第36話 廃墟都市ルルド····?
「古代遺跡の調査よ。そこから怪しい鳴き声が聞こえてくるから調べて欲しいって、変わった依頼」
古代遺跡?イルマレーラ?
私は記憶を掘り起こす様に『うーん』と唸る。古代遺跡····確かゲームではいくつか存在したなぁ。この大陸の古代遺跡のダンジョンは3つ。地底湖のロズワード。空中都市ネルファーキル。廃墟都市ルルド····。
廃墟都市ルルド!
「ルルド?」
「あら?モナちゃん知っているの?」
血の気がサーッと引く。あそこはかなり後半にならないと行けないところだった。それもあそこは
「駄目!そこに行っちゃ駄目!」
「モ、モナちゃん?」
「そこはアイテムがいる。『闇待月』が必要!だから、駄目!」
私の言葉にジュウロウザがビクッと反応した。そう、ジュウロウザが探してこいと言われた、次元の狭間にある闇待月。
「それが無い限り出て来れない。だから母さん行かないで!」
「モナ。出てこれないって、そこには何がいるんだ?」
いつの間にか父さんが近くに来ていた。
「『死して尚、封印せざる神のなれの果』」
名はなかった。恐らく、名を持って力を取り戻すことを恐たのだろう。
「それは確かにそれは荷が重そうだね」
うぉ!思ったより近くからフェリオさんの声が聞こえた。
「フェリオ、どうする?」
「そうだねぇ。モナちゃん?」
「な、なんですか?」
声近いよ。すごく近いよ。ジュウロウザの背中に隠れつつ、腰に付けている調教用のムチに触れる。いつでも振るえるように。
「もし、そのアイテムが無いとどうなるのかな?」
闇待月は封印を解く物であって、ダンジョンの攻略に必要なものでは無い。だけど、今存在する国がゲームの時間軸では存在せず、廃墟の都市になっていた。それに古代遺跡の機能も殆ど停止していて、行けるところが限られていた。
その現状から考えると何かしらの遺跡の防衛機能が働いて、街を中心に国を消滅させたと思われる。死した神を外に解き放たないように。
「国の消滅」
誰かが息を飲む音が聞こえた。
「それは流石に···」
信じられないと。まぁ、そうだね。所詮子供の戯れ言だ。証明しろと言われてもできるものじゃない。
「依頼はキャンセルだね。封印された神ほど恐ろしい者はいない」
あれ?信じてくれるの?
「そうね。村の現状を言って、落ち着くまで遠くの依頼を受けるのをやめるって言えばいいかしら?」
「シア。そうしよう!この前家に戻ったらソフィーにどちら様ですか?って言われたんだ!家でゆっくり過ごす事も大切だ!」
父さん、それはソフィーの贈り物に幸運の大蛇の抜け殻なんて送るからだよ。ソフィーは蛇が大の苦手な物なのに。
「そうね」
「じゃ、決まったならギルドに報告に行こうか。モナちゃんたちはもう、街を出るんだよね?」
私はジュウロウザの腕を叩いてフェリオさんの質問に答える様に促す。
「はい、南下してエトマまで行って、プルム村に戻る予定をしています」
「そうか、無理せずにゆっくり戻るといいよ。村の事は心配しなくても大丈夫だよ。みんな戻って来ているからね」
村の外に出ていた人達が戻ってきてくれているのなら安心だ。
やっぱり弱っているときに家族がいるのといないのとでは、気の持ちようが違ってくるからね。大切な人が側にいるって、とても安心感があるから。
_____________
『グランツ』 side
門の外を見送る3人の男女がいる。その内、二人は人の目を引き付けるほど美しい容姿をしており、その二人を守るかの様に大柄の人物が背後に控えていた。
「モナちゃん。元気で良かったね」
キラキラとした笑顔を男性は隣の女性に向けている。
「ええ、本当に良かった。一時は自分の愚かさを呪ったわ」
美しい女性は風に煽られた白金の髪に白い雪を纏わせ、涙目で笑っている。そして、後ろに立っている体格がよい、正に戦士と言っていい偉丈夫は、女性の髪に付いた雪を払いながら言った。
「同じ誤ちを繰り返さなくて良かったじゃないか。今回は流石にヤバかったようだが」
そう、この者たちは娘を見送るためにロビーで待っていたわけではなかった。なぜなら、出発の別れは昨晩終わらせており、日が昇ると共に隣国に出発するつもだったのだ。
時は4時間前に戻る。
外はまだ暗く、日が昇る前である。しかし、空は曇天に覆われているため、外が明るくなるにはまだ時間がかかりそうだ。
シアはそろそろ起きて準備をしなければと思い目を開け、体をむくりと起こす。しかし、部屋の寒さにぶるりと震え、毛布に包まりたいとの欲求を振り払うかのように頭を振り、顔にかかった髪をかき上げたところで気がついた。
娘が作った幸運の腕輪がない事に、慌てて寝ていたところをみると、細切れに切れた糸が散乱していた。まるで刃物で切り刻んだかのように無惨にバラバラになっていた。
シアは慌てて隣で寝ていた夫を起こす。
「テオ!起きて!大変なの!」
しかし、隣に寝ているテオは起きそうにない。シアは寝ているテオの上に馬乗りになって、両肩を揺さぶり起こす。
「起きて!」
「シア!大変だ!」
その時、フェリオが部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのだ。ベッドの上の夫の上に馬乗りになる妻の姿これは···
「お取り込み中。ごめんね」
「ちがーう!フェリオ待って!扉を閉めないで!テオを起こして!」
慌ててシアはフェリオを引き止める。その、二人の声に流石のテオも目を覚ました。
「なんだ?朝から?騒がしい」
「テオ!大変なの!」
「僕の腕輪が細切れになってしまったんだ!」
「···フェリオもなの?」
「あー。もう少し落ち着いて話してくれないか?朝から騒がれても頭が回らん」
それはそうだろう。寝起きに騒がれても意味が理解出来ないテオにとっては、雑音でしかない。
そして、目覚ましの珈琲を飲んで、一息ついたテオの前に、糸くずが差し出された。それもフェリオとシアの二人からだ。
「ん?糸だな」
「はぁ。モナちゃんの腕輪がこんなふうになってしまったんだよ。こんなの初めてだよね」
フェリオがため息を吐きながら言った。その言葉にテオは慌てて自分の腕に付いた腕輪を見るが、そこには何もなかった。急いで、自分が寝ていたベッドに戻ってみると、自分が付けていた色の糸くずが散乱していた。それをかき集め、二人がいるところに戻る。
「俺のもだ」
その糸くずを二人に見せる。その見せられた物に二人の不安は一気に増してきた。
「僕、思ったんだけど、モナちゃんと話をしたほうがいいと思うんだ。あの時さ、モナちゃん言っていたよね。彼女たちに反応したんじゃないのかって、本当なら彼女達を直ぐに連れて帰らないと行けなかったんだよね」
フェリオは辛そうな顔をしながら言った。
「そうだな。もし、あのまま俺たちも一緒に村に帰っていれば、俺たちも病に罹っていたのだろう」
「そうね。モナちゃんを待って、少し話をしてからでも遅くはないわね」
そうして、3人はモナを待ち、細切れになった腕輪の原因は何かと探っていたのだ。
3人は雪が降る街の中を歩いている。このメルトの街にある冒険者ギルドに行くためだ。
「まさか、封じられた神がいるなんてなぁ」
テオがボソリと呟いた。それを、隣で聞いていたシアは『あら?』と声を漏らした。
「突拍子もない事や、意味が理解出来ない言葉を話すモナを避けていたのに?物さえ与えていれば、父親ズラしていればいいと思っていた癖に?モナの言葉を信じるのね」
「シア。それは昔の事だと、何度言ったらわかるんだ?親父さんの事を今でも根に持っているのはわかるが」
「シア。いつまでも過去の事を根に持つのは駄目だよ。あれ以来テオも変わったじゃないか。目の前でシアのお父さんを失って」
フェリオがシアを諌める。シアの父親という事はモナの祖父に当たる人物である。モナが嫌な予感がするために行くなと引き止めたにも関わらず、出かけた先で命を落とした人物である。なんとその場にテオも居たようだ。
「根に持つわよ!父さんもテオも村の外の人だからわからないかもしれないけどね!」
シアは怒っていた。そして、夫であるテオを睨みつけて言った。
「姫様の言葉を疑うなんて信じられない!」
そう、シアは怒っていた。娘の言葉を信じずに自分の父親を見殺しにした夫にではなく。姫と呼ばれ大切に育ててきた娘の言葉を信じなかった父親と夫にだ。
「今は信じているじゃないか。だから、こうやってギルドに向かって行っているだろう?」
「私はおばぁちゃんになっても、いい続けますからね」
「はいはい」
「君たち相変わらず仲いいね。村に帰るのなら僕もトゥーリとイチャイチャしよ!」
そんな事を3人が喋りながら歩いていると、剣と盾のマークが掲げられた看板がある建物にたどり着いた。
中に入ると、そこは人気は少なく数人の冒険者とギルドの職員が居るだけだった。メルトはそれなりに大きな都市にも関わらず、朝の時間帯にここの冒険者ギルドは混み合っていない。やはり、雪に覆われた街であるが故に人の行き来は少ないようだ。
フェリオは職員がいるカウンターに近づいて行く。カウンターには2人の人物が座っているが、その内のスキンヘッドの厳ついオヤジが座っているカウンターにフェリオは近づき声をかけた。
「メリーラちゃん!久しぶり!」
フェリオは厳ついオッサンにメリーラと呼びかけた。するとスキンヘッドのオヤジはぶすっとした顔で
「メリーラドルだ!変なところで名前を切るな!フェリオ」
メリーラドルと名前を訂正した。
「こんな辺境に『グランツ』の皆様が何のご用で?」
「受けた指名依頼をキャンセルしようと思ってね」
そう言ってフェリオは人の頭ぐらいの大きさの革袋をカウンターの上にガシャと置いた。
「これキャンセル料。イルマレーラの遺跡調査はやめることにするよ。今、僕達の村に病が流行っていてね。余り遠出したくないんだ」
「流行り病?何のだ?」
「夏燥熱」
するとメリーラドルはハッと息を呑む。それはとても恐ろしい病だ。治る見込みもなく高熱に苦しめられ干からびて死んでいく病だ。
「だから、キャンセルで」
「それはなんと言っていいか」
治る方法が見つかっていないのだ。頑張れや心を強くもて、なんて言葉なんて意味をなさないのだ。
「そいうことなんで、よろしく!」
の割には笑顔で冒険者ギルドを出ていくフェリオ。その姿にメリーラドルは首を傾げるのだった。
「フェリオ。少しは神妙な顔でもしなさいよ。あれじゃ、村に帰れて嬉しいのがだだ漏れじゃない」
3人は冒険者ギルドを出て、それぞれの騎獣の手綱を持ちながら、街の外につながる門を潜っていた。
「いやー。嬉しくってつい。そう言えば」
そう言って、門の外に出たフェリオは己の騎獣に跨る。
「モナちゃん。笑顔だったね。村じゃいつも気を張っているかのように警戒心むき出しだったけど」
「守護者という者を得たからか?」
テオも同じ様に己の騎獣に跨って、首を捻っている。
「えー?ラブラブってことじゃないの?」
「それは無いわね。モナちゃんに何処までキトーさんといった?って聞いたら山頂までって答えたから」
シアはフェリオのラブラブ説を否定した。
「そうなのかな?案外無自覚だったりして?」
そう言ってフェリオはモナ達が去って行った。南の方角を見ていた。
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