第7話 短時間の間に一体何が!
翌日も順調に進み、広大な麦畑を収穫を終えることができた。今晩は収穫祭だ。と言っても飲んで騒いで、子供は遅くまで起きててもいい日だ。
皆がジュウロウザに感謝の言葉を述べている。それはそうだろう、働き手の大人の男性は外の町に出稼ぎに行っており、老人と女子供だけでの収穫をするはずだったのだ。
私はそれを横目で見ながら、村長に話をする。この前手に入れた大きな魔石を持って。
「村長。ちょっといいですか?」
白髪の老人は私の姿を見て頬を緩ませる。
「お。モナ、ちょうど良かった。モナの彼氏にお礼を「彼氏じゃありませんから」」
変な勘違いをしないで欲しい。私は魔石を差し出して、用件を言う。
「これを代えに使って欲しい。そろそろ交換しなければならないでしょ?」
魔石を見た白髪の老人は目を見開き、笑いだした。
「ははは、流石モナだ。こんな上質な魔石を見つけて来るなんて、ありがたくもらっておくよ」
そう言って、村長は魔石を受け取った。
「それから、南側に用水路を引いていいかな?前から言っていたけど予算の算段がついたから、南側の水田を広げたいんだ」
「ああ、言っていたね。いいよ。モナのおかげで今年も麦の収穫は良かったからね」
よし、許可はもらえた。近い内に町に行って水路の工事の依頼をしよう。
「そうなると、水車も増やしてもらえるのか?」
ああ、そうかこの村に流れる川は小川の大きさしかなく雨が降らないと直ぐに干あがってしまう水量しかない。しかし、近くにある谷に流れる川の水量は膨大で、早々に枯れない水量はある。ということは、地下には膨大な水量があると言える。だから、地下水を汲み上げて農業用水にしているのだ。魔石を動力源にして水を汲み上げ、水路に流し込む。
もう一本用水路を増やすということは、水量が足りなくなるということだから、別のところから地下水を汲む必要があるといえる。
「いいよ。それも予算に入れておく」
これで、お米が好きなときに食べられるというのなら安いもの。
「モナの彼氏は「彼氏では、ありません」···いつまで、村にいてくれるのか?もう少しすると米の植え付けも大豆の種まきもあるだろ?」
人手がいると?しかし、今まで問題なくしてきたじゃないか。
「麦の収穫が終わるまでです」
「いや、そのもう少し「ないです」····はぁ」
なに?そのため息は。
私は村長に確認が取れたので、満足して踵を返す。そして、私はそのまま家に戻る。私にはやらねばならぬことがあるのだ。そう、ミサンガを作るという作業だ。
本当は両親に送る為に作ったのに、昨日と今日で全て使いきってしまった。
私の部屋に入り明かりを灯す。これも魔石を使ったランプだ。明かりの側で糸を編み込みミサンガを作る。両親が怪我なく無事でありますように、そう願いを込めながら編んでいく。
「······ちゃん」
あ、この色とこの色は合うかもしれない。
「·····ぇちゃん」
ふふふ、この色もいいかも。
「おねぇちゃん!」
ん?目の前には頬を膨らませたソフィーがいた。どうしたんだろう。外はまだ騒がしいから、村の人達は外で騒いでいると思うんだけど?
「ソフィー。どうしたの?」
「おねぇちゃん!直ぐにどっかに行っちゃったと思ったら家に戻っているし、ご飯食べたの?」
ああ、私がご飯を食べたが心配してくれたのか。
「食べたよ」
家にあったパンを作業しながらかじっていたから、空腹ではない。
「ソフィーも食べた?まだ、楽しんで来て良いんだよ。ルードもまだいるんでしょ?」
すると肉の塊を差し出された。その先を視線で追うと、ルードがお皿を持って立っている。
「いるけどさぁ。モナねぇちゃん、一言、言ってから戻ってよ。凄く探したんだよ」
あ、確かに誰にも言わずに戻ってきてしまった。
「ごめん。ごめん。父さんと母さんに渡すのを作っておきたかったんだ。ほら、全部使ってしまったし」
私は作りかけのミサンガを二人に見せる。すると、思ってもみない声が降ってきた。
「もしかして、ご両親に贈る物を俺が使ってしまったのか?」
何故かジュウロウザも私の部屋に····あー、私の目がどうかしてしまったのだろうか。頭痛が痛い。失礼。
目が疲れてしまったのかと目頭を指でグリグリと揉みほぐす。
この夜の祭りが始まるまでにLUK−10000に上げていたのだ。なのに私の目には、ゼロが六つに見える。この短時間の間に一体何が起こったというのだ!
「その前にキトウさん。その数値はどういうことですか?この二時間程で元に戻っているじゃないですか!」
「なぜだろうか?」
首を傾げながら私に聞くな!私の方が知りたいわ!
私はジュウロウザの手首を掴み手芸用セットをソフィーとルードに持ってくるように言って、ダイニング兼リビングに移動する。
我が家の一階はばぁちゃんとソフィーの調合スペースがかなり広めに取ってあるため、皆で食事を取る大きめのテーブルを一つ置くだけでいっぱいになる場所しか共同スペースがないのだ。
「キトウさん、そこに座ってください」
魔導ランプが部屋の天井に取り付けられ、温かい光が落ちている一脚の椅子を指し示す。
ジュウロウザは大人しく指示された椅子に座った。
「こぶし2つ分、膝のところ空けて」
私は開いたスペースに腰を下ろす。
「も、モナ殿····」
ジュウロウザの戸惑った声が聞こえるが、私はそれどころではない。手を止めずに、この不幸の塊をどうにかしなければならないのだから。
ソフィーから手芸用セットを受け取って、作業を再開する。
「明日一日空いたから隣町に行きたいのです。それまでに、この腕輪を10個は作っておきたいのです」
ジュウロウザのお陰で明日の収穫の予定がなくなり、村長の許可も出たので、水路を引くために必要な事をしておきたいのだ。そして、本当なら明後日に収穫祭と合わせてこの村のリリーの結婚式をするはずだったのだけど、収穫祭の方が早まってしまったのだ。だから、明後日はリリーの結婚式があるので、この村に居なければならい。
そして、私の言葉にソフィーが『あっ!』と声を上げた。
「じゃ!お父さんとお母さんにお手紙を書いてもいい?」
「いいよ」
ソフィーは嬉しそうに自分の部屋に走って行った。家の中は走ったらダメだよ。
隣町はそれなりに大きな町なので、冒険者ギルドの支部があるのだ。そこからいつも両親に届け物をしてもらったり、両親からの物を受け取ったりしている。大体一ヶ月毎に送っているので、明日に行けるのであれば行っておきたい。
戻って来たソフィーは以前両親から送られてきた花がらの便箋を持ってきて、私の向かい側で、手紙を書き始めた。その隣でルードがソフィーに『何を書くの?』と聞いている。ふふふ。本当にこの二人は可愛いな。
「モナ殿。すまなかった」
何故か、ジュウロウザから謝罪の言葉が出てきた。
「なにが?」
「両親に贈る物を俺が灰にしてしまったから」
ああ、そのことか。別に気にすることではないのに、私の命と安全のためなら安いもの。私の労力で賄えることなのだから。
「それは別に構わないです。この腕輪は役目が終われば切れる物なので」
「え?切れる?灰にはならない?」
いや、糸を編んだ物だから普通は切れるでしょ。灰になるなんて初めて見たよ。
「おねぇちゃん!出来た!」
ソフィーがいつの間にか私の隣に来ていて、手紙を差し出していた。ソフィーは一体何を書いたのかな?この前一人で火傷の薬を作ることが出来たと言っていたことかな?
私は手紙を受け取り、出来上がったミサンガがある場所に一緒に置く。そして、ソフィーは私の隣の椅子に座って、私の後ろに視線を向けた。
「ジューローザさんはいつまでここに居てくれるの?」
ソフィー?何を言っているのかな?
「ジューローザさんのお陰で凄く助かったんだ。苗が育てば米の植え付けもしなきゃいけないし、もう少しこの村にいない?」
ルードが向かい側で村長と同じ事を言い出した。
「この村は男の人が少ないから、いつも大変なの」
ソフィー、確かに成人男性は高齢の人ばかりだけど、今までそれで問題なかったじゃない?君たちは何を言っているのかな?
明日、村から出ていってもらうよ。
「そういえば、この村は女性が多いな。男性はいないのか?」
ジュウロウザから尤もな質問が降ってきた。森に囲まれたこの村は女性と子供が大半で、男性は高齢の人ばかり。村の形態としては、おかしな形だ。
「居ないことはないよ。みんな、冒険者をしているんだ。なんて言っていたかな?」
「男のロマンだって」
「そうそう」
いや、それは一部の人だけだから。そんな事を言う人物に心当たりがある。多分その人がこの二人に言ったのだろう。
「この村はエルフの姫君と英雄様の隠れ里なんですよ。ですから、もともと外からの人はあまり入って来られないのです」
かわいい二人の代わりに私がこの村に人が少ない理由を言う。
「え?俺は入っているけど?勝手に入ってきたらその人達に怒られないか?」
「もう、千年以上前の人たちです。村でも口伝でしか伝わっていません」
そう、エルフの姫と英雄の子孫がこの村の人々なのだ。
「むかしむかしの人だから気にしなくてもいいよ。お父さんも村の外から来た人だから、大丈夫だよ」
ソフィーがにこにこしながら言っている。私達の父親はこの村の人ではない。母に一目惚れをして速攻結婚を申し込んだらしい。色々すっ飛ばし過ぎだと私は思う。
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