第20話 不安に思っていること
「おねぇちゃん。『おおと』はどんなところだった?大きなところ?」
少し発音がおかしいけど、大きなところではあった。食事を用意をしていると、ソフィーが近くにいて、旅の話を聞いてきた。お土産に渡した一角兎のぬいぐるみを抱いて、嬉しそう。
「そうだね。大きな街だったね。人もたくさんいたよ」
「そうなんだ!わたしも『おおと』に行ってみたいなぁ」
ふふふ。ソフィーは可愛いな。私の癒やしだ。
「ソフィー。ソフィーが王都に行くと魔物に襲われて食われてしまうよ」
ルードもキッチンに入って来ており、ソフィーと一緒になって、話を聞いていた。
「それじゃ、ルードが守ってくれるよね」
「あ。当たり前だろ!」
ルードは顔を真赤にして叫んでいる。
ふふふ、ルードも可愛いな。そんな二人の頭を撫でてあげる。
「私は魔物に襲われなかったから、ソフィーも大丈夫じゃないかな?」
「それは、おねぇちゃんだからだよ」
「それは、モナねぇちゃんだからだ」
え?そこまで仲良くなくてもいいと思うよ。
「ねぇ、ルード。トゥーリさんは大丈夫なの?」
村の人の殆どが病に臥せっているのだ。ルードの母親のトゥーリさんは大丈夫なのだろうか。ここにルードが居てもいいのだろうか。
「あ。母さんは大丈夫。父さんにモナねぇちゃんの腕輪が切れたことを聞いて、母さんもその日は外に出なかったから」
そう言えば、リアンが戻るって言う日は結婚式だったはず。
「ねぇ。リリーとキールの結婚式はどうなったの?」
「え?そんなのねぇちゃんの腕輪が切れたから延期になった。それで、モナねぇちゃんが戻って来てからにするって、リリーねぇちゃんが言ってるって、でも今は熱が出て動けないみたい。キールにぃちゃんが必死で看病している」
「それは、私の責任重大ね。絶対に薬草を持って帰らないと駄目ってことか」
あの、天使を死なせるわけにはいかない。天使は幸せにならないと駄目!
「ご飯できたから、ばぁちゃんとキトウさんを呼んできて」
「「はーい」」
可愛い二人の背中を見送って、私は食卓に配膳をする。
シュエーレン連峰か。万年雪に閉ざされた国境沿いにある山々だ。雪山の装備が必要だが、問題は私が登れるかどうかだ。
いや、自力で登るのは私では無理だ。
馬竜はどれぐらいまで寒さに耐えれるのだろう。騎獣の雪山装備もあるけど、馬竜にも対応できるのだろうか。それも『雪華籐』は山の中腹にあるのだ。
「私、雪山で生きていける自信がない」
「モナ殿、どうかしたのか?」
思案しながら配膳をしていたため、ジュウロウザが目の前にいることに気が付かなかった。
「あ、夕食できたので、座っていてください」
まだ、配膳途中なので、キッチンに鶏の香草焼きを取りに行こうと、足を動かす。そう!なんと今日はお肉料理があるのだ。王都で手に入れたコッコのお肉。鶏に似ていて美味しかったので、生肉を買っていたのだ。
····で、なんでキッチンまでジュウロウザが付いてくるのか?
「どうかしましたか?」
取り敢えず聞いてみる。
「何度か、聞こうと思っていたのだが·····」
なんだろう?何か聞かれるような事があっただろうかと首を傾げる。
「その、時々モナ殿の使う言葉がわからないのだが、何処の言葉だろうか?」
私の使う言葉?え?意味がわからないのだけど?
「いや、先程も『ワタシユキヤマデ』と言っていたが、何を言っていたのだろうと思って。時々、わからない言葉を使っているが、何か不安があるなら言ってくれないか?」
「うぇ?」
私、無意識で日本語を喋っていた?説明?これも無理。
「ごめんなさい。気をつけます」
「モナ殿。きちんと言ってくれないとわからない」
「後で話します。先に食事にしましょう」
ルードはトゥーリさんの分の夕食も持って帰り、ソフィーは美味しい美味しいと言って食べてくれた。
そして、私は片付けが終わった後、ジュウロウザにお茶を出して、隣に座る。
「不安に思っていることですか」
私はお茶を一口飲む。不安に思っていることなんていっぱいある。山盛りだ。
「やはり、一番は私の体力の無さですね。雪山で生きていける気がしません。それに、シュエーレンの山々に住む魔物が厄介です。下手すると氷竜に遭遇します」
そう、あの連峰の頂上に竜の住処があるのだ。氷属性の全体攻撃を受けて一環の終わり。ゲームオーバーだ。
しかし、ここは今の私にとって現実だ。死んだら終わりそれまでだ。
ぶるりと震える。体の内側から響く体を破壊される音。また、それを聞くことになるのかと思うと、恐怖が心を占める。
そう、私が頑なにリアンを避けている理由はこれだ。内側から響く骨の軋む音が、私にとって恐怖以外の何物でもない。そして、恐怖心と共に私の中で燻っている未練が顔を出す。今となってはどうしようもない未練だ。
「モナ殿。そのあたりは大丈夫だ。馬竜で移動が可能だ。馬竜は寒さにも暑さにも耐性があるし、ある程度の魔物は蹴散らすことができる。それに、氷竜は一度倒したことがあるから問題ない」
クラッシャーはドラゴンスレイヤーだったのか!それに、あの馬竜って優秀だったんだ。なら、問題ない?のか?な?
う~んと首を傾げる。生きて帰れそう?
「それに、モナ殿は絶対に守るから大丈夫だ」
「あ、うん。ありがとう」
後は私の寒さ対策か。勇者の装備なら頭の中に有るのだけど、一般人の私が出来る装備はなんだろう?
そんな事を考えていると、ジュウロウザから先程問われた事を蒸し返された。
「それで、先程の言葉は何処の言葉だ?」
「えーっと、秘密で」
「キョウヤとい言う者に関わりがあるのか?」
「響也!」
その名前にビクッと体が反応してしまった。
くー。私、ボロが出すぎ!
「キトウさん、それ以上突っ込まないでください。嫌な記憶も蘇ってくるので」
この前久しぶりに夢に見てしまったので特にだ。自分の死と未練を夢で見せつけられたのだ。はぁ。と、大きくため息を吐く。
「自分の死の記憶を繰り返すのは·····」
続きを言葉にできなかった。私はジュウロウザに抱きしめられていた。
「悪かった」
いや、なんでこんな状況になるのかさっぱり理解できない。私はただ、これ以上突っ込んで来てほしくなかっただけなんだけど?
「嫌だったんだ。わからない言葉を話すモナ殿がモナ殿ではないような気がして、怖かったんだ」
怖い?何が怖いのか?宇宙人的な感じってこと?
「何が怖いのでしょう?」
私は首を傾げながらジュウロウザを見る。っていうか、放してもらえないのだろうか。
「俺が捨てられるのではないのだろうかと」
「は?」
なぜ、そんな話になるのか?私がジュウロウザを捨てる?拾ってもないけど?あれは拾ったに値するのか?いや、違うはずだ。
「私、キトウさんを拾ってませんよ?」
「しかし、俺はモナ殿がいないと生きられない体だ」
その言い方、誤解を生むから!
「大丈夫です。今まで生きて来られましたから、生きていけます」
「生きていける。確かに生きていけるかもしれない。だが、
しかし、この数日が幸せだったんだ。とてもとても穏やかな日々。この幸せを手放してしまえば、俺は本当に邪神にでもなってしまうのではないかと思ってしまうのだ」
あ、うん。LUKは邪神レベルと言っていいかもしれない。でも、ゲームのエンディングでは普通に旅をしていたよ。魔物にまみれていたけれど。まぁ、厄災級だと言われれば、なんとも言えない。
そう、エンディングでは一度でも仲間にした人のことが映像として流れるのだ。
ジュウロウザは何処かの山奥で魔物に囲まれて戦っていた。何処の山奥だよって、つっこんだね。
そして、モナはクズだった。勇者リアンが旅立ちの時に、戻ってきたら結婚をしようと言って旅立ったことは、この私であるモナも実体験したことだ。
魔王を討伐し勇者の真のヒロインとなった者を村に連れて行く情景からクレジットタイトルが始まる。他の街は10年間の戦いに疲弊し、瓦礫が積まれているにも関わらず、勇者の始まりの村は、長閑な麦畑が広がっていたのだ。
村に入ると幼馴染みヒロイン、モナが出迎えてくれる。
『あら?戻ってきたの?』
一番最初に勇者リアンに掛けた言葉がコレだ。そして、モナの腕には小さな子どもを抱きかかえており、足元には10歳ぐらいの子供がモナのスカートを掴んでいたのだ。そう、10歳くらい。
お前、待つ気が全く無かっただろう!思わず画面に向かって叫んでしまった。
約束を守る気のない最低な女だった。
しかし、分かるよゲームのモナ!その気持ち!
魔王を討伐して更にレベルアップしたリアンと結婚だなんてできるか!って感じだ。
まぁ、今の私にはそんな相手いないけどね。
はぁ。今の問題は私の目の前のジュウロウザだ。ジュウロウザの不運の根源のステータスを改善することは、無理だと言っていいだろう。いや、方法がないわけではない。その方法は勇者という力だ。
中盤になると『勇者の光』というアイテムを手に入れることが出来る。これが重要なのだ。
勇者の仲間はことごとく何処か問題がある。その問題が『勇者の光』と信頼度によって改善することができる。
例えば、ドジっ子聖女の回復魔術の成功率が40%から100%にすることができる。
ただ、この『勇者の光』は別の大陸にある。だから、船を手に入れて海峡を渡らないと行けない。
何が無理か。中盤になると大体仲間にするメンバーが固定化される。それ以降の戦いが厳しくなるため、信頼度が高いほうが何かと事がうまく運ぶのだ。
となると、不運の根源を連れて海を無事に渡れるかという問題が出てくるのだ。
奇跡でも起これば新大陸に上陸できるだろうが、結論からいけば、ほぼ無理。
ん?これだと私はジュウロウザにくっついていないと駄目ってこと?いやー。それはないわー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます