第34話 人は見た目ではない

 2日ほど山頂に滞在して、今は雪山を降りている。その間に色々話を聞いた。氷竜の事だ。親の氷竜の言葉から、引っかかっていたことがあったのだ。


『我らの子の運命を変えてはくれぬか?守ってくれぬか?我らの運命が変えれなくとも、せめて新しい命を守ってほしい』


 運命を変える。氷竜というものに先見の能力があるのかわからないが、自分たちはここで命絶えることが、わかっていたようにも思えた。


 ジュウロウザ曰く、あの後直ぐにドラゴンの素材を求めて冒険者が来たそうだ。その冒険者にドラゴンを倒す力があったのかと問えばリーダーと呼ばれた男にはあっただろうが、依頼を受けてきたようだったから、何かしら倒せる物を用意はしていたのではないのか、と言った。


 それで、少し思い当たる事がある。ゲームでのことだ。ドラゴンの卵。

 エトマの街で手に入れられるドラゴンの卵だ。

 その冒険者達がドラゴンを何らかの手段で倒し、素材と卵を売ったとしたら?


 ドラゴンの卵は相当の量の魔力を注ぎ込まないと生まれることはない。だから、勇者リアンが訪れるまで、卵のまま存在していた。


 あのドラゴンは氷竜だったのだ。それは元から無理な話だったのだ。

 火山のマグマの中の中央にある火の神殿に大きくなったばかりの幼い氷竜に向かわすなんて。だから、神殿に着いた瞬間に燃えて息絶えたのだ。


 リアンごめん。火の神殿には自力で行って!流石に氷竜は駄目だ。



 そして、その卵は私が抱えている。別に私の魔力を与えているわけじゃない。私の魔力なんて雀の涙ほどしかないからね。

 横向きに座っている私を支えながら、器用にジュウロウザが有り余っている魔力を与え続けているのだ。


 氷竜を孵してどうするかって?まぁ、自然に返すのが一番だろうね。ドラゴンの知り合いでもいれば任せられるのだけど、生憎私はただの人だ。ドラゴンの知り合いなんていやしない。


「モナ殿、難しい顔をしているが、何か考えごとか?」


「ん?火の神殿で氷竜を死なせなくてよくなったけど、生まれた氷竜をどうしようかと。雪華藤は多めに取ってあるから、村ではある程度お世話はできるけど、その後は自立してくれるかなと」


「火の神殿?なんの事だ?」


 はっ!また、口が滑ってしまった。片手で口を押さえ


「何でもないです」


 と取り繕うが、ジュウロウザは苦笑いをして言う。


「そこには火竜はいるのか?」


 火竜?ああ、なぜドラゴンに乗ってその火山に行かなければならないのかと言えば、そこが火竜たちの住処だからだ。人の身で火山に登ろうものなら、火竜たちの総攻撃に遭うのは間違いないだろう。


「いますよ。火の神殿の火山は火竜たちの住処ですから」


「だから、火竜がいたのか」


 ジュウロウザは何かを納得したようだ。



 順調に山を降りていき、廃教会のところまで戻ってきた。

 だが、私の目は見てはならない者が映ってしまった。


「モナ殿。あれは」


「キトウさん、目を合わせていはいけません。絡まれたらコンクリートで固められて海に捨てられます」


「コンクリートがよくわからないが、無視でいいのだな」


 そう、無視でいい。あれとは関わりたくない。


「おい、テメーら!気合がたんねーぞ!タマついてんのか?ああ゛?!」


 数人の黒い服を纏った人達が震えながら教会に向かって何かをしている。震えているのは寒いのか後ろに立っている人物が恐ろしいのかはわからないが、一心不乱に何かを唱えている。


 そして、その集団の後ろからは、前方の集団に発破をかけるように、声をかけている人物は、教会の教祖が着る黒い服装を纏っているが、黒髪のオールバックで黒いサングラスをしており、タバコを吹かしながら前方の集団の背中を蹴飛ばしている。


「これぐらい、人を刺すぐらいの気合で行けや!」


 人は刺しては駄目だ。それもその服装は聖職者だろう。決して口にしてはならない言葉だ。


 恐らく教会内にはびこっているモノ達を浄化しようとしているのだろうが、ゲームでシスターの幽霊しかいなかったのは、こいつのおかげだったようだ。


「テメーら、フザケてんのか?サクッとヤりやがれ!サクッと!」


 どう聞いても、ヤクザの幹部が部下に指示しているようにしか聞こえない。やっぱ、私は無理だ。どれだけ浄化能力が高かろうが、魔祓いのスキルを持っていようがヤクザ神官のパウーロを仲間にはしたくない。


 私達は関わりたくないので、そのまま廃教会の横を素通りする。はぁ、あれで能力だけはいいのだ。人は見た目ではない、いい典型例だ。




 日が沈んでからメルトの街まで戻って来た。帰りはベルーイに少し速度を上げてもらって、一日で山脈を降りきったのだ。


 レベルが上がって大丈夫だと思っていた私はフラフラしながら、ベルーイから降りることになり、結局、街の中をジュウロウザに抱えられる。なんだか行きしと変わらない姿で街の中に入って行った。


「モナちゃーん!」


 名を呼ばれ顔を上げると、ひっ!青年リアンが!


「モナちゃん!熱で倒れたって聞いて慌てて薬を持ってきたのよ!」


 母シアが手を振りながらこちらにやってきた。


「大丈夫?」

「モナ!熱はどうなんだ?直ぐに村に帰ろう!」


 父さん、暑苦しいから近づかないでほしい。それに街の往来の中で大きな声を出さないでほしい。


「大丈夫だから。今は移動に疲れて歩けないだけだから、大きな声を出さないで!フェリオさん、それ以上近づかないでください!」



 母さん達が泊まっている宿屋に連れてこられた。以前ここで泊まったところより格段にいいところだった。ベルーイを預けってくれるところは一つしかないのではなかったのか!

 ああ、もしかして人を見て判断された?ここの宿の支払いは出来ないだろうと。門番には支払い能力の低いように思われていたにも関わらず、人攫いには貴族に間違われるし、散々だ。


 この部屋は3部屋あって、それぞれ個室に最新式の魔石を熱源として発熱する魔道具が置かれていた。それに、キッチンにトイレ、浴槽のお風呂もある。この街に来た日もこの宿屋がよかった!


「モナちゃん!ご飯食べに行きましょ!」


 部屋の扉を勢いよく開けた母さんが言ってきた。ここの宿の食堂で両親と食事をする約束をしていたのだ。


 そして、私は母さんと向かい合って食べている。ジュウロウザは父さんとフェリオさんと別の席で食べている。フェリオさんを近づかせないでくれているなんてグッジョブ!


「モナちゃん。ごめんなさい」


 ん?なんで母さんが謝ってくるのだろう。


「私達の判断が間違っていたわ。あのときすぐさまリアンくんを連れて王都に戻れば、村があの様にならなかったのに」


「あ!夏燥熱はどうなった?」


「モナちゃんが頑張ってくれたおかげでみんな無事に回復しているわ」


 よかった。アネーレさんが頑張って届けてくれたおかげだ。


「ダンジョンの攻略中にこの話を兄さんから聞いてすっごく怒られたの『なぜ、リアンと共に直ぐに王都に引き返さなかった』って、後で思い返せばそうすべきところだったと思っているわ。あのときはリアンくんを納得させて、連れ帰ることしか思わなかったの」


 まぁ、リアンは一度言い出したら、納得するまでテコでも動かないときがある。多分、あのときも母さんが帰ろうとリアンに言っても恐らく納得はしなかっただろう。


「そ、それで、リアンはここにはいないよね」


 前と同じ様にひょっこり出てこられたら、発狂物だ。


「いないわよ」


 母さんからの言葉にホッとため息がでる。レベルが上がったと言っても幼児ステータスであることに変わりはない。


「リアンくんには勇者として魔物の討伐に行ってもらっているわ。仲間にする人はきちんと自分の目で見て決めなさいと言ってね」


 やはり、あの人選は誰かから勧められたのだろう。今度は自分で決めて欲しい。できれば、なるべくまともな人で。まとも···いるかなぁ。


「リアンが頑張って旅に行ってくれているならそれでいい」


 そして、魔王を倒して、そのまま帰って来なくていい。王女か聖女とでも幸せになってくれ、私はそれを影ながら応援するよ!


「それで、モナちゃん」


 母さんはテーブルの上に乗り出して、内緒話でもするように手を口元に持っていった。


「ん?なに?」


 それを私は普通に聞き返す?


「えっと、彼とはどこまでいったの?」


 カレとは何だ?私が意味がわからないと首を傾げるていると、母さんは『もう!』と言って


「キトーさんとよ」


 ああ、ジュウロウザと何処までって?それは勿論。


「山頂まで」


 私の答えに母さんはため息を吐いた。本当の事だし、嘘なんてついていなし。


「はぁ。そうね。そうなるわね。彼、モナちゃんの守護者になったのでしょ?」


 ん?私、守護者の話はしていないはずだけど?村にとって守護者は特別だと聞いた。だから、村に帰るまで誰にも話さないつもりだった。だけど、なんで母さんが知っている?


「アレーネから聞いたのよ。雪華藤を受け取った時に確認したって」


 確認?何を?意味がわからないのだけど?


「あら?キトーさんは話していないの?」


 ジュウロウザから?


「あ!モナちゃん。これ美味しいわね」


 母さんはいきなり話を変えた。これは後でジュウロウザから聞き出さないといけない。私が寝込んでいる間に何があったのかと。

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