第30話 守護スキル

「なっ!」


 ジュウロウザが歩みを止めて私を見た。いや、頬にぐらい家族にもすることだし、大したことはない。


 ああ、確か。幼い私が冒険者の仕事に行く父にいってらっしゃの意味を込めて頬にキスをしているの姿をリアンが見ており、リアンにせがまれた事もあったが、それは断固として拒否をした。

 そうすると、逆にリアンにキスをされた。調子に乗ったリアンはたちが悪くなるのは経験済みだったので、これを許すととんでもないことなりそうだと予想し、次の日に戻ってきた父に泣きながら訴えれば、速攻父は何処かに消えていき、私は密かにガッツポーズをした事件はあった。例え土下座してお願いされても、リアンには絶対にすることはない!


「キトウさん。止まってますよ」


 私が指摘するとジュウロウザは足を動かし始めた。ジュウロウザが言い出したことなのに、顔を赤くしないで欲しい。こっちまで恥ずかしくなってきてしまう。


 だが、これで守護のスキルが発動した。

 ふーん。これはこれで恐ろしいね。全てのステータスが30%加算されている。このパーセンテージは互いの信頼度ということかな?

 このゲームは何かと信頼度が影響してくるので、そう考えてもおかしくはない。


 やはり、こころなしか進むスピードが上がっている。このスキルはある意味恐ろしい。信頼度が高いと100%の加算、倍化するのだ。しかし、何か互いに不具合が生じると恐らくマイナス加算されるのではないのだろうか。LUKにマイナスが存在するのだ。大いに有り得る仕組みだ。

 この事はジュウロウザに言っておく必要がありそうだ。


「キトウさん。新しいスキルはどうですか?」


「え?」


 え?っと言われてもジュウロウザの事だ。


「発動したスキルです」


「はぁ。モナ殿は何でも見通せるのだな」


 ため息を吐かれても。私はなんでも見通せることなんて出来ない。


「なんでもは無理です。私が見えるのは、スキルで見える物だけです」


「それは秘密ではないのか?」


 秘密?これはただのスキルだし。私個人が隠す程の情報ではない。


「秘密ではないですよ。私の母が持っているスキルの上位スキルを私が持っているぐらい村の人は誰しも知っていますよ」


 ん?いや、母さんとばぁちゃんに注意されたな。


「あ。村の人以外には言ってはいけなかった。でも、守護者の称号を戴いたキトウさんは大丈夫でしょう」


 だ、大丈夫のはず。守護者には対象者がいると聞いている。それが、人か物かはわからないが、私には新たな称号が発生していた。


【混じりしカミト】


 カミトはわからないが、“混じりし”というのは、私が私である前の記憶を持っていることに関係しているのだろう。


 ジュウロウザの【カミトの守護者】と私の【混じりしカミト】は守護者と対象者と認識していいはず。

 なら、村での秘密事項を漏らしても大丈夫のはずだ。


「では、その上位スキルとはなんだ?」


「真眼です」


 私は躊躇なく答える。


「そ、それは俺に話していい事なのか?」


 確かに、村の人以外に話してはいけないと何度も言われていた事だ。しかし、村では守護者と対象者に対して特別な扱いがされると教えてもらった。私は詳しいことは教えては貰っていないが、リアンは何かを知っているようではあった。


「そうですね。ただ、カミトの守護者の称号と私の混じりしカミトの称号は守護者とその対象者という事でしょう。

 そして、守護スキルの発動条件と今回の発動率を見ますと、ある程度信頼関係が必要だと思いました。恐らく互いが互いに不信感を抱くとマイナスに作用する事でしょう」


「混じりし神人?」


 気になるのはそこ!そこは気にしなくていいよ。


「何が混じっているんだ?」


「秘密です」


「それは秘密なのか?」


「秘密です」


「信頼関係が必要なのだろう?」


「女と言うものは1個や2個や30個ぐらい秘密があるのです!」


「流石に30個は多いと思うぞ」


「多くありません!」


 くっ。笑わなくてもいいじゃない!絶対にこの秘密は墓場まで持っていくから!


 ジュウロウザに笑われている内に上の建物までたどり着いた。しかし、ジュウロウザは私を降ろさずにそのままスタスタと歩いて行く。


「キトウさん、降ろしてもらえます?魔石の回収もしたいですし」


「ああ、それは必要だな」


 そうジュウロウザは答えたまま、歩いて行く。


「キトウさん!」


 私はジュウロウザを睨みつける。凍っていないのであれば、私は歩ける!


「モナ殿。直ぐにベルーイに乗ることになるのだから、このままでも構わないのではないか?」


 うっ。確かに直ぐにベルーイに乗ることになるかもしれないが。このまま自分で歩かないと駄目人間まっしぐらじゃない!そのうちカスヒロインからクソヒロインに呼び名が変わっているんじゃないのだろうか。


 何度か文句を言ってもジュウロウザはそのまま歩き続け、支柱にはめた魔石を回収して、階段を降りで行き、そのままベルーイに乗ってしまった。


 ジュウロウザに30階分も登らせた上に、そのまま神殿を出るまで、抱えてもらうなんて、なんて酷い人なんだろうとベルーイの背の上で私は項垂れてしまった。



 洞窟から出れば、今日も晴天に恵まれていた。青い空と白い雪のコントラストに目を細めながら、今日こそは雪華藤を手に入れようと心に決めた。


 雪に覆われて見えなくなっている山道に沿うように進み続けること2時間、本来昨日に来る予定だった廃墟教会にたどり着いた。例え廃墟であり、少々問題があっても雪と風よけぐらいには使えるであろうと思っていたが、実際に見てみると昨日来なくてよかったと思わされた。

 ジュウロウザにここで休憩を取るかと問われたが、頑固として拒否をした。


 ゲームではシスターのレイスが誰もいなくなった教会を守っているという話で終わっていたのだ。そう、シスターのレイスだけだと。

 しかし、私の目にはそれ以上のモノ達が映っている。これはそのまま見なかったことにしようと、ジュウロウザにこのまま山頂に向かって進むように促した。


「モナ殿。本当に休憩は必要なかったのか?」


 心配そうにジュウロウザが聞いてきた。確かにこの雪山で保温機能がある衣服を来ていても、温かいお茶を飲みたいし、ずっとベルーイに揺られているのも疲れるのだ。だから、休憩は欲しいが、あそこは駄目だ。


「キトウさん、休憩は欲しいですが、あの教会は駄目です。綺麗に除霊でもするのであれば考えますけど、アレは駄目です。どこか他に休憩出来るところがあればいいのですが、無ければ目的地まで行って下さい」


「魔祓いのスキルがあるのだから、あのモノたちをなんとかできるのではないのか?」


「キトウさん。休憩を取るのにあれ等を討伐していたら何をしているかわからないじゃないですか。あれ等は本職の神官に任せた方がいいです。スキルなんて物を当てにし過ぎると失敗したらろくな事になりませんよ」


 あれは絶対に手を出したら駄目な部類だ。教会内にみっちりだったのだ。私は途中で視るのを止めたが、背すじが凍るというか、おぞましい何かがいるというか、もうこれ以上近づきたくない感が凄かった。


 今とゲームとでは時間軸が少しズレている。だから、リアンが来る頃には綺麗サッパリしていることだろう。


「言われてみれば、神官に任せた方がいいかもしれないな。他に休める場所があればいいのだが」


 ジュウロウザの言葉に同意見だ。温かい飲み物のでも飲んで一息付きたいぐらいだ。昨日のように雪の壁でも作れればいいのだが、あれはアレーネさんの魔術の一つスノーウィンドを駆使して作った目隠しの壁だったのだ。私とジュウロウザでは作る事はできない。まぁ、例え作れたとしても、空から舞い降りる氷竜には意味のないものになってしまうだろう。


「容器に保温の魔術を付与すれば、いつでも温かいお茶が飲めるのに、なぜ、衣服にしか保温の魔術が掛けられたものがないのでしょうね」


 この様に雪山に来ることは今後ないと思うけど、あれば色々便利かもしれない。村の魔具師に頼んでみようか。


「それは思ってもみなかった。モナ殿はいろんな事を思いつくのだな」


 思いつくというか、過去の記憶にあった物がないと不便だと思ってしまうからだ。こればあれば、あれがあれば、無いものを願ってしまう。だけど、これは私のわがまま。

 一度、何気ない事を口にしたら、その言葉を聞いていた父が何故か張り切って、家まで改装しだした事があったのだ。

 そんなもの子供のわがままだ。それを本気にするのは馬鹿親ぐらいだ。私のお風呂に入りたいだとか、使いやすいキッチンが欲しいというわがままを本気で用意した父は馬鹿親だった。

 その時は喜んだよ。すっごく。しかし、後で気がついた。おもちゃが欲しいとねだったわけではなく、家まで改装しなければならない事を言った子供のお願いを叶えてしまうのは流石に駄目だと。

 それ以降はなるべく、村の暮らしが良くなる物以外は口に出さないようにしていた。


 太陽が中天に差し掛かったところで、ベルーイの上で揺らながら昼食を取った。

 昨晩、真新しいキッチンに浮かれて作ってしまった白い大鳥のローストチキンを翌朝、昼用に作っていたパンでサンドした物を食べ、用意していた冷たいお茶で喉を潤す。

 はぁ、温かいお茶が飲みたい。


 それから、1時間ほど山頂に向かって登ったところで、ジュウロウザに声を掛けた。


「キトウさん。この辺りです」


 私が指し示したところはただ雪が積もった傾斜に過ぎない。しかし、雪の下には雪華藤が生えているのが、私の眼には見えていた。


「この辺りの雪だけ、あまり積もっていないので、降ろしてもらえますか?」


 そう、この辺り一面の積雪量はあまりない。ということは、雪を取り除いているモノが頻繁に来ているということだ。さっさと、採取して山を降りたほうが賢明だ。


 ジュウロウザに降ろしてもらい、近くにある雪華藤を取るために、屈んで雪に穴を掘ると雪とは違う感覚が手のひらに触れたので、その触れたものを引っこ抜く。

 すると白い蔦から水晶のような花が藤のように繋がって出てきた。雪華藤だ。

 雪の中を蔦が這い、キラキラとした水晶の様な藤の花を咲かすのだ。あとはこの蔦を伝っていけばいい。


 蔦を引っ張って繋がった花を雪から引っ張り出す····手が痛い。


「モナ殿。待つように言わなかったか?」


 ベルーイの手綱を外して、自由にさせてきたジュウロウザから声を掛けられた。確かに、ベルーイから降ろされ、ベルーイを自由にさせてくるから、そこで大人しく待っているようにと言われた。


「はい。ですから、この場から動かずにいました」


 移動はしていない。ただ、しゃがんで穴を掘っていたいただけ。


「はぁ。大人しくと言ったはずだが?」


 ジュウロウザは雪によって赤くなってしまった私の手を見て言った。確かにこれだけで、霜焼けになってしまうとは私も思わなかった。手袋を買えばよかったな。


「50程あればいいと思うのでさっさと終わらせましょう」


 私は苦笑いを浮かべながら白い蔦をジュウロウザに渡す。


「モナ殿。先にその手の治療を「いいえ」···」


 私はジュウロウザの言葉を遮って言う。


「この場にあまり長居すると危険です。薬は後で塗りますので、今は雪華藤の確保が第一です」


「わかった」


 ジュウロウザは不満そうな顔をしながらも了承して、蔦を伝って雪華藤を雪の中から引っ張り出してくれている。雪から出された雪華藤を蔦を手繰り寄せ、私が回収する。

 これは、ここにたどり着くまでに決めていた事だ。私が動くと雪に埋もれることはわかりきっていた事なので、ジュウロウザが雪華藤を雪から引っ張り出し、私が回収し、一房ごとに切り分け、いつも使っている薬草回収用の籠に入れていくのだ。


 概ね必要量が採取できたと、ジュウロウザに声をかけようと顔を上げたところで突風に煽られ、顔面から雪に突っ込んでしまった。

 何が起こったかと体を起こそうとしたところで、背中から引っ張られ、思わず近くにあるモノを掴み取る。


「モナ殿!」


 声がする方に視線を向ければ、眼下に焦ったジュウロウザが見えた。眼下?

 私の体は地面を離れ、宙に浮いていた。




____________


補足


 モナが手袋をしていないのは、モナの雪山用の装備はマリエッタが持っていたもので、そのマリエッタの武器は弓なのです。なので、弓士は専用の手袋をしているため、モナは雪山に行くにも関わらず手袋をしていなかったのです。

 それ以前に冷えて気がつくのですが、モナ自身が手綱を握るわけでもなく、武器を取るわけでもなかったため、保温の魔術が施された衣服の袖の中に手を入れておけば問題はなかったのです。


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