第43話 もう、無理
リ、リアンがいるような気がする。ここに居ない筈のリアンが!!!キラキラの金髪が目の端に映っているような。きっと、き···気の所為だ。
しかし、肋骨がミシミシと悲鳴をあげていることからこれが現実だと思わされる。声を上げようにも恐怖が体を支配して口からはヒューと息が漏れるのみ。
「モナ、父さんから聞いたんだ。俺が考えなしに外の人を村に入れてしまったから、村に死の病が蔓延したって、それをモナが薬草を手に入れてくれたおかげで死人は出なかったって」
そ、そんな終わったことは良いから、力を緩めてよ!い、痛い。背中から圧迫されリアンとの間に挟まれ、ギリギリと痛い。
「シオンさんからも凄く怒られた。何を考えているんだって、その後モナが倒れたって聞いて村に戻りたかったけど、父さんが駄目だって言って戻れなかったんだ。モナ、ごめんね」
あ、謝る前に私を解放して欲しい。ごめんと言いながら力を強くしないで欲しい。
「兄ちゃん!モナねぇちゃんから手を離して!」
る、ルード!!た、助けに来てくれた!
「ルード!邪魔をするな!」
て、天の助けを邪魔だなんて!!
ミシミシと体の中を通って軋む音が聞こえてくる。モナの人生は圧死という死因で終わるのか。もう、気絶していい?もう、耐えきれない。
ふと、呼吸が楽になった。思わず大きく息を吸い込むと激痛が体をめぐり、咳き込んでしまう。咳き込んで余計に痛い。
何か声が聞こえるけど、痛みのあまり言葉が理解できない。
「ゴホッ」
何かが体内から出てきて慌てて手で押さえると、生温かいものが滴ってきた。手のひらを見ると····なんじゃこりゃー!!
赤い液体がベッタリと手のひらに付いていた。ストレスのあまり血を吐いた???
いや、右胸の以前ヒビが入った辺りが痛いから、これは完璧に折れて肋骨が肺に刺さっているのだろう。
もう、無理。
そして、私の意識は暗転した。
_______________
さて、少しだけ時間を戻してみよう。
モナが村長に呼ばれ、
そのことにいち早く気がついたのが、ルードだった。ルードはモナに挨拶として手を振ったわけでなく。それ以上、よそ見をしながら進んではいけないと、止めていたのだ。
しかし、モナに気がついて貰えなかった。
ルードは慌てて近くにいた秦清にお願いをする。
「
と。その言葉を聞いた秦清はモナの方に視線をむける。
「ふむ」
若い男女が抱き合っている。いや、ルードが兄と言った者がモナを抱きしめているが、モナの方はピクリとも動いていない。そのルードの兄という者を、拒否る素振りをモナが見せようものなら、秦清は直ぐにでも動いただろうが、若い者たちの邪魔をするのは、如何なものかと首を傾げたのだ。
それにルード以外の子供たちがリアンとモナを見て
「リアン兄ちゃん。ラブラブだね」
「ラブラブゥ!!」
「大好きだもんねー」
なんて口々に子どもたちが言っているのだ。これこそ老人が二人の間に入ろうというのは無粋というものだ。
こんな面倒なことは別の者に任せようと頼み事をしてきたルードに秦清は言う。
「適任を連れてこようぞ」
そう言って秦清の姿はかき消えてしまった。
しかし、その秦清の行動にルードは不満を顕にした。引き剥がすのは今すぐ出なければならないのだ。これは、リアンとモナの力の差を間近に感じていたルードだから思うことであって、他の者の目からは今現時点で危険性は何もないのだ。まさか、モナが恐怖の余り声すら出せない状態だとは気が付かない。
そして、ルードは自分の兄をモナから引き剥がす為に駆け出すのであった。もし、モナになにかあれば、ソフィーが悲しむ事になるのだから。
秦清が何処に向かって誰に面倒事を押し付けようとしたかと言えば、それは勿論、モナが通る少し前に南の方から家の方に向かっていった十郎左にである。
モナから野菜を渡され、裏の井戸で洗っていた家に入ろうとしていたテオが家の玄関前にフッと現れた秦清と鉢合わせをして『うぉ』っと声を上げた。
「将はどこにおるか?」
そう秦清に問いかけられたテオは驚きのあまり戸惑いながらも答える。
「あ、ああ。ジューローザは汚れた衣服を着替えているのでは?」
それを聞いた秦清は頷いて、真新しい家の中に入って行った。
中に入ると、ちょうど二階から十郎左が降りて来たところだった。それも真新しい着物袴姿だった。秦清の着ている深衣もそうだが、この村の女性たちが、見様見真似で作ってくれたものだ。
それは、リリーの姉であるアレーネがお礼だと言って、大量の布地をモナに差し出してきたのだ。その後ろではエクスが『僕の商品』と嘆いていたが。
それで、ここでは手に入らない和国の衣装や夏国の衣装を作ってもらったのだ。
「将、丁度よかった、隣の坊の兄というものが、戻ってきたようなのだが、姫が···」
秦清が最後まで言葉にしていないにも関わらず、十郎左の姿が目の前からかき消えた。
─────────────────
モナ side
てめーぶっ殺す!!
はっ!なんか途轍もない夢を見ていた気がする。
突然別れ話を突きつけられた後に捕獲され圧死する夢だ。
意味がわからない。まぁ、所詮夢だ。いや、半分は実体験だ。違う、トラウマが混ざりに混ざった夢だ。
夢でも許されない!
「リアン許すまじ!」
「モナ殿、気分はどうだ?」
ジュウロウザの心配そうな顔が見える。大きな手が額を覆う。
「熱は下がったみたいだな。サリ殿を呼んでくる」
ん?熱?あれ?私、風邪なんて引いていたかな?おかしいなぁ。
真新しい木の匂いがする部屋を見渡すとジュウロウザが部屋を出ていく姿の横にシンセイが立っていた。それも武器である
「シンセイさん、なぜ部屋で武器を持ってたっているのですか?」
取り敢えず聞いてみる。すると突然武器を置いて、木の床に跪いた。
「この龍玄。姫の守護者失格であります。ルード坊に助けを求められたにも関わらず、姫の状態を正確に判断しきれず、このような事に、誠に申しわけが立たぬ」
ん?ルードから助けを求められた?それがなんで私に関係するのか意味がわからないのだけど?
意味がわからないと頭にハテナを飛ばしていると、廊下から軽い足音が駆けてくる音が響いてきた。続いてドスドスという低く重い足音も聞こえてきた。
ソフィーと父さんの足音だろう。ガチャリと扉が勢いよく開けば、ソフィーが部屋に飛び込んできた。
「おねぇちゃん!」
「モナちゃん!」
「モナ!」
おや?母さんも居たようだ。母さんは基本的に足音が響かないので、部屋の前を通ってもわからないのだ。
「みんな、どうしたの?」
ソフィーがベッドで寝ている私の側に寄ってきて、心配そうに言った。
「どうしたもこうしたもないよ。リアンにぃちゃんに会って「ヒッ!」お、おねぇちゃん?」
お、思い出した。私リアンに殺されたんだった。死んでないけど。なんでリアンが村に戻って来たの?っていうか、リアンが
胸が痛い。今気がついけど、胸の辺りに何が巻かれている。それにこの痛み。
圧死したのは夢じゃなかった!!!
死んでないけど。
「やっぱり、リアンをもっと殴っておけば良かったか?」
父さんが拳を叩いて言った。いや、父さんは攻撃専門じゃないでしょ!
「あら、キールにあれだけボコボコに殴られていたのに、あれ以上は流石に可哀想よ」
キール!言っていたことを実行に移したのか!
リアンはいつまで村にいるつもりだのだろう。その間は絶対に家から出ないことにしよう。天の助けであったルードでもリアンを止めれなかったのだ。
あれ?じゃ、私はなんで生きているのか?血を吐いたよね。恐らく肺を圧迫したからか、肋骨が刺さったかは知らないけれど。
「お前たち。モナの負担になるから離れるのじゃ」
でかい父さんの所為で見えないけど、ばぁちゃんもいるようだ。
「ほれほれ邪魔じゃ」
そう言って、ばぁちゃんは父さんを叩いて横に移動させる。図体がでかいと邪魔だよね。
私の側まできた、ばぁちゃんが私を見る。いや、視た。ばぁちゃんも私や母さんと同じ様に目を持っているというか、ばぁちゃんの血が流れているから、母さんも私も特別な目を持っていると言っていい。
【精察眼】という、母さんの鷹の目と私の真眼と間の能力をもっており、主に薬師として患者の状態を視たり、薬草の特性や薬剤の処方量を視るのに使っているらしい。
だから、リリーを視たばぁちゃんがもう駄目だと判断したのなら、それが覆し用のない事実ということだ。
「痛み止めで痛みは引いておるな。熱も引いておる。今日は食事を取って体を休めるとよい。明日ぐらいにモナのスキルで治せば完治するじゃろ?」
おお、治癒スキルで治せと。でも、私の体の状態がよくわからないな。
「ばぁちゃん。骨が折れていた?」
「以前、ヒビが入っていた肋骨が治り切る前にポッキリいったようじゃ」
あ、うん。骨の再生には時間がかかるもんね。リアンに入れられたヒビをリアンにとどめを刺されたことになるのか。
「丸2日も寝ておったのだから、少しだけ食べて、回復薬を飲んでおくのじゃぞ」
そう言ってばぁちゃんは部屋を出ていった。丸2日?2日?
私、2日も寝ていたの!!
私が、あまりにも日が経っていることに驚いている間に、父さんは『もう一発殴ってくるか』と言って出ていき。ソフィーは『回復薬を持ってくるよ』と言って出ていき。母さんは『食べられそうな物を持ってくるわね』と言って部屋を出ていった。
誰か私の疑問に答えてよ!
「2日って時間が経ち過ぎでしょ」
「吾が不甲斐ないばかりに申し訳ない」
おお、未だにシンセイが床にいた。シンセイは何も悪くないのだ。悪いのはリアンだ。
そうシンセイに言おうと、体を起こそうとするが、胸が固定されているのと、痛みとで上手く起き上がれない。
すると体を支えてくれる手があった。
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