第10話 ちゃっかりハーレム作ってるよ
「そ、そうなのね」
母さんが額の汗を拭う。美人はどんな姿でも絵になるね。
「で、母さん達がここにいる理由は何?」
私の言葉に母さんは困ったような顔をする。え?何その顔?
「そのね。私達、勇者くんに冒険の指導をするように言われてね」
ああ、リアンの指導ね。確かにベテラン冒険者が付いてダンジョンに潜るっていうイベントがあったけど、それってもっと先の話のだったような?王都で訓練でもするのだろうか。
「本当なら王都で指導を行うはずだったのだけど····」
母さんが言いどもってしまった。どうしたのだろう。
「モナちゃんがリアンを鍛えてくれたよね?」
フェリオさんからそんな言葉が聞こえてきた。リアンを鍛えた?いや、鍛えるもなにも、村の周りにはスライムや一角兎しかいないから、鍛えるなんt·····あっ!
やってしまった。ゲームではLv.30にならないと王都から出られないのだ。そこまでレベルを上げるのに掛かる歳月が2年。
今のリアンのレベルは30だ。
スライムでも倒していけばLv.300まで行けるなんていう私の戯言を本気にしたリアンは10年掛けてLv.30まで達したのだ。
と、言うことは?
「今、ここにリアンがいる?先日、村を出たばかりのリアンがここに?」
私はなんて怖ろしい事だと、恐怖する。一週間も経っていないけど?王都に着いて直ぐに出発したって感じじゃない?直ぐに村に帰ろう!こんな所には居られない!
「モナちゃんそれでね」
母さんが意を決したように言葉を口にした。
「ここで、キールに会ってね。明日リリーちゃんと結婚式をするっていうじゃない?」
「ひっ!ま、まさか」
「村に寄ってから行こうって事になってね。今、モナちゃんへのお土産を買いに行っているの」
「いやー!!ムリムリムリ」
もう、心臓がバクバク言っている。今の私はリアン対策を何もしていない。村人の私が唯一武器として持てるのが、家畜の調教用の鞭だ。
ナイフでもいいのだけど、食材は切れるけど、スライムには刃が突き刺さらないという摩訶不思議現象が起きるのだ。
Lv.20ともなれば、攻撃力は低いが鞭はそれなりに当てられるようになっている。
「今の私、リアンに会っても対抗できないよ。下手すると死ぬよ」
ジュウロウザの影から訴える。これはもう生死に関わることだ。
「困ったわね。この3年で更に悪化していない?」
「リアンはいったい何をしたのかな?」
「おい、お前の息子だろ!」
なんて親同士で話しているが、私は先に武器を調達するべきだろうか。
「そうね。モナちゃん、さっきの依頼を王都のギルドにも出さない?今王都には『翠玉の剣』と『金の弓』が居るわ。どうせ年越ししか帰らないでしょうから、こういう事がない限り村に顔を出さないでしょう?」
母さんがとんでもない事を提案してきた。王都!王都に行くの?いや、遠すぎるでしょ。それにシルワリザードを借りっぱなしにもできないよ。
「母さん、無理があるよ。王都は遠いよ。それにシルワリザードを村長さんから借りているし、ソフィーとばぁちゃんだけにしておくのは心配だし、一人で王都に行くのは無謀ってものでしょ?」
「あら?リザードはキールに頼んでおけばいいわ。すごい荷物持っていたもの。きっと喜ぶわ。それに母さんとソフィーのことはトゥーリに頼んでおくわ。後、路線馬車に乗れば往復5日よ。キトーさんもいるし大丈夫でしょ?」
「は?」
なぜ、ジュウロウザと一緒に行動する事が当たり前のように言われているんだ?
母さんに言い返そうとすると、ギルドに入ってくる人の声で妨げられてしまった。
「父さん!お土産買ったから早く村に帰ろう!」
ひっ!
思わずジュウロウザを掴んでいる手に力が入ってしまった。
心の準備も出来ていない。
武器もない。
私がここにいることが分かれば、猛犬のように突進してくることは分かりきっている。
腕の骨が折れるか、肋骨が折れるか。恐怖でしかない。
「おじ様たち。早く行きましょ!プルム村でしたか?」
ん?
「わたくし、聞いたことありませんでしたわ」
んん?
「幼馴染みさんに会いに行くんだよね!」
あ゛?
「私は何方かと申しますとダンジョンの方が興味あります」
リアン!!お前、ちゃっかりハーレム作っているじゃないか!
私は外套のフードを深く被り、ジュウロウザの後ろから伺い見る。
桜色の髪をふわりとなびかせ、金色の瞳をリアンに優しく向けているのが、聖女(今は見習い)のフィーリア。
情熱的な赤い髪をドリルの様に巻いて、ギルド内を珍しそうに赤い瞳で眺めているのがこの国の王女カテリーナ。
ショートカットの緑髪が印象的な、元気いっぱいのボクっ娘が魔術師イリス。
最後にダンジョンの方が気になると言った人物はフルプレートアーマーを着ているので姿はわからないが、騎士のミディアだろう。
リアンの頭の中は腐っているのか?あれらを連れて本当にダンジョンに行く気なのだろうか。
いや、母さんたちが居るから大丈夫だと思っているのだろうか。
『モナ殿』
ジュウロウザが小声で呼び掛けてきた。あ、ごめん。あまりにも理解が出来ないことがあったので、ジュウロウザの着物を握りしめていた。皺になってしまってごめん。
『フェリオ殿に似た御仁がこちらを見ているが、どうする?』
ひっ!
私は再びジュウロウザの影に隠れる。
『か、隠して。近づいたら容赦なく殴っていいから』
『それは流石に失礼だ』
いや、私からしたら、骨が折れるか吐血するかの未来が待っているのだ。
「そこの人は初めて見るけど、父さん達の知り合い?」
リアンがこちらに矛先を向けてきた。もう、そのハーレム連れてダンジョンに行って欲しい。
「そうなのよ。ちょっと王都のギルドに行ってもらうようにお願いしていたところなのよ。私はキールを探してくるから、リアンくんは先に村に戻るといいわ」
母さんがリアンに説明すると、その言葉にフェリオさんも同意をした。
「そうだ。早く村に帰りたいのだったら、先に戻っていいぞ」
フェリオさん!息子をハーレム状態で放置するのか!っていうか、王都を出るときに一言このメンバーは駄目だとか諌めなかったのか?
フェリオさんの言葉を聞いたリアンは『じゃ、先に戻っている』と言ってギルドを出ていった。
リアンがいなくなって、やっと生きた心地がする。リアンは私にとって鬼門だ。
「シア!これを見てくれ!」
フェリオさんがリアンが出ていって直ぐに母さんに声を掛けていた。
「あら?フェリオもそうなの?」
「なんだ。皆同じか」
母さんに続いて父さんも何かを確認をしていた。どうしたのだろうと、ジュウロウザの影から覗くと3人で手を見せ合っていた。なんだろう?
「モナちゃん。モナちゃんの腕輪が切れてしまったの。リアンくんが入って来て直ぐに、おかしいわね?」
「モナの腕輪が切れたらそこから引き返すっていうのが鉄則なのだが、今になって切れたっておかしいよな」
父さんが首を捻りながら言っている。ああ、王都からリアンと行動をしていても、何もなかったのに、このギルドにリアンが入ってきたことで切れたということがおかしいと言っているのだろう。
多分、リアンがというより、周りの彼女たちにミサンガが反応したと思われる。あの組み合わせはない。はっきり言ってありえない。
実は聖女見習いはまだいるのだ。誰を聖女にするかは仲間に入れて信頼度を上げることが条件なんだけど、フィーリアはドジっ子ヒーラーの方ではなく、全てが真逆に作用するヒーラーだ。だから、攻撃魔術を使うと回復し、回復魔術を使うと攻撃してしまうのだ。ということは、フィーリアの指し示す道も真逆だったりする。
例えばここのお店が美味しいと言われたら、腹を壊す店だったりする。ゲームではそれに騙されて、猛毒状態のステータス異常にされたことがあったのだ。
因みに、ゲームではスタミナゲージが存在し、食べ物を摂取しないとスタミナゲージが下がっていき攻撃力が下がるという現象が起きる。食べすぎると素早さが落ちるという機能もあった。はっきり言ってこだわりすぎていると思う。
あと、王女はまあいい。彼女も問題は問題なのだが、他の者達と比べれば可愛らしいものだ。
魔術師イリスはそのスタミナゲージを維持するために毒を食べ続けなければならない。それは、毒草でも毒薬でもいいのだ。だから、彼女の体液は全てが毒なのだ。彼女が会心の一撃をくらうと何故か周りの仲間が毒状態になる。
恐らく彼女の体液が仲間に掛かったということなのだろうが。そこまで、こだわらなくても良くない?
最後にミディアだ。彼女は弱い。これでもかと言うぐらい弱いのだ。見た目はフルプレートアーマーを着ていて強そうだが、私、モナに3本くらい毛が生えたぐらいの強さしか無いのだ。それで、騎士をやっているのかと不思議なくらい弱いのだ。というのも、彼女が本領を発揮するところが別にあるのだが、今この時じゃない。
というぐらい。リアンの周りにいた人達は最悪なのだ。
「それはきっと、リアンというより、周りの人達の所為じゃないかな?」
私がそう言うと3人の目が私を見た。
「赤い髪の人はいいと思うけど、他の3人をダンジョンに連れて行くのは止めたほうがいいんじゃないかな?あの、人選は誰かお偉いさんのオススメなのかな?そうじゃなかったら、変えるべきだと思うよ」
私がそう言うと、母さん達は3人で何かを話し合ってしまった。
「モナ殿の腕輪は危機回避アイテムなのか?」
ジュウロウザは未だに背中に隠れている私に尋ねてきた。私のミサンガは危機回避アイテムと言えるのだろうか?
「どうですかね?私的には危険から守ってくれたらなって思いながら作っているのでわからないです」
作っている私がわからないのだ。その判断は使用者に任せたい。
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