その後

義母とマチルダは悲鳴を上げながら、衛兵に連れられて行った。


「さあ、ダーナ、邪魔者はいなくなったよ」


フィル王子は、とたんにとろけるような笑顔になって、私に向かって言った。


「あの、あの二人は?」


「君が気にすることじゃないさ」


「あの、お父さまには?」


「大丈夫。全部、僕から説明する」


「それに、あの……」


私はちらりと元の婚約者のロジャーを見た。


ロジャーはわずか1時間の間に起きた、婚約破棄と別婚約と断罪に呆然として、フィル王子を眺めていた。


フィル王子はニコリとして、ロジャーに向かって言った。


「大丈夫だ。ロジャー。君は悪い公爵夫人に騙されて、マチルダ嬢と婚約したんだ。なにも恥じることはない。よかったな、あのマチルダと結婚しないで済んで。実は年齢詐称だったらしい」


「年齢詐称?」


「うん。どうやら公爵の実子ではなかったらしい。実は16歳だったそうだ。もし君に幼女趣味があるというなら別だが……」


「そんなものはない!」


「なら、良かったじゃないか! 僕と母が君にふさわしい妻を見つけてあげよう。今回のことでは気の毒だった。婚約者をすげ替えようなどという見下げ果てた根性は問題があると僕も思うが、何しろ、相手が悪い」


「あの義母の公爵夫人のことか?」


ブスッとした表情でロジャーは聞いた。


「もちろん、違うとも。悪い相手は王家かな」


フィル王子は上機嫌で答えた。


「ロジャー、君には悪かったと思っているよ。だから、特別に、婚約者を顧みず、勝手に婚約破棄した件は目をつぶろう」



ロジャー様は、フィル王子の言うことは、よくわからなかったみたいだが、私の方に向き直った。



「ダーナには悪かったと思っている。君がパーティに出て来なくなってしばらくたつのに、心配しないで放っておいた。許してくれないか?」


許す? 


マチルダと結婚したかったくらいなのだから、私のことなんか、どうでもいいでしょう?


私は黙っていた。


「これで何もかも元通りだ。マチルダ嬢も公爵夫人もいないしね。いつでも、君と結婚できる。嬉しいだろう?」


ロジャーは、笑いながら、近づいてきた。




突然、フィル王子が割って入った。


「ロジャー、何をおかしなことを言っているんだ。君は、今さっき、ダーナと婚約破棄したんだよ?」


「ああ。するにはした。悪い公爵夫人に騙されてね」


「君は何を聞いていたんだ。僕が認めたのは、マチルダとの婚約の部分だけだ。ダーナとの婚約破棄はゆるがない」


「え?」


「君は自分にダーナ嬢はふさわしくないと宣言したろう。それに、婚約者らしいことは何もしてこなかった」


私はうんうんとうなずいた。フィル王子の言う通りよ。


「ここにいる全員が、ダーナ嬢との婚約破棄の証人だ。マチルダ嬢との婚約もみんなが聞いている。君はマチルダ嬢の婚約者だ」


ロジャーは真っ青になった。



「そして、ダーナ嬢は僕の婚約者だ。絶対に譲らない」

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