第19話 秘密です

 うぉぉぉぉぉ!私はなんてことをしてしまったのだ!まさか、夢だと思っていた響也がジュウロウザだったとは!


 私は今、布団を被ってうずくまっている。


 別にジュウロウザと響也は似てはいない。共通点といえば黒髪ぐらいだ。なぜ、私は間違ってしまったのか。


「モナ殿。そろそろ起きて、食事に行かないか?」


「ぐっ」


 ジュウロウザが朝食を食べに行こと声を掛けてくれた。わかっている。わかってはいる。私の羞恥心の問題だ。


「いつまでも王都にいるわけにはいかないぞ。三日後いや、もう二日後か。シオン殿が村に戻るとなれば、そろそろ、出発をしなければならない」


 は!確かに私が移動するペースを考えるとそろそろ出発をしなければならない。


「うっ。うううう。わかっています」


 布団から顔だけ出す。今のジュウロウザのLUKは500だ。あれだけ、腕を掴んでいても1より上がることはなかったのに、キス二回で1000まであがったのだ。あり得ない。

 だが、二度とすることもない。恥ずかしすぎる。


「モナ殿はかわいいな」


 くっそー。にこにこしながら私の頭を撫ぜてくるなんて、余裕だね。

 ジュウロウザの手を払い除け、がばりと起き上がる。


「起きますよ!」



 馬竜を連れて、買い物をしながら王都の外門に向かって歩く。はぁ、人が多いところは嫌だな。やはり、村が一番いい。それに私に旅は向いていないことがよくわかった。


 あ、あの串焼き美味しそう。なんのお肉だろう。コッコの肉?取り敢えず買ってみる。うーん。焼鳥の塩かな?

 あれは何?果物を絞ったジュース?オススメはオーメイのジュース?オレンジの味だけど色が紫。異様だ。でも、おいしい。


 そうやって、買い食いをしながらお腹を満たし、王都の外に出た。


「モナ殿。買うものはもう無いのか?」


 ジュウロウザ、馬竜に乗ってからそれを言うか?しかし、特に気になるものはなかった。私の拡張収納鞄は食材で満たされている。これ以上買うと腐らせてしまう。それはそれでもったいない。

 時間停止機能ってつけられないのかなぁ。


「ありません」


 私が、そう言うと馬竜がゆっくり動き出した。


 帰りも順調に進んでいく。魔物に遭遇することもなく。カポカポと馬竜が進んでいく。長閑だね。本当に魔王と言うものがいるのだろうか。


「そういえば、モナ殿」


 私の上から声が降ってきた。


「何?」


「なぜ、シオン殿たちが倒したドラゴンがドラゴンゾンビになることがわかるんだ?」


「は?」


 私、そんな事言った?·····言った··かも。

 疲れていたから、口から漏れてしまっていた。


「私、そんなこと言いました?」


 取り敢えずとぼけてみる。


「言った」


 くっ!ジュウロウザは言い切った。流石にこの世界がゲームの世界だなんて言うと頭のおかしい子、確定じゃない。

 だから、ジュウロウザを見て、口元に人差し指を立てて言う。


「秘密です」


「秘密か?」


「はい、秘密です」


「それは残念だ」


 ジュウロウザはそう言いながら、私の頭を撫でてきた。なんだか、朝からぐいぐいくるような気がする。


 まぁ、それも村に帰るまでのこと。




 2日後の昼にトリーアの町に着いた。何事もなく着いた。そこで、シオン伯父さんとマリエッタさんが待っていた。


「モナちゃーん!速攻に終わらせて来たわよー!」


 町の外で叫ばないでほしい。『翠玉の剣』のシオン伯父さんにアルトさん、双子のバルさんとジャンさん。『金の弓』のマリエッタさんにユーリカさん、マリエッタさんの旦那さんのガストさんが揃っていた。


「モナちゃん。その馬竜いいですわ。馬竜なんて殆ど市場には出ない騎獣ですのに良く手に入りましたわね」


 ユーリカさんがニコリと笑って言った。


「モナちゃんだからね」


 そんな簡単な言葉で終わらすのはアルトさんだ。


「アルトさん、それはどういうことですか?」


「どうにもこうにも、そのまま」


 アルトさんはへらりと笑う。大体いつもこんな感じだ。


「その馬竜なら、村まで1時間とかかるまい。では帰ろうか」


 シオン伯父さんがそう言って、騎獣に乗って村の方に向かって進む。


 え?もしかして、私を待っていてくれていた?


「モナちゃんの言っていたようにレッドドラゴンを灰にしてきたけど、それで良かったの」


 マリエッタさんが隣で並走しながら聞いてきた。


「マリエッタさん。ありがとうございます。それで、大丈夫です」


 はぁ。これで、ドラゴンゾンビになることはないだろう。


「いやー。今回はシオンが張り切っちゃって、速攻だったよ。いつもこれぐらいやる気を見せてくれたらいいのにー」


 アルトさんがヘラヘラ笑いながら、そんな事を言ってきた。アルトさん、前方のシオン伯父さんから睨まれているよ。


「そうですわ。わたくしの出番が無いぐらいでしたのよ」


 ユーリカさんはおっとりた喋り方をしているが、背中に背負っている武器が大槍なのだ。華奢な体でそんな大きな槍を振り回されるのかと、いつも疑問に思っているけど、一度フェリオさんと手合わせをしているところをみると、ブンブンと槍を振り回していた。華奢な美人が大槍を振り回す。ちょっと引いてしまった。


 そんな他愛のない話をしながら村の方に進んで行くが、何故か私の心の奥がザワザワとざわめいている。村に近づくほどざわめきが大きくなっていった。




 おかしい。何かがおかしい。

 ざわめきが大きくなる。


「シ、シオン伯父さん!何かおかしい。3つ目の結界が歪んでいる」


 私の目にはいつもピンと張っている透明な膜がたわんで歪んで見えた。

 3つ目の結界。これは村の災いを拡散させるものと言われているものだ。嘘か本当かはわからないけど、今までこの結界が歪んだということは聞いたことがない。


 私の言葉を聞いたシオン伯父さんはアルトさんに向かって言う。


「アルト。先に村の様子を見てこい!」


「はいよ!」


 そう言って、アルトさんは騎獣で駆け出した。

 数分後、村の入口にたどり着いた。そこには、アルトさんとばぁちゃんとソフィーとルードが立っていた。


「ばぁちゃん!ソフィー!」


 私は馬竜から降りようとも高すぎておりれない。ジュウロウザに抱えられ、地面に降り立つ。

 そして、ばぁちゃんとソフィーの元に駆け寄って抱きついた。ホッと安堵はするが、未だに胸のざわめきは収まらない。


「ねぇ。何かあったの?」


 私が聞くと答えてくれたのが、ルードだった。


「あいつらの所為だ。兄ちゃんが連れてきた奴らの所為だ」


 ん?あのハーレムのこと?


「あいつらが来た瞬間、モナねぇちゃんの腕輪が切れたんだよ」


 ああ、母さんたちと同じか。


「それも村人全員分」


「は?」


 ぜ、全員!


「兄ちゃんはモナねぇちゃんは何処に行ったんだって、しつこかったけど、他の人達は自由に村をうろついていたんだ」


 自由にうろつく?いや、普通案内してとかあるんじゃないのかな?


「兄ちゃんがブツブツ言っている間に腕輪を何回か付け直したんだけど、全て切れてしまったんだ」


 え?なにそれ、私、不良品を作ってしまった?


「それでね。おねぇちゃん。ばぁちゃんが今日は外に出たら行けないよって言ったの」


 ソフィーがそう教えてくれた。ああ、そこまでいくとホラーだよね。直ぐに切れてしまうミサンガ。


「お母さんとお父さんが来て、リアンにぃちゃんを連れて行ってくれたけど、お母さん達もばぁちゃんの言うとおりにしなさいって言ったの」


 うん。で、何が起こったの?私はばぁちゃんを見る。ばぁちゃんの顔色が悪い、何日か寝ていないようだ。


「夏燥熱じゃ」


 え?夏燥熱。普通は罹らない病気だ。


「誰かが、白月香を持ち込んだの?そんなものこの辺りには生えないのに?」


 白月香。春から夏にかけて生えてくる白い三日月の様な草だ。この草は乾燥した地域に自生する植物で、こんな水が豊富にある森には生えない。


「だから、あいつらなんだよ!リリーねぇちゃんの結婚を祝福するって言って、なんか見たことのない香草を燃やしたらしい。祝いの火だってさ」


「白月香って、あの香水に使われる物よね」


 マリエッタさんが聞いてきた。そう白月香は嗜好品として好まれる高級な香水に使われるものだけど、神事にも使われる物で、取り扱いを間違うと甚大な被害を及ぼすのだ。


「白月香は香水に使われるけど、その草をそのまま燃やすと、香りと共に草に付着している毒素も拡散するの。だから、そのままの白月香の煙は吸ってはいけない」


 正確には、草の裏に付着している虫が悪いのだ。その虫は腹の中に細菌を保有してる。熱によって、虫が爆ぜると共に細菌が拡散されてしまう。


 その熱の持った細菌が肺に入り、高熱を引き起こしてしまう。


 だから、普通神事に使用する場合、北の山奥にある神殿の湧き水に三日三晩浸すのだ。流石に冷水にさらされれば、虫も死んで草から剥がれ落ちる。

 これはゲームでの知識。ええ、ゲームでは奔走したよ。南の乾燥地帯から北の神殿まで行きましたよ。



 この夏燥熱の一番の治療法が、体を冷やすこと。そのための『雪華籐』なのだ。


 恐らくばぁちゃんは解熱剤で対処療法をしているのだろう。しかし、それで治るわけじゃない。


「母さんどうすればいい」


 シオン伯父さんがばぁちゃんに声を掛ける。


「夏燥熱は治療法がないのじゃ」


「そんなぁ」


 マリエッタさんの悲痛な声が耳に刺さる。

 ない?いや、ある。大丈夫だ。


「あるよ」


 私がそう言うと、皆の視線が一斉に向けられた。


「でも、遠いし。弱い私じゃ採りに行けない。普通じゃ探せないけど、私の目なら探せる自身はある」


「それは何処だ?」


 シオン伯父さんが聞いてきた。


「シュエーレン連峰の何処かの雪の下に咲く花」


「国境のシュエーレン連峰だって?それは遠い。それも山脈の何処かって範囲が広過ぎの上に雪の下ってないよー」


 アルトさんが無いわーみたいな雰囲気を醸している。


「恐らく、それまで解熱剤で対処しないと保たない。その材料も足りないんじゃない?」


「そうじゃ。あと2日分しか無い。村の殆どの人が罹ってしまっておる。それ以外の者たちは看病の走り回っておるのじゃ。全く人手が足りぬ。しかし、モナの依頼のお陰で、少しづつだが外に出ていた者たちが戻って来ておるから、まだ保っておる」


 おお、私グッジョブ!こんな事で依頼を出した事が役に立っている。


「モナ」


 シオン伯父さんが私を呼んだ。


「なに?」


「モナ。悪いが、その薬草はモナしかわからないのならモナに行ってもらうしかない」


 う。そうなんだけど、私のステータスはクズなんだけど?


「ジューローザが一緒なら大丈夫よね。モナちゃんをよろしくね」


「は?」


 マリエッタさん何を言っているの?マリエッタさんが付いてきてくれればいいのでは?


「俺たちは外にいる村の者たちを呼び寄せる。あと、結界の修復と薬草の確保も必要だな」


 あ、そういうことね。人手がいるんだよね。


「でも、帰ってきたばかりだから、今日は家でゆっくり休んでね」


 マリエッタさんがそう言って私の背中を押して家の方に行くように促した。でも、明日の朝にはまた旅に出るんだよね。

 私、生きて帰って来れるかな?いや、村の人達のためにも頑張らないと!


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