第13話 なんとも侘びしい

十郎左 Side


 翌朝、モナ殿にルード殿とソフィー殿に言われた事を言わずに、村にまだ居たいと言えば、不機嫌な返事が返ってきてしまった。


 だから、俺の心の内を話した。この3日間何事もなく過ごせてとても幸せだったことを、するとモナ殿から言われてしまった。


「キトウさん、確か探しものがあったのでは?」


 探しもの確かにあった。しかし、それは俺を国から追い出すための口実だったと、気づいてしまったのだ。今まで何も手がかりがなかったのだ。今更、探そうとも思えない。


「キトウさん。『雪華籐』と『雷鳴鈴』は存在しますよ。どちらも、病を治す薬草です」


 そんな言葉が俺の耳に入って来た。在るのか?今まで誰も知らなかったのに?

 どうやら、他の3つも存在するらしい。


 モナ殿の知識はいったいどれほどあるのだろう。空の上の勇者しか行けないような場所にある薬草のことまで知っているなんて。


 しかし、モナ殿は肺病には『雪華籐』と『雷鳴鈴』だけでいいと言った。俺は妹の病の話はしていなかったはずだが、モナ殿の目はそんなことも見通せてしまうのだろうか。


 諦めていた思いが再び湧いて出てきた。薬草を持って帰れば、妹の病が治れば、皆が俺を受け入れてくれるのではないのだろうかと。


 いや、頭の中では無理だと理解はしている。


 しかし。でも。もしかすれば。

 未練だ。父上に認めてもらおうと努力し、家を継ぐために勉学に励んだ。その結果がこれだ。


 再び故郷の地を踏むことができないというのは、なんとも侘びしいものだ。




 町に入ってから直ぐに冒険者ギルドに入ったが、町に入ってから人々の視線が気になる。どうやら、モナ殿の容姿が人の視線を集めているようだ。

 確かにエルフの血が入っていれば、人離れをしているだろう。


 冒険者ギルドに入ってからも視線を集めたが、一箇所以外からの視線はすぐに外れた。

 未だに視線を向けられている場所に目をやれば、女性が人指を口元に持っていき黙っているように促された。

 どう見ても、あの村の住人だろう。薄い金色の女性はモナ殿とソフィー殿に似ており、金髪の男性はルード殿の面影がある。


 その金髪の男性がゆるりと立ち上がり、こちらに向かってきた。ニコニコとしている笑顔はルード殿を思わせる。

 しかし、ギルドの職員の女性に後ろを示され振り向いたモナ殿の反応は違っていた。


 悲鳴を上げ、俺の後ろに隠れてしまった。なぜ、このような態度なのかわからなかったが、その理由は直ぐにわかった。


 村でよく名を耳にしたリアンという人物が現れたのだ。確かにフェリオ殿はルード殿よりもリアン殿にそっくりだ。

 それも、モナ殿に会いにいくと言いながら、女性を5人も連れているというのはいかがなものかと思ってしまう。


 しかし、俺の印象では普通の若者の印象だ。モナ殿が毛嫌いする程ではないと思う。


 モナ殿がシア殿に呼ばれて行ったあと、フェリオ殿とモナ殿の父上がこちらに来た。


「やぁ、はじめまして。『グランツ』のフェリオだ。Sランクのキトー・ジューローザって有名だよね。一ヶ月ほど前だっけ?ワイバーン5体を単独で倒したんだって?」


「俺はモナの父親のテオだ。なんで、そのSランクのキトー・ジューローザがモナと一緒にここにいるんだ?いや、その前に娘を助けていただいたようで、感謝する」


 フェリオ殿はニコニコしながら、一ヶ月前の事を出してきたが、あれは何故かいきなり5体のワイバーンに囲まれてしまって、逃げ場がなく、相手をしただけだ。


 そして、盾を背負った大柄な人物はテオと名乗り、俺に頭を下げてきた。モナ殿曰く、それも俺の所為だったようだが。


「いえ、こちらこそ、その後怪我の治療をしていただき、助けていただきましたので、お互い様です。それで、モナ殿と共にいるのは、ルード殿とソフィー殿に護衛を頼まれたからです。あ、モナ殿本人はその事を知りません」


 そう説明すると二人は納得したのか、頷き視線を交わしていた。


「それじゃ、僕達からも依頼しようかな?ちょうど受付もそこにあるしね」


「モナはスライムにも勝てないほど弱いのに好奇心旺盛で困ることもあるのだが、そのお陰で村が豊かになっているのも事実だ」


 そう言って、二人は依頼受付の手続きを始めた。依頼料は星貨5枚!!


「これは些か高すぎるのでは?」


 依頼書を二人に差し戻した。1千万Gガルだなんてもらいすぎだ。


「え?Sランクへの指名依頼だからね。それにモナちゃんは何かとお金かかるよ。いきなりとんでもない物が欲しいって言い出すから」


「思い出すな。もっと使い勝手のいいキッチンが欲しいとか、浴槽が欲しいとか言われて、家ごと改装するはめになったからな」


 ああ、これはモナ殿の要望を叶えるための料金が含まれているのか。




 そして、路線馬車に乗ったのだが····。

 モナ殿が幼児並の体力しか無いというのを甘く見ていた。まさか、馬車に乗っているだけで、体力を奪われてしまうとは。


 これは次の街で騎獣を購入した方がいいのかもしれない。


「お嬢さん、大丈夫?」


 横に座っていた老婦人が声を掛けてきた。


「馬車に酔ってしまったの?もし良かったら、これをどうぞ。スッキリする飴よ」


 油紙に包まれた物を差し出してくれた。


「かたじけない」


 馬車酔いではないが、いただいておこう。老婦人の好意だ。

 もう少しすれば、休憩に入るだろう。そのときにはモナ殿も回復しているだろうか。


──────────────────

モナ Side


 着いた。やっと着いた。今日の宿泊する街エトマ。この街は中核都市となるため、昼にいたトリーアよりも大きな街だ。ゲームではここの地下ダンジョンでレベル上げに励んだ。

 そう、エトマはダンジョン都市なのだ。物資は豊富にあり、娯楽施設もある。冒険者が数多くいるので、仲間を集めるには王都の次にこのエトマが良かったのだ。


 そして、私はジュウロウザに抱えられていた。ゲームならHPが赤色になっている状態だ。


HP 5


 瀕死だ。もう、ベッドに埋もれたい。ゲームのモナはよくリアンの仲間になって旅ができたものだと関心する。


 私の状態に他の乗客が心配してくれて、いろんな物をくれたのだけど、お婆さん、馬車に酔っているわけじゃないよ。お姉さん、お腹が空いているわけじゃないよ。

 ニニャ。トイレ我慢しているわけじゃないから!ニニャは連れ合いの人に頭を叩かれていた。


 ジュウロウザは途中休憩のときに御者の人に次の街までにすると言ってくれていたようだった。なので、他の乗客の人にお礼を言って、その場を後にした。

 その時に、『昼から魔物の襲撃がなくて思ったより早くついたな』と護衛の冒険者の話し声が聞こえてきた。

 いつもは魔物に襲われているのか。


「モナ殿。食事はどうする?」


 食べる元気はないけど、食べないと駄目なことはわかる。できれば、ホテルで部屋食を食べてそのまま寝たい。


「宿の部屋で食べれないかな?多分、食べたらそのまま寝ると思う」


 既に意識が朦朧だ。人のざわめき。店に呼び込む声。村では感じられない外灯の明かり。

 過去の記憶がフラッシュバックする。

 何もかもが物で溢れた国。分刻みに時間に追われていた日々。満たされてもいたが、人間関係が希薄な日常。


“今更何を思い出すことがある”


 過去で使っていた言葉が思わずこぼれ出た。


「モナ殿。どうかしたか?」


「何でもない」


 それだけ言って、私は再び眠りの海に沈んで行った。




 翌朝、空は気持ちのいいぐらい快晴だった。私の心は曇天だ。

 昨日の夜はジュウロウザに起こされて、食べ物を詰め込んで、そのまま意識がぶっ飛んだから、HPは30に戻っていた。


 何が、私の気持ちを塞いでいるかと言えば、お風呂に入りたい。なんか、髪が凄く粉っぽい。そして、この宿に風呂なんてものは付いてない。いや、これは私のわがままだ。今日の宿は絶対に風呂のあるところに泊まるんだからね!仕方がなく、生活魔術のクリーンで我慢をした。


 で、移動手段なんだけど、ジュウロウザは騎獣を勧めてきた。まぁ、こうなってくると騎獣か歩きかの選択肢しかなくなるのだけど、私のクズ具合を嘗めてもらっては困る。


「キトウさん。私はまともに騎獣に乗れませんよ。途中で落ちること確実です。それに騎獣を買っても家で飼育できません。ニワトリぐらいなら問題ないですが、大きすぎます」


 騎獣となれば、それ用の騎獣舎が必要になってくる。最後まで飼育できないモノは買ってはいけません。


「それにあまり早く王都に着きすぎても困るのです」


 リアンと鉢合わせは勘弁してもらいたい。そう思いながら、宿で出された朝食を見る。はぁ、やっぱり美味しくないな。外の食事は私には合わない。

 このスープ塩気が多すぎる。パンのもそもそ感が酷い。


 あまり手が進まない朝食も泊まっていた部屋で取っている。私がいつ起きるかわからなかったから、宿の人にジュウロウザが朝食も部屋で食べれるように頼んでいてくれたらしい。

 はぁ、この肉硬すぎ。それに塩気が多すぎだ。保存食か何かか?

 唯一美味しいのが、オレンジのような見た目で中はいちじくの様な果肉が詰まった果物だ。


「どういう騎獣がいいかは、騎獣を見て決めればいいし、休憩を入れながら行けば、時間の調整はできるはずだ。村での飼育はなんとかなるんじゃないのか?」


 ジュウロウザがこの美味しくない朝食を詰め込みながらそう言ってくるが、飼育がなんとかなるって、いい加減すぎないか?

 確かに外に行っていた人たちが戻って来るときは、騎獣に乗って戻ってくるので、普段空いている騎獣舎は存在する。もしかして、それの事を言っているのか?


「はぁ。騎獣で動くしか選択肢が無いことぐらいわかっていますよ。路線馬車に乗るだけで、これだけキトウさんにご迷惑をお掛けしているのです」


「いや、迷惑を掛けているのは俺も言えることだ」


 ええ、朝起きると、例のステータスがマイナス100万になっている事に変わりがないので、今も私とジュウロウザは隣に座って食べている。

 この朝起きると元に戻っているのはなんとかならないのだろうか。しかし、私の作った腕輪さえ一過性のものでしかないので、お手上げだ。






 私の目の前には鱗をまとった馬がいる。ここは騎獣を売買している店の一つだ。このエトマの街は多種多様な店がある。その中でゲームでよく利用していた店を訪れたのだ。本当にゲームと同じ位置に店があった。

 実はゲームではここに竜の卵が売っていた。それで、卵を買ってドラゴンを育ててとある山頂の神殿を目指すというイベントがあるのだ。


 この店なら何かいい騎獣がいそうな気がしたので来てみたのだけど、世紀末の某登場人物の馬の様に厳つく、それに加え上下に4本の牙が口からはみ出ており、硬そうな黒い鱗を纏っているのだ。絶対に肉食だよね。


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