第45話 ブチのめしたい

 ふっかーつ!!

 私の治癒スキルのおかげで翌朝完全復活をした!

 今度は治癒スキルで体調は崩さなかった。うーん。どういう仕様かまだよくわからない。真眼で視ても『どのような病も怪我も完治することができる』としか分からなかった。


 そして、私の目の前にはニコニコと笑顔のリアンがいる。ブチのめしたい!


「なんでまだ居るわけ?」


 3日も寝込んでしまったから収穫できる野菜があるだろうと、玄関を出ると待ち構えていたかのようなリアンがいた。ちっ!てっきり、あのあとフェリオさんに追い出されて、もう戻ってこないかと思ったのに!

 今朝、父さんが昨日のうちに村の外に連れ出したと言っていたのは嘘だったのか!


「昨日、トーリアの宿まで戻ったんだけど、ルナに怒られてしまったんだ。何で連れてこなかったのって」


 ルナ·····ルナ・・。あのドジっ子聖女か!何でドジっ子聖女が私を連れてこいと?


 私はジュウロウザを盾にして聞いてみる。


 籠を持って両手を塞がれた私に対抗策なんてありはしない。

 野菜の収穫に庭に出ると言えば、ジュウロウザが付いていくと言い、玄関を出るとリアンが待ち構えていたのだ。それは盾にするしかない。


「何で私が行かなければならないのか、きちんと説明をしろ!それに私はクズステータスとわかった上で言っているのか、その説明込みで説明しろ!」


「心配しなくても大丈夫だよ。モナは俺が守るから。説明っていっても詳しくは聞いていないんだ。『ロズワード』を攻略するにはモナの力が必要って言われただけだし」


 ロズワード!!地底湖ダンジョンのロズワード!

 え?3ヶ月でそこまで行っているの?ペース早すぎない?


 ロズワードと言えばモナがレアアイテム要員として必要な人魚の鱗を手に入れることができるダンジョンだ。しかし、モナが居なくても手に入れようと思えばできるし、代替え品でも可能だ。ただ、ダンジョンを幾度も周回しなければならない。


 うん。私が行く必要···あれ?何でドジっ子聖女は私の存在を知っている?

 うーん?


「リアン。そのルナって言う人に言っておいて、『周回して海の雫を集めれば問題ない』と」


 私がそう言うと、リアンは一歩私に近づいて言った。


「ルナがそう言っているんだ。進むにはモナが必要だって」


 うぉ!これ以上近づかないで欲しい。思わずジュウロウザの腕を思いっきり掴んでしまった。


「リアン!これ以上近づくな!ルナっていう人を信頼しているようだけど、言っておくけど、村の人たちを治す薬草を取りに行くのに私が何度死にかけたと思ってるの!路線馬車に乗るだけで体力を奪われるし、寒さにも体力を奪われるし、雪山で寝込むし、私が普通に行動できると思わないでくれる?」


 私が事実を捲し立てたというのにリアンはにっこりと笑って


「モナ、ルナに嫉妬しているのか?そんな事をしなくても俺はモナのことs「するか!!!」」


 と、見当違いな事を言い出したので、その言葉をぶった斬る。

 最後まで言わせるものか!はぁはぁはぁ·····くっ!リアンと話をしているだけで体力が奪われていくのは何とかならないのか!


「モナ殿。中に戻ろう」


 背後で怪しげにハァハァと息の荒い私を心配してか、ジュウロウザが家の中に入ろうと言ってきた。しかし、ここで素直に家に戻ろうものなら何時間でもリアンは粘って私を連れて行こうとするだろう。

 それこそたまったもんじゃない。


「まだ、大丈夫です」


 ジュウロウザにそう言って、不満気なリアンを睨みつける。


「そもそもLV.35でロズワードに行こうと言う時点で無謀ってものでしょ!それにその腰の剣、普通のロングソードじゃない。せめて、火の神殿かエトマのダンジョンぐらい攻略してLV.40超えてから言ってくれる?」


 そう、流石に3ヶ月でロズワードに行こうだなんておかしいと思って、リアンのレベルを視てみれば、案の定レベルが全く足りていなかった。

 それに火の属性の武器を持っていないのに、地底湖に行くだなんて無謀っていうものだ。


「でも、ルナが「リアン!」」


 私はリアンの言葉を遮る。そんなにルナが好きならルナの所に帰れ!


「リアンが弱いと死ぬのは仲間だと、昔から言っているよね。はっきり言ってLV.35でロズワードに行くだなんて死にたいのって言いたい。ただでさえ私は弱いのに、守ってやる?だったら、ロズワードに行って一旦攻略してしてから、私を誘ってくれる?私、死にたくないもの」


 私はそう言って現実的に無理だと諭す。行きたいのなら自分たちだけで行けばいい。モナである私が行く必要は····いや、まさか····と、言うことは····ふーん。そう言うこと。



 リアンは不満気に背を向けて行った。ドジっ子聖女のところに戻って行ったのだろう。

 私はジュウロウザに促され、部屋に戻された。疲れた。この数日連続でリアンの相手をしたから凄く疲れた。本当に体力の消耗が激しい。

 HPが倍の60になったにも関わらず、現在HP15って、どれだけ消耗してしまったのか。以前ならぽっくり逝っている消耗の激しさだ。


 はい。ただいまベッドの上でうつ伏せに倒れ込んでいます。


 あー!イライラする!!ルナルナルナってどれだけ好きなんじゃー!その口で私を好きだと言うなー!

 私がカスステータスじゃなければ、胸ぐら掴んで、睨みつけて『あ゛ぁん?!何言うてとるんや?!ボケが!』(エセ関西風)と言って頭突きしていたわ!


 はぁはぁはぁ、枕をバシバシ叩いていたら、HPが一桁に····落ち着かないとそろそろ本気で死にそうだ。


「姫、あの者を始末して参ろうぞ」


 疑問形ですらなく断定!起き上がる気力もなく顔を横に向けると武器を携えたシンセイが!

 長さのある戟を家の中で振り回さないでとお願いしたら、ご老人の歩行を助ける杖を常に持ち歩くようになった。しかし、それはダンジョンの30階層のオーガを一撃で倒していた杖じゃないか!杖だけど立派な武器だ。


「まいら···なくて··いいです···」


 リアンは魔王を討伐してもらわないといけないし。始末は駄目だ。


「では、抹殺して来ようぞ」


 内容的には何も変わってない!


「いかな····くて·いい···です」


 はぁ、あの納得のしてない感じはまた来ることになるだろうなぁ。

 しかし、疲れた。このまま寝てしまおうか。今日は朝の内に野菜の収穫をしたかったのになぁ。


「モナ殿、起き上がれるか?」


 ジュウロウザの声が聞こえ、閉じようとしていた目を開けると、心配そうな顔をしたソフィーの姿が見えた。

 まぁ、あれだけ大声を出せば、ばぁちゃんとソフィーがいる作業場にも声が聞こえたのだろう。

 起き上がれるかと問われたが、私はこのまま寝たい。何も反応せずに目をつぶろうとしたらソフィーの声が聞こえた。


「おねぇちゃん。お薬を飲んでから眠って、ルードにお願いしてお父さん達を呼んで来てもらっているから」


 ああ、今日は水車の組み立てをすると言っていたな。3日前の村長の話も水車はこれでいいかという確認をしたかったらしい。

 今回作ってもらった水車は精米器を連結した作りにしてもらったのだ。


「もうリアンにぃちゃんをおねぇちゃんに近づけないようにって、言ってもらっているからね」


 そんなことで、諦めるリアンなら私も今まで苦労はしなかったし。


「はぁ、むり····でしょ」


 とにかく眠い。今はリアンのことは考えたくない。

 人が眠りの落ちようとしているのに、体を起こされ、嗅ぎ慣れた薬草の匂いが鼻をついて、思わず目を開ける。

 ソフィーが緑色の怪しい液体を差し出していた。クソまずい体力回復薬····私はとどめを刺されるのか。

 はぁ。元気になって速攻粉薬を作っておけばよかった。飲み込む気力は残っているだろうか。いや、気力は残っていない気がする。


 しかし、ソフィーは容赦なく緑色の液体を突きつけてくる。


「おねぇちゃん飲んで」


 ふるふる震える手で緑色の液体が入った容器を受け取る。

 そして、意を決して一気に呷る。しかし、口を思わず押さえた。吐きそう。ここで、キラキラモザイクのエフェクトを出すわけにはいかない。

 気合だ。気合。うぅー。ごっくん。


 不味い。不味過ぎる。なんかいつもより不味い気がする。思わず、ふるふるしながら涙がボロボロ出てきた。このエグ味は何!


「ソフィー····これま····ず·す··ぎ」


 別の透明な液体が入ったコップが差し出されたが、怪しすぎて飲む気が起こらない。もう、今日は疲れた。口の中がしびれているみたいになっているし、散々な日だ。

 私はそのまま横に倒れる。


「おねぇちゃん!これも飲んで!」


 ソフィーが透明な液体を差し出して言っているが、これ以上薬は受け入れられない。


「む···り··ねる」


「モナ殿これは食べられるか?」


 薄目を開けると、白い果肉のブツが見える。いちご。いちごだ。

 口を開けると、瑞々しい果肉が口の中に入ってきた。咀嚼していくと甘酸っぱい果汁が出てきて、口の中のエグ味がマシになってきた気がする。


 二口目、美味しい。やっぱりこれ好きだなぁ。いちご。

 そして、そのまま意識が沈んでいった。



_______________


モナが眠った後



「おねぇちゃん。何で、これを飲んでくれなかったのかな?」


 いつもなら、薬を飲んだ後には苦味を流し込むために、必ず水を飲むはずのモナの行動にソフィーは疑問を感じた。それも、モナがラベリーが好きだとわかったので、そのラベリーを絞った果汁が入った水だったのだ。


「モナ殿は先程マズすぎと言っていたが、いつもと違う物だったのか?」


 モナの涙の跡を拭いながらジュウロウザがソフィーに聞いてきた。

 それに対し、ソフィーは心当たりがあるのか、はっした表情をして、モナが飲んだ容器の底に残っている緑の液体を舐め取る。

 その味にソフィーは顔を歪め、モナの為に用意をしていたラベリー水を一気に飲み干す。


「天水を入れ忘れた!おねぇちゃんごめんなさい!急いで作ったから····ああ、ばぁちゃんに怒られる」


 寝息が聞こえるモナに謝っても聞こえないであろうが、ソフィーはそんな姉の前でうなだれてしまった。


「『あまみず』という物を入れないと何か問題があるのか?」


 ジュウロウザの問いにソフィーはうなだれたまま答える。


「薬効には何も変わりないけど、口の中が引きつるような苦味を無くしてくれるの」


 ソフィーは寝てしまっている姉に再度謝って、落ち込みながら部屋を出ていった。このあと祖母のサリに怒られることになるのだろう。


 そんなソフィーの背中を見ながら秦清が呟く。


「あの若造の行動は色々問題があるのであろうな。一度、灸を据えるべきではなかろうか」



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