第14話 世紀末的なお馬様

「この馬竜は丈夫で力も強いので、お買い得ですよ。普通の馬と同じで騎乗にも馬車を引くにも適してますよ」


 店の店主が、この馬竜を勧めて来る。何故だ。檻の中では多種多様な騎獣がいるのにだ。

 ジュウロウザが騎獣が欲しいと言っただけで、この騎獣を勧めてきたのだ。だから、思い切って聞いてみる。


「何故、この騎獣を勧めるのですか?他にも騎獣がたくさんいますよね」


 私の質問に店主は狼狽えたあと、項垂れて答えた。


「実は、珍しい馬竜を購入したのはいいのですが、気性が荒くて手を焼いていたのです。それが、お客様がいらしてから急に大人しくなりまして·····」


 この際、売りつけようとしたのか。酷いな。コレ、ジュウロウザが強すぎるから、大人しくしているのでは?

 しかし、何故私の目の前にいるのだろう?これ程大きいと自力で乗れないよ。黒○号って呼んじゃうよ。


「試し乗りはできるか?」


 え?ジュウロウザ、コレにするの?コレどう見てもラ○ウ専用だよ。赤い鱗なら呂○奉先専用だよ。


「裏に乗馬場がありますよ」


 これはペットショップでよく行われる手法ではないのか?

 ゲージから出して抱っこできますよと言われ、抱っこしてしまえば飼いたくなる衝動に襲われてしまう怖ろしい現象が起きるのだ。


 ジュウロウザに促され裏手に誘導される。店主は馬竜を連れてきて鞍を付け出した。


「キトウさん。流石にアレは大き過ぎませんか?」


 鞍を付けられている馬竜を見る。遠目から見ても大きい。


「モナ殿。馬竜ともなれば弱い魔物なら蹴飛ばして進める。そんなに速度を出せないのなら、あれぐらいの騎獣は必要だ」


 あ、私の所為?魔物に追いつかれない速さで進むのなら問題ないけど、ゆっくり進むのなら厳つい騎獣が必要ってこと?


 はぁ。私のクズステータスを補うために必要なオプションと思って、我慢するしかないのか。出来れば、モフモフが良かった。モフモフ。あの檻の中にたくさん居たのにな。


 私が遠い目をしていると、馬竜に鞍とハミを付けられ、手綱を引きながら店主がやってきた。そのハミ、噛み切られないのだろうか。


 うっ。側で見るとやはり凄い迫力だ。先程は気が付かなかったが、尻尾は毛に覆われているわけではなく、鱗に覆われていた。それも太く長くトカゲのような尻尾だった。絶対に後ろからは近づかないでおこう。


 で、私はどうやってこれに乗ればいいの?この馬竜の背は私の頭の位置にあるのだけど?やっぱ大きすぎるのではないのだろうか。


「モナ殿。失礼する」


 ジュウロウザからそう声を掛けられたかと思うと、抱えられ、そのまま馬上の人となった。え?もしかして、ジュウロウザは私を抱えながらこの高さを飛べるわけ?


 しかし、高い。とてつもなく高い。正面ではなく横向きに座っているが、怖いものは怖い。それはそうだろう。私の頭の高さに座りその上から景色をみているのだ。


 その座っているモノが動き出した。乗馬はしたことはないが、揺れることは知っている。·····ん?思ったより揺れない?あの馬車よりはいい。


「これなら大丈夫かも?」


「それは良かった」


 上から、ほっとため息が聞こえた。やはり、クズステータスの私が大丈夫かどうかと言うことが問題だったのだろう。


 ジュウロウザに抱えられ地面に降り立ったが、私って騎獣にすらまともに乗ることができないのか。いや、わかってはいたことだけど、情けないな。


「この馬竜はいくらだ?馬具一式も付けてほしいのだが」


 ジュウロウザが店主に値段の交渉を始めた。そして、私と馬竜が残された。

 いや、気性の荒い馬を残していかないでくれ、私は横目でチラリと馬竜を見る。うっ。目が合ってしまった。


「ええーと。よろしく?」


 私は馬竜に何を言っているのか。人の言葉なんてわかりはしないだろうに。


『キューィ』


 ん?なに、今の可愛らしい鳴き声は?


「もしかして返事をしてくれた?」


『キュ』


 な、なんて見た目に合わない鳴き声なのだ。可愛らしすぎだ。ア○ベのごま○ゃんと同じ声質なんて詐欺だ!


 黒い厳つい馬を見る。飼うとなったら名前が必要なのだろうけど、私の中では黒○号か赤○しか出てこない。しかし、あの鳴き声を聞いてしまったら、その上にごま○ゃんが被さってしまった。

 もう、頭の中がパニックだ。


「モナ殿」


 そんな事を考えているとジュウロウザが戻ってきた。


「馬竜に付ける馬具を新しいものにしてもらうから、他に必要な物を買いにいこう」


 確かに必要な物はある。調理器具だ。私は美味しいご飯が食べたい。その為には、野外で調理できる器材が必要なのだ。

 今日のお昼御飯はまともな物が食べたいな。


 そう心に決め、店が立ち並ぶ大通り向かって行った。



「キトウさん。お幾らになりました?」


 私はジュウロウザに馬竜の値段を聞いた。母からお小遣いを貰ったので、それで支払えればいい。


「支払いは済ませた。モナ殿のお父上から多めに依頼料をいただいたから、それで賄った」


 いや、それはジュウロウザの報酬であって、騎獣の支払いに使っていいお金ではない。


「それはキトウさんの報酬ですよね。母からいくらか小遣いを貰っているので、それで支払いますよ」


「こういう時に使うお金込みの依頼料だから、モナ殿が気にすることはない」


 気になるから!絶対にあの馬竜は高いよね。歩きながらジュウロウザを睨みつけても、素知らぬ顔で進んでいく。

 はぁ、リアンなら折れるまで問い詰めるけど、ジュウロウザにはできないな。仕方がない。私は私の欲しいものを買おう。

 しかし、いったいどこに向かっているのだろうか?街の出入り口に当たる外門の方に向かっている気がする。


「キトウさん、どこに向かっています?私できれば、食材と調理器具が欲しいのですけど?」


「冒険者ギルドのあるところだ。そこに行けば大体の物が揃えられるからな」


 ああ、冒険者御用達のお店ってことか。そこなら、外で使える調理器具もありそ·····う?


 あ?

 私は足を止め、ジュウロウザを掴んでいた手を離す。そして、道沿いに並んでいるガラクタのような雑貨が置いてある露天商の前まで足を進めた。


 ふふふ。私は見つけてしまった。実はその露天商が気になり、真眼を使って横目で見ていたのだ。前から欲しいと思っていたものが、二束三文の値段が付けられ売っているではないか。


 銅貨3枚。1500Gガルだ。


 見た目はただの肩掛け鞄。それも布製で汚れが目立つ。いわゆる小汚い鞄だ。


 私は銅貨3枚を露天商の店主に差し出して、小汚い鞄を指し示す。


「これ、いただけます?」


「ああ、銅貨3枚。····ちょうどだ。持っていきな」


 愛想のない店主だ。まぁ、ガラクタのような物ばかりを売っているので、元から商売っ気はなかったのだろう。


 私は、小汚い鞄を手に取り、ほくそ笑む。そして、振り返れば、何故か機嫌が悪そうなジュウロウザがいた。


「モナ殿。気になるものがあるなら、そう言ってもらえるか?」


 ああ、私が手を離した事が問題だと?いや、少しぐらい離したところで、早々に魔王が降って来るわけではないことは、検証済なので、何に問題があるのか、首を傾げてしまう。


「何か、問題ですか?」


「はぁ」


 何故か。ため息を吐かれてしまった。


「約束をしたよな」


 おお、町中ではフードを被ることと、人と話さないっていう約束か。え?商品を買うのに話しかけるのも駄目ってこと?それは、いくらなんでも厳しすぎないだろうか。


「商品の購入くらい人と話してもいいと思います」


「モナ殿。これ程大きな街だといろんな人がいるんだ。いや、後で話そう。先に買うものを買ってしまおう」


 ジュウロウザはそう言って私に歩くように促した。確かに、大きな街だとたくさんの人がいるけど、それの何が問題なのだろうか。

 私はジュウロウザの腕を掴んで歩きながら、首を傾げるのだった。




 目的の物は揃える事ができた。しかし、すごい量になってしまった。ここで先程買った小汚い鞄が役に立つのだ。そう、これは収納拡張が施された鞄だ。ただ、術を発動するための魔石が外されいる。そのままではガラクタでしかない。しかし、私の手元には良質な魔石があるのだ!


 生活魔術のクリーンを掛け、きれいになったクリーム色の鞄をだす。

 魔石があったであろう金具にサイズが合いそうな魔石をはめてみる。お、何となくはまりそう。無理やり押し込むと入ったのでこれで良しとする。本当は加工をすべきなんだろうけど、今ここで必要なのだ。



 私は大量の荷物と共に街の外にいる。なぜ、街の外でこんな作業をしているかといえば、ジュウロウザに怒られてしまったからだ。別に買い過ぎで怒られたわけではない。

 いや、少し買うものが多いのではないのかと言われたのだ。だけど私は美味しいものが食べたいということは譲れない。だから、ジュウロウザに言ったのだ。


「キトウさん。大丈夫です。その為には先程買った鞄が役に立つのです。拡張収n·····」


 最後まで言えなかった。

 私は、ジュウロウザに抱えられ、店を連れ出されていた。

 は?意味がわからない。なぜ、店から連れ出されるのか、理解ができない。


 そして、建物と建物の間の路地に降ろされた。


「モナ殿。先程は何を言おうとしたのだ?」


 え?わからずに連れ出したの?


「拡張収納鞄があります」


 言おうとした言葉の続きを言ったら、上からため息が降ってきた。


「はぁ。モナ殿、それがどれだけ希少な物か知らないのか?」


「知っていますよ。普通なら星貨3枚は必要でしょうね」


 一度買おうとしたのだ。しかし、いつも使っている荷車の量ぐらいしか収納出来ないのに、星貨3枚、600万Gガルもしたのだ。過去の友人が「俺の車は2シーターだと」自慢していた軽トラより高いのだ。


「そんな物を持っていると知られればどうなるかわからないか?」


 ······取られる?


「盗まれる?」


「普通は使用者権限が登録されているので、使用者ごと攫われるんだ」


 うぇ?攫われる!それ、犯罪じゃない!盗むのも犯罪だけど、誘拐はもっと駄目だ。そんな事をされれば、私に抵抗する力はないので、扱き使われてしまう人生になってしまう。恐ろしい。

 思わず体がブルリと震えた。



 そして、馬竜を連れて店に戻って、商品を購入してから、街の外に出たのだ。

 私の手には拡張収納された鞄がある。私の目で視てみれば倉庫1棟分の量が入るようだ。流石、良質な魔石を取り付けただけはある。

 思わずにんまりとほくそ笑んだ。


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