第2話 このステータスを見よ!

 私は迷っていた。このまま近くの谷底にクラッシャーを捨ててこようか、しかし、人としてそれは駄目ではないのだろうか。


「モナねぇちゃん!」


 ルードに呼びかけられてハッとする。この子がいる前で捨ててくるのは駄目だと思わされた。

 仕方がない助けよう。そして、クラッシャー効力が発揮される前に出ていってもらおう。


「ルード。森の外に置いてある荷車をできる限り近くまで運んできて、私はけが人を運んで荷車が入れるところまで行くから」


「分かった」


 そう言ってルードは走って森の外に向かっていった。この森は浅瀬は村人の手が入っていおり、なんとか荷車が通れる隙間もあるけど、今いるところは木々が密集し、荷車が通れる隙間はない。

 私はけが人の腕を持ち上げ肩で支え、引きずる。・・・重い。流石に意識のない成人男性は重い。


 しかし、ここでクラッシャーを発揮されたらたまらないので、必死で足を進める。こっちは命が掛かっているのだ。カス具合を舐めんなよ。



 その私のカス具合を提示してみるとこんな感じだ。




モナ


 16歳

 職種:村人


 Lv.20


 HP 30

 MP 11


 STR 5

 VIT 3

 AGI 13

 DEX 9

 INT 30

 MND 10

 LUK ∞


スキル

 真眼


称号

 異界からの転生者

 ラッキーガール



 こんなステータスだ。レベル20でこのカス具合だ。


 因みに11歳のルードはこんな感じだ。





ルード


 11歳

 職種:レンジャー


 Lv.9


 HP 125

 MP 40


 STR 103

 VIT 50

 AGI 309

 DEX 295

 INT 113

 MND 94

 LUK 115


 私の半分のレベルでこのステータスだ。私の味噌っ滓具合が分かると言うもの。

 それも私は村人に対し、既にレンジャーという職業を得ている。もう10年は薬草採取をしているのだから、何かしらの職業を得てもいいのではないのだろうか。


 因みに私の次のレベルアップに必要な経験値は493002だ。レベル21になるには約50万の経験値が必要なのだ。このクソゲー具合が分かってくれるだろうか。リアンを扱き使いここまでレベルを上げたが、流石に50万の経験値が必要となった時に諦めた。流石にこれ以上は無理だと。



「モナねぇちゃん!全然進んでないよ!」


 ルードが戻って来てくれた。そんな事を言いながら怪我人の反対側の腕の下に肩を通し、手伝ってくれる。


「ルード。私のカスステータス具合を知っているでしょ」


「わかってるって、そのために僕が付いてきているんだから」


 ルードはリアンと違って素直に手伝ってくれる。本当にリアンと違っていい子だ。


「ありがとう。ソフィーにルードが沢山手伝ってくれたと褒めておくよ」


「べ、別にソフィーは関係ないじゃないか」


 耳まで真っ赤になって関係無いと言っているが、ソフィーの事が大好きなのが丸わかりだ。ソフィーもルードの事が好きなようなので、傍から見ても二人は微笑ましいぐらいにお似合いだ。

 ルードがこうやって私を手伝ってくれているのもきっとソフィーと接点を作ろうとしているのだろう。姉という私を使って。

 可愛らしい二人のためなら大いに利用されてあげよう。


 周囲に明るい光が垣間見えるようになってきた。少し先の方にはルードが持って来てくれた荷車の姿が見える。後は、怪我人を荷車に乗せて走って森を抜けなければならない。

 この怪我人の傷を付けた魔物がまだ周囲にいるとしたら危険だ。


 ルードとタイミングを合わせ、怪我人を荷車に乗せる。カスステータスの私と子供のルードが乗せるのだ。多少キズが広がることもあるかもしれないが許してもらおう。

 私が荷車を引き、ルードが後ろから押して行く。

 薬草が血まみれにならないといいな。




 両親の使われていないベッドに横たわる手当てをされた怪我人を見る。やはりこの顔はジュウロウザにしか見えない。黒髪に凹凸の少ない和国の顔立ち、眠っていても美形である姿はゲームで見た映像と変わりがない。

 私もリアンも少し幼い感じはするがゲームで見た姿と変わりがないので、そうなのだろう。


 しかし、ジュウロウザのステータスがここまでとは思わなかった。ゲームの時のステータスはHP、MP、ちから、ぼうぎょ、すばやさ、しか見ることができなかった。

 だけど、私のスキル真眼でみるともっと詳しく見ることができる。




鬼頭 十郎左(キトウ ジュウロウザ)


 23歳

 職種:侍


 Lv.58


 HP 874602

 MP 74839


 STR 363049

 VIT 59821

 AGI 40928

 DEX 98377

 INT 120938

 MND 582983

 LUK -948273


 これは勇者よりスペックが高いだろう。これにスキル自動回復が付いているのだ。しかし、ジュウロウザ・・・氏を持っていたんだ。てっきり名だけかと思っていた。それにサムライって職種なのだろうか。



 今、目の前でとても奇妙な現象が起きている。先程からLUK がカウントアップいや、マイナス値だからカウントダウンだろうか。マイナス値が増えていっている。


 今LUK が-949645になっている。1372減っているのだ。いや、LUK がマイナス値になっている時点でおかしいのだが。

 そのスピードがとても早い。もう-950317になっている。恐ろしい、一体何が起こっていると言うのだ。


 思わずジュウロウザの寝ている腕を掴んでしまった。・・・止まった?いや、今度はマイナス値が減っていっている?-949982になっている。コレは何?どういう現象?私は手を離す・・・マイナス値が増える。触れる・・・マイナス値が減る。

 私の所為?


 ああ!謎のコマンドの正体はこれか!


 ゲームでモナには謎のコマンドがあった。ネットで検索しても誰も使い方がわからなかった戦闘コマンド『手を握る』。


 何度か使ったことがあった。なんの意味があるのか検証するために。だが、全く使う主旨がみえてこなかったのだ。


 例えば勇者リアンに使うとする。モナの『手を握る』コマンドは必ずターンの一番始めに発動する。


『モナはリアンの手を握った』


『リアンはモナに手を握られているため攻撃できない』


 ・・・攻撃できないんかーい!画面に向かってつっこんだ。誰に使用してもそうだった。もし、モナのLUK を分け与えるコマンドだとしたら?いや、ゲームに運のステータスは存在しなかった。


 なら・・・クラッシャー専用のコマンドだったのか?しかし、かなり始めの方から混ぜるな危険と言われていた二人だ。誰も試した人が居なかったからネットに上がる事がなかったのか?


 これだと、かなり楽に人魚の鱗を手に入れる事ができたのでは?私は途中からジュウロウザを仲間にすることをやめた。後半戦になるとクラッシャー具合が特に酷くなり、ジュウロウザしか生き残らない事が多発したため、他の仲間を復活させるため金が底をつきかけたのだ。


 もし、このクラッシャーを制御できたとしたら?いや、そもそもモナは長期間仲間にはできない。でも、ボス戦のみこの二人を入れる事ができたとしたら、かなり楽だったのでは?


 このモナの『手を握る』コマンドはかなり使えたのかもしれない。あのドジっ子ヒーラーの成功率を上げることもできたのでは?確かに、ドジっ子ヒーラーに『手を握る』を使った後の回復は成功していたように思える。


 それも今更って感じだ。私はあのリアンの仲間になるつもりはない。絶対にない。


「モナ、御仁の具合はどうじゃ」


 いつの間にか、ばぁちゃんが部屋に入って来ていた。どうやら、怪我人の着物を繕って持ってきてくれたみたい。考え込んでいて気が付かなかった。


「ばぁちゃん。コレ谷に捨ててきていい?」


 具合がどうと言うより、私の命の危険が迫っているかもしれないこの状況下で、私は根源を消すという要望を出してみた。


「モナ!命の恩人に対して何ということを言うんじゃ!」


 ばぁちゃんに怒られた。普通は助けられた人に対して言うべき言葉では無いことは理解している。

 しかし、しかしだ。目の前にいる人物はクラッシャーと呼ばれ、勇者の幼馴染みヒロインと混ぜるな危険と言われた人物だ。現にLUKがマイナス値に振り切っている。

 これは魔王が村に降ってきてもおかしくは無いレベルではないのだろうか。


「ばぁちゃん。マジでコレ危険。村に厄災が降りかかるレベル」


 切実にばぁちゃんの目を見て訴える。私の真剣さがわかってくれたのか、ばぁちゃんは私とジュウロウザを交互に見るがある一点に視線を止めた。


「その手はなんじゃ?」


 ばぁちゃんは私の手を見て繋がっている先を見る。言葉と態度が合わないと思っているのだろうか。


「ばぁちゃん。私のLUKが無限大あるって教えたよね。彼はそのLUKがマイナス90万なんだよ。今、そのマイナス値を下げていっているの。助けて貰ったのは本当だけど、そもそもグレイトモンキーはもっと南のメドルト山にいる魔物。彼が居たから西の森にグレイトモンキーがいたんじゃないかな?」


 私は切実に訴える。私が正しいと。この男は捨ててくるべきだと。


「モナ、それはモナがそう思っておるだけじゃろ?怪我をしている者に非道な行いをするような子に育てた覚えはない。その者はリアンじゃないぞ」


 もしかしてモナは男性不審になってしまっておるのかのう。と言葉をもらしてばぁちゃんは部屋を出ていった。


 私が悪い?でも、このジュウロウザは危険だ。主に私の命が危機に瀕してしまう。

 いや、ただ単に私がゲームの世界と思い込んでいるだけ?よく似ているけど、実は違っていたりする?


 ·····リアンが勇者に選ばれたのは事実だ。そして、私とリアンが幼馴染みというのも本当だ。

 ただ、目の前のこの男がゲームのジュウロウザと同じであるとは限らない。


 ばぁちゃんの言うとおりだ。まずは事実確認をしなければならない。



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