第6話 ラッキーアイテムが灰に!
「うまい!」
ジュウロウザはすごい勢いで食べている。これでもお米3合炊いたのだけど、足りなかった?
「ジューローザさん。美味しい?」
ソフィーが私の向かい側でにこにこしながらスプーンで筍ご飯を食べている。
「久しぶりに国のご飯を食べた」
「国のご飯?」
恐らく和国の食事のことだろう。私は黙々とマイお箸で筍ご飯を食べる。醤油とおこげと藁の香ばしい香りが鼻に抜ける。美味しい。自画自賛だ。
筍の天ぷらを食べる。サクリとした衣に筍の歯ごたえのいい食感。旬の味覚だ。
「モナ殿はどこから和国の食材を調達したのだ?この辺りには和国の食材はなかったはずだが?それに料理までできるなんて」
隣から質問が降ってきたが、前世の記憶からだなんて頭のおかしい説明できるはずもない。だから答えない。
「さぁ?この辺りで取れたものばかりですからね。海を渡った先の和国のことなんて知らないですよ」
「おねぇちゃんはいろんな美味しいご飯を作ってくれるからね。すごいよね」
「私はソフィーのように薬は作れないからね」
あっ。お吸い物も美味しい。一昨日に採ったきのこはいい出汁がでている。
「ああ、そうじゃ」
食事を食べ終わって薬茶を飲んでいるばぁちゃんが話しだした。
「麦の収穫は明日から始めるようじゃ」
明日からかぁ。確かに数日、晴れの日が続いているから、決めたのだろう。毎年、村の人全員で収穫をして、4日ほどで終わる感じだ。
「私、がんばるよ!」
ソフィーが両手を握りしめてやる気満々だが、はっきり言って、ソフィーとばぁちゃんは収穫には役に立たない。なぜなら、二人の職種は薬師なので、薬草の採取や調合に適性があるため、麦の収穫をさせるととてもひどい有様になる。そのため、収穫した麦を運ぶのが仕事となる。だが、それはリアンほどではない。リアンは本当に酷かった。勇者は勇者でしかないと思わされたのだった。
麦を収穫する鎌をもたせると、攻撃的な旋風が巻き起こり、麦が駄目になる。
何故か鎌と麦が接触すると火花が散り、発火する。慌てて水路から水を撒き、火消しに走る。
流石、勇者といえばいいのか?何故か、皆はすごいねと言っていたが、私は腹立たしいばかりだった。
勇者属性のリアンも収穫した麦を運ぶしか役に立たなかった。
「ソフィー。頑張ってね」
私はにこりと笑って言う。今年はリアンは居ない。私の心労はかなり軽減されてるはずだ。
翌朝、朝日が昇る前から起きて準備をする。窓の外は暁の色に染まり、雲ひとつ無い美しい空だった。しかし、私の心は曇天だ。
目の前の人物は、再びマイナス100万となっていた。何がと言わなくてもわかってくれる?
「キトウさん。なぜ、一晩で元に戻っているのですか?」
長袖に長ズボン。ホッカムリ姿になった私はジュウロウザを見上げる。
「俺に言われても」
確かにジュウロウザに言っても仕方がないことなのだけど、寝る前にLUKを0までにしたのに!意味がなかった!
「わかってますよ。はぁ」
思わずため息が出てしまう。テーブルの上に朝食を並べる。いつもと変わらないスープとパンの朝食だ。
さっさと食べて、収穫に向かわなければならない。今日から4日間は朝から夕方まで働き詰めだ。しかし、この不幸の塊をどうすればいいのだ?朝食の短い時間如きではLUKを0にすることはできない。
ジュウロウザの隣に腰を下ろし、パンを手にして口にする。これ、本当にどうする?クラッシャーやばすぎるんだけど?
横目でジュウロウザのステータスを確認する。····ん?あれ?
私が作ったパンを食べるとマイナス値が変化した?マイナス90万にまで上がった。
私が作ったものでも改善するってこと?私は急いでパンとスープを詰め込んで、部屋に駆け込んで入り、とあるモノを持って戻る。
「これをつけてみてください!」
ジュウロウザにとあるモノを渡す。糸を編んで作ったミサンガだ。私たちの両親の無事を祈って作った物で、両親からはこれがあったことで命が助かったなんて言われたことがあった。親の贔屓目で大げさに手紙で言ってくれたのだろうとは思う。
「これは?」
「幸運の腕輪かな?」
ジュウロウザはそのミサンガを手にとって腕につけた。
·····!
灰になった。糸で編まれたミサンガがジュウロウザの手首につけられた瞬間、黒い灰に変わってボロリと落ちてしまった。
「すまん」
ジュウロウザに謝られたが、LUKがマイナス75万までになった。
もう一つ渡す。灰になる。もう一つ渡す。灰になる。
繰り返してLUKが0になったが、ジュウロウザが凄く項垂れてしまった。
「ジューローザさん。おねぇちゃんのラッキーアイテムを灰にするなんて凄いね」
ソフィーが追い打ちを掛ける。
「ぐふっ」
ソフィーはジュウロウザに会心の一撃を与えた。ソフィー、笑顔で毒を吐く可愛い妹。
青い空の下。村人総勢83人。老いも若きも黄金の麦畑の中で作業をしている。大人は鎌を持ち麦を刈り、まとめていく。それを子どもたちが運んで乾燥させるために吊るしていく。
今回4日掛かるところ2日で終わりそうなぐらいのペースで刈り取られていく。その原因はジュウロウザだ。私はてっきりリアン並とは言わないが、収穫の役には立たないと思っていた。
侍という職業を私は勘違いしていたことに気が付かされた。
侍。主という城主に仕え、支える者たち。いざとなれば、刀を振るい主の盾となり刃となる者たちだと思っていた。
そういえば、時代劇で内職している姿も描かれていたり、仕える主が移動を命ぜられればその部下である侍達も移動するが、石高が下がれば部下である侍も上司から肩を叩かれることもある。ということは、農民となり鍬を振るうことになる役職だ。
映画にも色々使われていたが、なんでもオールマイティにこなせる職種だったのだ。
昼には麦畑の四分の一が収穫を終えていた。
「おねぇちゃん!お昼にしようよ」
ソフィーが手を振りながら呼びかけてきた。その隣にはルードがいる。仲良しだねぇ。
ソフィーは大きな籠を持って、それを畑の中で広げた。中身は朝に作ったサンドイッチだ。挟んである具材は私の小さな畑で作られた野菜を使っている。
「相変わらずモナちゃんのご飯は美味しいわね」
そう言いながら、トゥーリさんがサンドイッチを頬張っていた。土で汚れているけど金髪の美しい女性だ。リアンとルードの母親だけあって美人だが、年齢不詳だ。トゥーリさんはこの村でお針子をしている女性だ。
「昨日のタケノコ?も美味しかったわ。で、その人がルードを助けてくれた方?」
トゥーリさんがジュウロウザを見て言った。
「そうだよ。ジューローザさんに助けてもらったんだ」
「直ぐにお礼を言いたかったのだけど、ほら、リリーちゃんが結婚するでしょ?衣装を昨日までに仕上げないといけなかったのよ。遅くなってしまったけれど、ルードを助けていただいて有難うございました」
そう言って、トゥーリさんは頭を下げた。
「いえ、俺も助けられた身でありますからお礼を言われることはなにも」
「ふふふ、それにしても」
トゥーリさんは私とジュウロウザに視線を向ける。私がクラッシャー対策でジュウロウザの隣に座っている姿を微笑ましいような視線を向ける。
「モナちゃん、リアンじゃ駄目だったの?」
私はブルリと震える。トゥーリさんから恐ろしい言葉が聞こえた気がした。
「はぁ。リアンも馬鹿ね。モナちゃんごちそうさま」
「いえ、お粗末様でした」
トゥーリさんは奥様方が集まってるところに向かって行く。その後ろ姿を見ながら、トゥーリさんもルードも常識人なのに、なぜリアンはあんなに非常識になってしまったのだろうと思ってしまった。
「ジューローザさん、気になったんだけど、なんで俺たちを助けたとき傷だらけだったんだ?」
ルードがサンドイッチを口にしながらジュウロウザに尋ねる。
「ああ、何故か気がついたら猿の集団に襲われてしまっていた」
気がついたらって。それはあまりにも酷すぎる。そもそもグレイトモンキーって
「キトウさん。グレイトモンキーはスモールモンキーに攻撃しない限り攻撃はしてきません。スモールモンキーに一撃でも加えれば攻撃的になり集団で襲われます」
そう、集団で襲われるとても恐ろしい習性を持つ魔物だ。グレイトモンキーと渡り合うなら、火力で殲滅するか、罠を張ってハメるか、それぐらいだ。
「あっ!確か小さな猿と木の実を取り合いした。モナ殿はよく知っているな。そんな魔物の習性を」
あ!やばい話しすぎた。しかし、スモールモンキーと何を取り合いしているんだか。
「別に聞いたことがあっただけです」
「へー。あんな大きな魔物に襲われても倒せるなんて凄いな。ジューローザさんって強いんだな」
ルードがキラキラした目でジュウロウザを見ていた。いや多分、強制的に魔物に襲われて強くなったんじゃないのだろうか。ジュウロウザのLUK値も上がったことだし、私は腰を上げ土を払う。
「さて、午後の収穫を始めようか」
午後も順調にというか、順調に行き過ぎるぐらい順調だった。リアンのストレスがないのもそうだが、すでに麦畑の半分の収穫が終わってしまった。目の前には乾燥のために干してある麦の束がある。
はぁ、優秀過ぎる。リアンより使える時点で凄くマシだ。ただ、LUKが酷く悪いだけ。
「ジューローザさんのおかげで、明日で終わりそうじゃ。ありがたいことじゃ」
ばぁちゃんもにこにこでジュウロウザにお礼を言っている。その言葉にジュウロウザは唖然とした顔をしている。なにか問題でも?
「明日で終わり?」
「うんうん。もう半分もおわっちゃったよ。ジューローザさんのおかげね」
ばぁちゃんの隣でソフィーもニコニコと笑って言っている。しかし、ジュウロウザの顔色は悪い。私はそんなジュウロウザに釘を刺す。
「4日掛かると思っていたけど、明日で終わりそうです。手抜きしないでくださいね」
私は凄くいい笑顔で言い切った。
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