第33話 レベルが!!

 ふと、目が覚めた。なんだか頭がボーッとする。ここは何処だろうと横を見ると、赤々とした火が見える。暖炉?家に暖炉なんてあっただろうか。

 確か、家を改築するときに冬場はキッチンの薪の熱を家中に行き渡らせる作りにしたはずなのになぁ。


 ガシャと何かが落ちる音がした。そこに手をやってみると、冷たい。氷?ああ、氷嚢か。


 頭がボーッとすると思ったら熱があるのか。額に手をやってみると、その前に額を誰かに触られた。視線を上げると、ジュウロウザの顔が見える。


 ああ、確か氷竜の巣のところで息絶えたのだった。いや、生きているけど。


「少し、熱は下がったか」


 やはり熱が出ていたのか。熱なんて何年ぶりだろう。私が熱を出すと色々大変らしいから、そうなる前にばぁちゃんが、とてもとても苦い薬湯を飲ませて早く寝るように言われていて、ここ数年は熱なんて出さなかったのになぁ。


「モナ殿。解熱剤の薬はあるのか?」


 解熱剤?私は首を横に振る。基本的に私には他の人が飲む薬は使えない。普段ばぁちゃんが作る魔力を込めながら作るものは私には強すぎる。その代わりに薬草を煮出しただけの効能を抑えた薬湯を用いるのだ。


「お、おゆとあかいかみのくすり」


 「お湯?赤い紙の薬?」


 ジュウロウザの言葉に首を縦に振る。ジュウロウザが離れたあと、気になったものに触れる。さっき、氷嚢を触ったときに気になったモフモフの毛。それが私の下に敷かれているようだ。

 暖炉の前ということはここはベッドではない?なんでだろう?それにしても、手触りのいいモフモフ。これいい。


 モフモフの手触りを楽しんでいると、ジュウロウザが戻ってきた。


「これでいいのか?」


 赤い包み紙を見せられたので頷く。本当は煮出して飲む薬湯なのだが、私のフリーズドライ製法で効能成分だけを粉にしたものだ。もともとはただの苦いお茶だ。何度か使用したが、問題はなかった。


 ジュウロウザに起こしてもらい、お湯を口に含み、赤い紙を開いて一気に口の中に入れ·····に、苦い!それをお湯で流し込む。


 何度飲んでも慣れない。苦すぎる。涙目にながら、残りのお湯を飲み干す。でも、まだ苦い。


 すると、何かを差し出された。


「白水果だ」


 始めて聞く名前だ。なんだろう。白いみずみずしい果肉の果物が皮を剥かれて食べやすい大きさに切られている。

 フォークで白い果肉を刺して一口食べる。甘い!苺だ!大きな甘酸っぱい苺!これ美味しい。


 美味しい。美味しいと思いながら、あっという間に食べきってしまった。でも、これどうしたのだろう。それにあの後どうなったのだろう。

 しかし、瞼が落ちてくる。聞かなければならないことがあるというのに


「ゆっくり休むといい」


 ジュウロウザのその言葉と共に意識が沈んでいった。





 ふと、意識が浮上した。頭がスッキリとしている。起き上がってみるが、体を起こしたところで、頭がくらりとして前のめりに倒れる。まだ、早かったか?

 自分のステータスを確認してみると。



モナ


 16歳

 職種:村人


 Lv.21


 HP 60

 MP 32


 STR 10

 VIT 6

 AGI 26

 DEX 18

 INT 60

 MND 20

 LUK ∞


スキル

 真眼

 治癒

 魔祓い


称号

 異界からの転生者

 ラッキーガール

 混じりしカミト




「れ、れれれれレベルが上がっている!」


 あの必要だった経験値50万はどこから捻出したのだ!いや、それよりもHPが60!60だよ!倍だよ倍!


「モナ殿。大丈夫か?」


 前のめりに倒れている私をジュウロウザが起こしてくれた。


「レベルが上がったのです!」


 ハイテンションのままジュウロウザを見れば·····。

 あ、うん。これは夢だ。絶対に夢だ。そうだね。私のレベルが上がるなんてあり得ないもの。


「できれば、わかる言葉で話して欲しいのだが?熱は下がったようだな」


 わかる言葉で話すように言ったジュウロウザは私の額を触り熱が下がった事を確認した。した。したね。夢じゃないのかー?頬を抓る。痛い。私の目がおかしいのかと眉間を揉んでみるが、何も変わらない。


「すみません。キトウさん。色々聞きたいことがあるのですが、その前になんでゼロが7個になっているのですか?目の錯覚ですか?」


「ああ、レベルが上がったからだな」


 ジュウロウザは当然のように言った。

 ゼロが7個。何がって?それはもちろんジュウロウザのLUKがだ。マイナス一千万···あり得ない。


鬼頭 十郎左(キトウ ジュウロウザ)


 Lv.61


 HP 980500

 MP 89560


 STR 41650

 VIT 60856

 AGI 52000

 DEX 100253

 INT 132585

 MND 592800

 LUK -10000000



 ないわー。





 私は身なりを整えて、暖炉の前でジュウロウザの膝の上に座っている。隣に座ろうとしたら、病み上がりだからと抱えられてしまった。

 私は子供じゃないぞと文句を言おうとしたら、苺味の果物を口の中に突っ込まれた。美味しい。


 いや、ちがーう!


 再び文句を言うために、口を開けば果物が口の中を占領する。美味しい。


「くっ。モナ殿、白水果は美味しいか?」


「美味しいから、自分で食べたい」


 これ以上、口に突っ込まれてたまるか!すると、皿ごと渡してくれた。一口食べる。美味しい。苺ってこの世界にあったのか。いや、きっと見た目は苺じゃないのだろう。


「くくっ。モナ殿は可愛いな」


 そう言いながら、ジュウロウザは私の頭を撫ぜてくる。絶対にジュウロウザは私を幼子と思っているのではないのか?


 白水果を食べて、お茶を飲んだところで食器を横にのけられ、私はジュウロウザの膝の上から降ろされた。

 離れると魔王が降ってきてしまう!今回は流石にヤバイよ!


 すると、ジュウロウザは私に向かって頭を下げた。時代劇でよく見た。あぐらのまま両手で拳を作り頭を下げている姿だ。


「すまなかった。モナ殿」


「キトウさん。頭を上げてください。キトウさんが謝ることは何もありませんよ」


 しかし、ジュウロウザは頭を下げたままだ。


「今回のことは俺の傲りが招いたことだ。氷竜に勝てると豪語しておきながら、この有様だ」


 いや、私が倒れた時に支えてくれたのはジュウロウザだったし、今回のことは予想外過ぎたのだ。巣が在るというのに番のドラゴンがいるなんて予想していなかった私が馬鹿だったのだ。


「キトウさん。今回は予想外過ぎました。どうやら、氷竜は私に言いたい事があったようです。そう言えば、2体の氷竜はどうしました?」


「言いたいこと?」


 そう言って、ジュウロウザはやっと頭を上げてくれた。本当にジュウロウザが謝ることは何もないのだ。雪山で私の体力が保たないなんて始めからわかっていたことなのに。


「氷竜は倒した。2体共だ。火竜は逃げてしまったが」


 ·····ん?カリュウ?火竜····あ、うん。きっと聞き間違いだね。


「氷竜はモナ殿に何を言ったのだ?」


「卵を守って欲しい···キトウさん!氷竜の卵は何処に!」


 思わず、周りを見渡すが、そんな物は見当たらない。


「ああ、どうすればいいのはわからなかったから、騎獣室の前に置いている」


 その言葉にほっとため息がでる。私はちゃんとジュウロウザに言葉を伝えられたようだ。


「よかったです。誰も氷竜が人に頼み事をするために攫うなんて予想出来ないじゃないですか。だから、謝らないでください」


 まぁ、私は死んだと思ったけど、終わり良ければ全て良し。私は五体満足に生きている。それは、素晴らしいこと。


「そう言えば、あれから何日経ちました?キトウさんお食事はされました?何か作りましょうか?」


「5日だ。2日前にモナ殿は一度目覚めたが」


「5日!5日も時間を無駄にしてしまったの!雪華藤!!早く持って帰らないと!」


 そう言って立ち上がるが、立ちくらみがして、しゃがみ込む。レベルが上がったといのに!いや、まだ幼児から脱出していないのはわかっている。でも、情けない。熱如きで5日も無駄にしてしまった。


「モナ殿、落ち着かれよ。雪華藤はアネーレ殿に渡したから大丈夫だ」


 ジュウロウザは頭を押さえながら屈んでいる私を抱き上げ膝の上に乗せる。だから、私は幼児ではない!いや、魔王が降ってくることを思えば、これぐらいで文句を言うのは間違っているのか?


 はぁ。流石、天使の姉は天使だった。約束を守って追いかけて来てくれたのだろう。本当はそんな事をしなくてもいいと思っていたけど、今回はアネーレさんのおかげで助かった。


 私の愁いは無くなったところで、肝心な事を聞かないといけない。


「アネーレさんが村に持って帰ってくれたのならよかったです。ところで、マイナス一千万の理由を聞いていいですか?マイナス百万でも大概でしたのに、流石にここまで来ると私の許容範囲外ですよ」


 私は背もたれにしているジュウロウザに尋ねる。レベルがアップしたからと言っていきなり百万から一千万はあり得ない!私は認めない。というか認めたくない!


「始めはマイナス10だったのだ」


 ん?何の話を始めた?私は一千万の理由を聞いているのだけど?


「それが、レベルが10上がるごとにゼロが一つ増えていったのだ」


 あれ?もしかして。


「今回、氷竜を2体倒したことで、レベルが60を越え、その数値になった」


 あー。これは····そういう事。

 レベル1だとLUK-10、レベル10になるとLUK-100。昨日まではレベル58だったから-1000000で、レベルアップしてレベル61になったからLUK-10000000。最悪だ。


 だが、これでクラッシャーの酷くなる理由がわかった。

 ゲームを2周目をやっていたときだ。1周目はこの雪華藤のサブイベントでジュウロウザが仲間から外れてしまったので、2周目はある程度ジュウロウザを仲間にして進んでいたのだ。しかし、ある時を境にクラッシャーが一気に酷くなったのだ。これは地獄モードかと言わんばかりの酷さになったのだ。だから、私はジュウロウザを仲間にすることを諦めた。


 これは無理だ。流石にマイナス一千万は地獄モードに突入するだろう。



 しかし、私が気になったのはもう一つある。ジュウロウザは氷竜を2体倒してレベルが4上がっている。そして、私もレベルが上がっているのはジュウロウザのパーティメンバーとして認識されているのだろうが、私は1しかレベルが上がっていない。

 50後半のジュウロウザの経験値より私の経験値の方が多く必要っておかしくない?


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