変態事情
結局、私は押し込まれて、フィル王子と結婚した。
何が何だか、よくわからないわ。
「結婚したのは、君が超美人で、しかも膨大な魔法力を持っているからなんだ。君に惚れ込んだからだとか言うことは、一切ない。一国の王子たるもの、そんな理由で結婚するわけないだろう」
フィル王子は宣言した。
「ごめんなさいね、素直じゃなくて」
久しぶりに会ったなつかしい王妃様は、苦笑いしながら、そう言った。
「あの子ったら、どうしてもあなたの公爵家を訪ねるって言いだして」
王妃様の説明によると、フィル王子は、私に夜会でもどこでも全然会えなくなってしまったので、すっかり落ち着きを失くしてウロウロしていたらしい。
「ロジャーをそそのかして、状況を知ろうとしたのだけれど、ロジャーは無精者で。あなたのことが好きじゃなかった。誰でも相性があるのでね」
「でも、王妃様、それならどうして私とロジャーの結婚をお決めになられたのですか?」
そんな結婚、不幸になるに決まっているではないか。私の素朴な疑問だった。
王妃様は優雅に笑って、ごまかそうとしたが、ついに白状した。
「最初から、あなたを王家に迎え入れたかったのよ。だけど、出来なかった。いつかも言ったでしょう? 二代続けて隣国の血を引く者を王妃にはできないって。だから、先延ばしにしたの。……だけど、何も知らない公爵が、あなたを嫁に出してしまったら困るでしょう? そんなことになったら、フィルはどうしたらいいの? 昔っから、あなたのことが好きだったのに」
私は思わず真っ赤になって、フィル王子の方をチラリと盗み見た。
「でも、それなら、なおさらあの婚約の意味が分かりません」
「気の合わないロジャーをわざと選んだのよ。あなたと婚約者が仲良くなったら、フィルが怒るから」
これで、わかった。確かにロジャーは王家の被害者だ。
妻とマチルダの仕出かした話を聞いて、真っ青になった父が陣地から戻って来た。
父は、王妃様に厳しく叱られていたが、王太子妃の父に罪があってはいけないので、大きな処分にはならなかった。
「あなたの娘ではなかったそうです。マチルダは16歳でした。地元の教会に記録が残っていたわ」
王妃様が教会の記録を指し示した。
「あなたは騙されていたのです。本当の娘は、あの者たちの手によって、飢え死にさせられるところでした。救ったのはフィル王子です」
さすが王家、うまいことを言う。
でも違うのよ、お父さま。救ったのは私よ。
私には魔法力があるの。自分で自分を助けたのよ。
義母とマチルダは別々の修道院に閉じ込められた。一生、出られないよう厳しく監視されるらしい。
女中頭モリソン夫人と、下男を始めとした意地悪な使用人たちは、屋敷を追い払われた。誰も雇わないだろう。
「危うく君を殺すところだったよ」
フィル王子は真面目になって言った。
「殺人だよ。あんな人たちとは、二度と会わない方がいい」
彼は私を抱きしめた。
「君の父上も父上だ。君のことを放っておいて。僕がその分を埋めるから。僕だけを好きになって」
あとになって、父が必死で謝罪と会いたいという手紙を出していたのに、フィル王子がしばらく握りつぶしていたことがバレた。
王子は舅にムカついていたらしい。
「知っているかい? 僕には魔法力があるんだ。ほんの少しだけど」
知っていた。だって、他の誰でもなくフィル王子に抱きしめられるとドキドキするから。
「それは君が僕に恋してるから。そうじゃなくて、僕には最初から君の姿はずっと同じだった。みんな、何言っているんだろうと思っていた」
結局、美人好きか……今では私も自覚が出て来た。それに、お母さまが私にかけた魔法は、その人が見たい姿に見える魔法だったから……
「愛しているよ。美人でも、そうじゃなくても、僕は君が好きだ」
母は、私が王家に好きなように利用されるのを恐れていた。魔法力があるからって。
心配いらないわ。
魔法力ってホントに便利なの。
フィル王子が私に意地悪言うのには理由があって、実は期待しているからなの。秘密のお仕置きよ。
裸でいたぶられるのが大好きだなんて、結婚するまで知らなかったけど、大の男を逆さ吊りに出来るなんて魔法使いの私だけよ。
「僕は一生君だけだ」
最初はどうかなーって思っていたけど、本人がワクワクしながら待ってるので、これでいいことにしようと思ってる。
一応、幸せだから。
________________
ザマアが書けたら、客、もとい読者が呼べるって! ぜひともザマアを書こうと決意して書いたにもかかわらず、ただの変態の話になってしまった悲劇の物語……
物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は…… buchi @buchi_07
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます