第5話 私の職種は村人だ

「もう一度確認するけど、この村を出ていく気はないの?」


 私は再度確認する。このクラッシャーであるジュウロウザを村に置いておくのは私は反対だ。いくら収穫に人手が足りないと言っても、リアンの交代要員だ。一人ぐらい居なくても大して差はないだろう。


 私の質問にジュウロウザは視線をウロウロさせていたが、ため息を吐き出し、私の目を見て言葉を口にした。


「モナ殿には迷惑を掛けることになると思うが、約束をしたとおり収穫の手伝いをさせて欲しい。なんというか。こんなに時がゆっくり流れていると感じられたのは子供のとき以来なんだ」


 え?それ程クラッシャー具合いが酷いということなのか!


「そうだよね。この村にいると魔王なんていないんじゃないかって思うよ」


 ルードがジュウロウザの隣で頷いている。恐らくルードは他の町や村を周っている行商人からこの村は森に囲まれているのに、魔物に襲われなくて平和そのものだということを聞いて、ジュウロウザもその事を言っていると勘違いしているのだろう。


 しかし、ルード。問題は目の前の人物にあるように私は思うよ。


「ほら、モナねぇちゃん。早く出発しないと日が暮れちゃうよ」


 ルードは私を採取に向かうように促すが、先程ちらりと確認した荷車の中を見てルードに待ったをかける。


「ルード。待って!ナタは大きめの物に変更して、スコップシャベルも入れておいて」


 出発前に持ち物の変更を言ったにも関わらず、ルードは笑顔で『了解』と言って、用意をするために納屋の中に入っていった。

 そして、私はジュウロウザに視線を向ける。


「キトウさん。ひとついいですか?はっきり言って不幸の根源と言っていいステータスは私にとって脅威なのです。“ステータスオープン”」


 私はそう唱えジュウロウザに私の基本ステータスを見せる。


 Lv.20


 HP 30

 MP 11


 STR 5

 VIT 3

 AGI 13

 DEX 9

 INT 30

 MND 10

 LUK ∞


「これ見てもらえればわかると思いますが、Lv.20で幼児並みのステータスなのです」


 ジュウロウザは私のステータスを目を丸くして見ている。普通の冒険者ならLv.20もあれば新人を卒業して一人前と扱われるようなレベルだ。しかし、新人冒険者が練習に狩る一角兎にも勝てない。


「ですから、グレイトモンキーだなんて魔物がこの村に現れるようになると私は生きていけません。まぁ、お互いの妥協点として麦の収穫が終わるまでは我慢しましょう。私のステータスは幼児並ということを忘れないでください」


 そう言って私はステータスを閉じてジュウロウザに近づいて行って、腕を掴む。

 もうLUKがマイナス50万に達してしまった。これ以上は何が起こるか恐ろしすぎて私がガクガクブルブルだ。



 ルードが荷車を引いて北に向かって行っている。その横で私はジュウロウザの腕を掴んで歩いている。

 歩いているが、村の人達の視線が痛い。リアンが居なくなった早々に男を捕まえてきたのかなんて声も聞こえてくる。

 捕まえていないからね。いや、腕は掴んでいるけれど。


「ここの村は豊かだな?」


 ジュウロウザからそんな言葉が聞こえてきた。


「そうかな?普通だと思うけど?」


 ルードが答えている。他の村や町の現状は村から出ないと見えてこない。この村から出たことがないルードでは、この黄金の麦畑の美しさは理解できない。

 村の北側に広がる麦畑。魔物に襲われた村ではこのような黄金の麦畑は見ることができないのだ。


「いや、豊かな村だ。高くそびえる壁に囲まれたところなら可能だろうがな」


「高いカベ?それって息苦しそう」


 今では普通になってきている。高い壁で町を囲むことで人々を魔物の脅威から守っているのだ。


「そうかもな」


 そんな事を二人が話していると北の森にたどり着いた。ここではローズ草が採取できるのだ。ローズ草はバラの香りがする草で、婦人病を治す薬に使われる薬草だ。これは町での需要が多く高く売れる薬草の一つとなる。


 あと、私のラッキーで得られる物だ。先程、ルードに持ち物の変更を言ったが、それは今回必要になるだろうという直感というものが働いて、変更をしたのだ。だから、今回はとても良いものが得られそう。


 森に入ってすぐのことだった。ルードが荷車を止めて叫び声を上げた。


「モナねぇちゃん!金色の木が!」


 ルードが指した先には黄金に光った竹が!かぐや姫か!


「ルード!鉈と麻袋を!」


 そう言って私はジュウロウザから離れて黄金に輝く竹の前に行き、周囲をぐるりと回る。

 ここは竹林というわけではない。どちらかと言うと、建材に使う針葉樹が多く植えられている森だ。


「あと、スコップシャベルも」


 スコップシャベルも持ってくるように言った後にルードが『ハイ』と言って鉈を渡してくれた。それを受け取る。魔物に攻撃できない私に鉈を渡すルード。


 別にこれは間違いではない。なぜなら私の職種は村人だ。



 村人。それは暮らすために必要なことは全て賄える職業でもある。薪を作るために木を伐採する。間伐のために木を伐採する。だから、私は鉈を持ち竹の前で構える。


「ルード。下で麻袋を広げておいて」


 ルードが麻袋を広げたことを確認して、私は黄金に輝く竹を斜めに切り落とす。そこからは金銀ざ····いや、宝石のような魔力を帯びた魔石が竹から溢れ出てきた。


 これはいい。大きいものは村で使えそうだ。全てを麻袋に詰め込んだルードはニコニコの笑顔だ。ルードは私のラッキーから引き起こされるレアアイテム採取が楽しいらしい。


「ルード、スコップシャベル」


 私は必要なくなった鉈の柄を差し出すと、引き取られ、スコップシャベルを渡された。

 ん?ルードはニコニコ顔で目の前にいる。横を見るとジュウロウザが先程私が手にしていた鉈を持っていた。

 ああ、ジュウロウザが渡してくれたのか。


 私は足元にスコップシャベルを突き刺す。


 ふふふ、私がここに立ったままだったのは、ここにお宝が埋まっているのだ。土を掘り起こすと、尖った頭が見えた。その周りの土を掘り起こし、出てきたのは茶色い皮で包まれた筍だ!

 下にある赤いポツポツが新鮮な筍の印だ。


「ルード!今日は筍ごはんにするよ。夕飯にトゥーリさんと食べて!」


「やったぁ!」


 この季節だけしか味わえない珍味だ。竹なんてこの辺りには見かけないし、筍なんてものは手に入れることなんてできない。ラッキー無限大様様だ。


「たけのこごはん?」


 ん?ジュウロウザが前のめりで聞いていた。いや、近いし。


「晩御飯は筍ごはんになるんだけど、嫌いでした?」


「いや、嫌いじゃないが、米があるのか?」


 ああ、そっち?


「ありますよ。麦ほどじゃないけど。今は次の苗の準備をしています」


「そ、そうなのか!こちらの方に来てから一度も見たことがなかったから、てっきりこの辺りでは存在しないと思っていた」


 米がこの村にあるのは、私が南の沼地に米を見つけて栽培を始めたからだ。今は1反程しかないが、水路を整備すればもう少し広げる予定だ。


「そうそう、これほどの魔石があれば、前からモナねぇちゃんが言っていた、水路を作って、田んぼを大きくできそうだね」


 麻袋を抱え込んだルードがニコニコしながら言っている。けど、全部は売らないよ。



 そうして、目的のローズ草を採取して、さっさと家に戻った。今日の晩御飯には時間がかかる。

 昨日はろくなことがなかったけど、今日はとても良いものが手に入った。やっぱりこの時期は筍だね。


 大鍋に湯を沸かして、筍の皮に切れ込みを切れて糠を一緒に茹でる。アク抜きは大切だ。これをしっかりとしないと食べられたものじゃない。


 筍は茹でて冷ましておく。その間にお米を研いで、水を吸わせて、出汁を作っておく。ふふふ、これを見るといい。私の力作、大豆から作った醤油と味噌だ。


 もう、これを作り上げるのには苦労の連続···いや、全く苦労もせずに作れてしまった。東の森に生えていた椿の木を灰にして、村で初めて収穫した米に振りかけて選別した麹菌を使って塩と混ぜればできてしまった。味噌ともろみ。

 こんなに簡単にできていいのだろうかというぐらい、素人の私が簡単に作れてしまったのだ。


 海から遠い村では魚介の出汁は取れないが、代わりにきのこの旨味を使って醤油と酒でだし汁を作る。大鍋に米を入れ、出し汁を入れる。その上から食べやすい大きさに切った筍を並べ、蓋をして藁に火を付ける。

 筍ご飯は真剣勝負だ。藁に火を付けると薪と違い直ぐに燃え切ってしまう。それを切らさずに燃やし続ける。


 火と戦うこと20分。出来上がった鍋のフタを開けると香ばしい醤油の匂いと筍の香りがキッチンの中に充満した。

 混ぜ返すとおこげもできている。素晴らしい!自画自賛だ!


 残った筍は小麦粉をだし汁で溶いた物で天ぷらにする。


 そして、きのこのお吸い物。


 以上が今晩の晩御飯だ。贅沢な食事だ。



 二人分の食事を別に分けてルードに渡す。それと、今回の北の森で得た魔石もつけて差し出す。


「ありがとー!モナねぇちゃんのご飯美味しいから好きだよ」


 そう言って隣の家に戻っていった。さっきまでルードはソフィーと仲良くお喋りをしていた。本当に二人は微笑ましい。


 で、ジュウロウザはと言うと、私がご飯を作っている間、庭で刀を振るっていたようだ。


 ルードが出ていった扉から代わりにジュウロウザが入ってきた。そのジュウロウザを見て私は顔をしかめる。2時間ぐらいしか離れていないのに、マイナス10万にLUKがなり腐っている。全くどういう仕様なのだこのクラッシャーは。


「キトウさん、夕飯できましたので、手を洗って来てください」


 そう言って、私はばぁちゃんとソフィーにも夕飯ができたと言うために背を向けた。


 二時間でマイナス10万って、うーん、ばらつきがある?


_______________

来ていただきまして、ありがとうございます。

面白かった・良かったと評価をしていただけるのであれば、一番最後の☆☆☆で評価を押していただければ、とても嬉しく思います。よろしくお願いいたします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る