけど?社会に出ると1匹2匹逃げても賄える量は背負うってことが大事だと思うけど?


 まぁ、一度だけ大脱走したこともあったよ。

 失敗なんて、してなんぼのものだ。次、失敗しなければいい。職場の先輩が言っていた『失敗しても命まで取られないから』と。取られないけどすごくヘコんだよ!

 まぁ、それも遠い記憶の海の底だ。



「フォッフォッフォッフォ」


 奇っ怪なシンセイの笑い声が耳に響いてきた。何か嫌な予感がする。


「小童にここまで無下にされるのは初めてのことであるな」


 お、怒っていらっしゃいます?空気がピリピリしている気がする。


「小童ども外に出ろ!!」


 空気が揺れる程の威圧的な声が、この一帯を満たした。その声にソフィーは更に私にしがみつき、私はジュウロウザにしがみつく。

 シンセイ!ここは野戦場じゃないよ!


「シンセイ。モナ殿とソフィー殿が怖がっている。殺気を抑えてくれ」


「おお、これは失礼いたした」


 シンセイの苦笑いの横顔が見えた。思わず、と言ったところだったのだろう。


「モナ!そこにいるじゃない!出てきなさいよ!」


 いや、いきなり攻撃してくる人たちのところに誰が素直に出ていくか!


「じゃ、いいわよ。勝手に喋るから『カスヒロイン!あんた転生者でしょ!海の雫だって?あんなものちまちま集めてられないわよ!ばかじゃない?』


 日本語だ。やはり、ルナは転生者だった。ルナの言葉にジュウロウザがビクリと反応し、私の顔を伺い見る。


『ヘボ聖女。その言葉そっくりそのまま返すけど、カスステータスをわかっていながらロズワードに連れていくっていう、その根性。それにロズワードにレベル35のリアンを引き連れて行こうだなって、ばかじゃない?死にたいの?』


『レベル35!』「リアン、あんたレベルはいくつなの?」


 え?今更確認すること?ルナに問い詰められているであろうリアンからは戸惑いの声が聞こえていた。


「え?35だけど?」


「ちっ!」


 そこ舌打ちするところ?そういうのって、きちんと確認をしておかない?


『モナ!あんただってわかっているでしょ!ロズワードを攻略すると飛躍的に行動範囲がアップするって!そこのボケジジィがいればリアンのレベルが低くくても大丈夫でしょ!』


 わかっている。古代の装置を起動すれば、行動範囲は大陸中に広げることができる。それも空中都市ネルファーキルにも行くことができる。

 それは古代の都市を繋ぐ転移装置。しかし、転移装置に乗ることができるは5名まで、だから、勇者の仲間は4名までと設定されていた。


『何を急いでいるのか知らないけど、レベルも低く、物が揃っていないのに、ロズワードに行っても死ぬだけ』


 私はそんなことで死ぬのは嫌だ。できれば、大往生でぽっくり逝きたい。


「ルルドにお父さんとお母さんが調査にいったまま帰ってこないの!イルマレーラ国の国境は封鎖されていけないの!だけどロズワードからは行けるでしょ!」


 その言葉に私は目を見開く。本当なら父さんと母さんが受けていた依頼だ。そこで泣き声で叫んでいる少女は私だったかもしれない。


 私は目をつむり考える。考えてもみるが、レベルが低すぎて話にならない。そのあとのルルドもそのレベルじゃ死ぬだけだ。

 ロズワードはここから南の国を二つ越えた先にある大森林の中にある遺跡ダンジョン。私が行くだけでも一ヶ月はかかるだろう。

 一ヶ月か。


「そうね。一ヶ月でエトマのダンジョンを攻略してレベルを45までにあげたら、手伝ってあげる」


「モナ殿!」


 ジュウロウザが私の言葉を止めようとするが、私は首を横に振る。


「一ヶ月!一ヶ月なんてかけていられないわよ!」


「言っておくけど、これが一番早いから、私がロズワード行くのにそれほどの時間が必要なの。貴女もわかっているでしょ?レアアイテム要員でしかないカスステータスだって」


「ちっ!わかったわよ『カスヒロイン』!集合場所はわかっているでしょうね!」


「サイザールの【グロージャン】」


「ならいいわ」


 そう言って、ルナはリアンを促して、倒れている人たちを叩き起こして、去っていった。

 はぁ。体力全快だったはずなのに、すごく疲れた。


「モナ殿、あのような事を言ってよかったのか?」


 ジュウロウザが心配そうに声をかけてきた。いいも悪いも私の一言で本来あった事柄が変わってしまったのかもしれないと思うと、申し訳ないという気持ちが勝ってしまったのだ。


「いいのです。ルルドに行くはずだったのは母さんと父さんだったのですから、私が行くことを止めたことで、彼女の両親に白羽の矢が立ったのでしょう」


「お父さんとお母さんが?」


 あ、ここにはソフィーがいるのだった。


「でも、それはおねぇちゃんが悪いわけじゃないよね。お父さんとお母さんが仕事をやめたように、あの人のお父さんとお母さんも仕事をしないって言うこともできたよね」


「ソフィー殿の言う通りだ。モナ殿が責任を追うことはないと思う」


 二人の言い分も最もだ。しかし、私は苦笑いを浮かべてしまった。多分、恐らく、いや、かなり勇者のフラグを回収してしまったような気がする。

 火の神殿に行けないのはかなりの痛手になることだろう。


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