第39話 フェアリーのいたずら?

 光が消え、目を開けてみると暗い。じゃなくて、私を抱えているジュウロウザに解放するように叩いて訴える。私はジュウロウザの胸板に押し付けられていた。


 しかし、ジュウロウザの力が緩むことはない。


「これはこれは面妖な」


 シンセイの不思議そうに困惑した声が聞こえてきた。


「キトウさん。力を緩めてください。光る輪が出ていませんか?」


 すると、私は解放され、部屋の中央を見ることができた。

 何これ?確かに光るサークルは出現した。しかし、その周りには金貨や宝石など多様な物が散乱していた。まるで光るサークルから飛び出たように。


「何処から金貨や宝石が出てきたのでしょう?」


「姫、光る輪からですぞ」


 シンセイが教えてくれた。この大量の金貨と宝石をどうすればいいのだろう。ゲームでは何かが飛び出てきた記憶はない。

 ん?そう言えば、ダンジョンの魔物を倒していたけど、そこから何かドロップした感じではなかったなぁ。それとも、私が気が付かなかっただけでドロップしたものを敢えて二人が無視していたのだろうか。


「これはどう致そうか?」


「集めてモナ殿の鞄に入れておけばいいだろう」


 ジュウロウザが私の鞄の中にドロップした物を入れようと言っているが。


「キトウさん。氷竜のところにあった宝石や魔石を大量にもらっているので、これ以上は必要ないのでは?」


 そう、氷竜の巣にあった氷竜が集めてきたと思われるキラキラの宝石や魔石を私が寝込んでいる間にジュウロウザが私の拡張収納の鞄にしまっていたのだ。


「あって困るものじゃないから、構わないだろ?」


 困らないけど。困らないけどそんなに宝石があっても使わないし、何処かで換金する?


「それで、モナ殿あの光る輪はなんだ?」


 ジュウロウザに言われて改めて光るサークルを視る。



【フェアリーの癒やし】


 HP、MPを全回復できる。

 ただし、フェアリーのいたずらに注意。



 いたずら?もしかして、これがいたずら?


「えーっと。HPとMPが回復できます。それから、フェアリーのいたずらに注意とあります」


「いたずら?」


 ジュウロウザがそう言いながら、散らばっている金貨と宝石に目を向ける。金貨と宝石はただの金貨と宝石なので、幻でも偽物でもない。

 そのキラキラした物体をシンセイは足でかき集めている。ああ、沢山ありすぎて集められないものね。

 私はテントに戻り、掃除用の箒を持ってきて、周りから掃き始めた。


「モナ殿ゴミではないのだが?」


 ジュウロウザの呆れた声が聞こえたが、こんなに沢山ちまちま拾っていられない。それに、作った食事が冷めてしまう。今日は氷竜の肉を使ったシチューなのだ!少し味見をしたけど、鶏とも牛とも違う味わい。とろけるような美味しさとはこういうものなのか!というシチュー肉になった。

 これも、ジュウロウザがいつの間にか私の鞄に入れていた物だ。

 ジュウロウザ、グッジョブ!美味しいものは好きだ!


 呆れが顔を見せるジュウロウザに私は言う。


「今日は氷竜の肉シチューです。私はお腹が空きました。怪しいモノは解決したので、早く食べたいです」


 そう言うと、私が持っていた箒をジュウロウザに取られ、ゴミ金貨宝石を掃き出した。


 うん。お腹空いたよね。




 氷竜の肉シチューは美味しかった。とてもとても美味しかった。

 けれど、私はおかわりができなかった。多めに作ったはずなのに、侍と老将が競い合うようにおかわりをして、大鍋がすっからかんになってしまった。明日の分もあったのになぁ。


 しかし、ボケ老人が全くもって普通だ。丸一日共に行動をしていたが、お決まりのセリフ『ばぁさん飯はまだかいのぅ』を全く聞かなかった。


 一体どういうこと?その老将は目の前でお茶をすすっている。確かに昨日までは雨の中、おかしな事を喋っていたし、野菜売りのおばさんも『ボケ爺さん』と言っていた。


 ただ、そのボケ老人が普通の老将に戻るきっかけがゲームではあった。それはシンセイの武器を渡してイベントが済んだあとに、老獪な爺さんになっていたのだ。あの勇者の光を使わずに、キャラの不具合性が矯正されていた。


 なら、今の状態はなんだ?やはり、ゲームは所詮ゲームということなのだろうか。

 はぁ。全くもってわからない。


「気になっておったのですが、姫と将はどのような関係か?夫婦めおとですかな?」


「「違う違い」ます」


 すぐさま否定する言葉がジュウロウザと重なった。何処をどう見たら、夫婦にみえると?


「俺はモナ殿の守護者だ」

「キトウさんに護衛をしてもらっています」


 そう、カスステータスの私をジュウロウザに守ってもらっているだけ、そして、地獄モードに至らないために、ジュウロウザに私の運を分けているだけだ。

 地獄モードになったら私は生きていけないからね。LUK-10000000は避けなければならない。



「ほほぅ。守護者とな?」


 あ゛?ジュウロウザ守護者のことは村に戻るまで黙っているように言ったのに、なぜ、シンセイに言っている!

 私は隣にいるジュウロウザを睨むが、ジュウロウザは素知らぬ顔だ。


「それは、それは、珍しい」


「キトウさん!守護者の話はしないと言いましたよね!」


 ジュウロウザを睨みつけ文句をいうが、ジュウロウザはニコリと笑って私の頭を撫ぜる。


「シンセイ殿は守護者だったのだろう?」


 は?


「おお、将はよくわかったものぞ」


 え?

 私が困惑しているとシンセイは右腕の袖口をめくり、そのモノが見えやすいように腕を掲げた。


 龍だ。黒い龍が腕に絡みついている。


「今では墨のように黒くなっておるが、陛下が健在の頃は金色こんじきの色をしておりましたぞ」


 シンセイは何かを懐かしむように黒い龍を優しく撫ぜる。シンセイは夏王の守護者だった?そんなことゲームでは一度も出てきてはいない。


「先程、その杖を振るっているときに、金色に見えたのだが、気の所為だったのだろうか?」


「将は良き目をお持ちだ。時々ではあるが力を奮うときは今でも金色こんじきに輝く。吾が力は主の為に奮うものぞ」


 ちょっと、頭がこんがらがってきた。シンセイのステータスは凄いのは知っていた。基本ステータスだけなら、ゲーム後半の勇者に匹敵する。

 ゲームでの設定は夏国を大国と呼ばれるまで押し広げた初代夏王に仕えた将軍ということだった。それは、猛将と言われることに準ずるステータスだろう。

 しかし、そのシンセイが守護者?そもそも、守護者とは何か?その事が私の知識にはない。ゲームでもそのような言葉は出てこなかった。お手上げだ。考えるだけ無駄か。


 そう結論に行き着いた私は、ため息を吐きながら立ち上がり、朝食の下ごしらえでもしようかとキッチンに向かおうとしたときに、人の声が聞こえて固まってしまった。

 テントの外から?


『なんだ?この光っているやつは?』

『あそこにテント張っている人がいますね。聞いてみればいいのでは?』

『つぅーか、なんかいい匂いしないっすか?肉食いてー』

『聞くついでに食い物いただいちゃう?』


 なんか頭が痛くなってきた。冒険者ってガラ悪くない?私の肉を奪い取ろうって言ったやつ締めてやる!いや、返り討ちにされるのがオチか。


 なんだか足音が近づいてくる。え?これってどうすればいいの?私が不安げな視線をジュウロウザに向けていると、私が座っていた場所を叩かれ、座るように促された。


「姫。吾がまいろうぞ。ここには近づかせぬゆえ、安心されるとよいですぞ」


 そう言って、シンセイはテントの外に出ていった。




「キトウさん。冒険者ってこんな感じなのでしょうか?私はシオン伯父さんやマリエッタさんが冒険者ってイメージのですが」


 そう、私はここに来る前にジュウロウザに突然『火炎龍破』を使ったことへの文句を言った時に説明されたのだ。あの時、獣型の魔物と戦っていた冒険者たちが、私達に魔物を押し付けて去ろうとしたと。

 だからって狭い空間で凶悪な技は駄目だと言ったら、『助けを求めれば普通に手を貸したのに、押し付けようとしたのだ。自業自得だ』と言われてしまった


 冒険者のルールは私にはわからないので、それ以降は話題に触れなかったけど、あの私の肉を奪い取ろうと言ったヤツは許せない。


「まぁ。冒険者と言ってもピンからキリまでいるからな。だから、ある程度ルールというものがあるのだが、今来たもの達はあの光る輪のことを聞きたいだけだろうから聞けば去っていくはずだ」


 ジュウロウザはそう言いつつ、騒がしくなってきたテントの外を気にしている。大丈夫だろうか。彼らは···。



____________


一方、テントの外


「あ、誰か出てきましたね」


 テントに向かっていた魔術師が好む長いローブを纏い、長い杖を手にした男が、テントの幕が上がったこと指摘したことで、光るサークルに目を向けていた他の者達もテントの方に視線を向けた。


「あれ?あのジジィ。ボケジジィじゃないっすか?」


 一人用のテントより数倍大きなテントの中から出てきたのは杖をつき白髪の髪を一つに後ろでまとめ、この辺りでは見られない夏国の装束を纏った老人だった。


「えー?あんなじいさんが俺たちより良いテント持っているなんてズルくない?もらっちゃう?」


 体にピッタリとした衣服を纏い腰には数本のナイフを差した青い髪の男が言った。


「おい、すぐに人の物を取ろうという癖をやめろ」


 赤い髪の大剣を背負った男が仲間を注意し、その男は杖をついて立っている老人に警戒心もなく近づいていく。


「なぁ。じいさん、あれがなんだか知っているか?」


 赤い髪の男は光るサークルを指して杖をついた老人に尋ねた。しかし、老人は動く様子がない。


「ボケジジィに聞いたってわかんないっすよ。それよりもハラ減ったっす」


 槍を手に持った金髪の男がお腹を擦りながら、赤い髪の男に言う。


「小僧供。さっさとここを去れ、去るのであれば見逃してやろうぞ」


 老人が喋ったかと思うと、それは男たちにここから去るようにという言葉だった。


「それは、お断りしますね。この周辺の階層で唯一魔物が発生しない部屋なのですから」


 魔術師のローブを纏った者が老人の言葉を否定する。このダンジョン内で安心して休めるところから出ていけと言われ、ハイと頷く者などいやしない。


「それなら、追い出すこととするかのぅ。文句は聞かぬぞ。それが小僧共の選択したことのゆえ」


 そう言って、老人は老獪に笑んで見せた。

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