王太子殿下フィル、物置小屋に行く
フィルは公爵邸をよく知っていた。
幼い時は、たまに行ったものだ。それに公爵家は人通りの多い便利な場所にあった。
王子がするようなことではないので、彼はこっそり館の敷地内にしのび込んだ。公爵夫人たちは今晩はきっと夜会に出ていて留守のはずだ。
だが、ふと、彼はぼろっちい物置小屋の方に目を向けた。なぜなら、灯りが点っていたからだ。
「おかしいな」
彼は変なところから侵入したので、普段、屋敷の人間が通らない角度から物置小屋の二階を見てしまったのだ。
「あんなに明るいだなんて……変だ」
純粋な好奇心から、彼は(やってはいけないことは重々承知していたが)、窓を
娘が一人、大きなテーブルの前に座って本を読んでいた。
灯火に、金髪なのがわかる。
意外なものを発見して驚きすぎて、うっかり声が出た。
聞きなれない音にびっくりした娘が立ち上がった。
フィルは身が凍った。だが、真っ暗だ。多分、何も見えないだろう。
彼女は窓に近づき、その姿を目にしたフィルは危うく本気で木から落ちそうになった。
「美しい。これほどの美人はどこでも、一度も見たことがない。しかも、なんてやさしそうな表情なんだろう」
俗にいう一目ぼれである。
「あれが、マチルダ嬢か……」
見たことのない娘なのだから、マチルダ嬢に違いない。
あれほどの美人なら、婚約者を差し替えたくなっても無理はない。思わず、ロジャーに同情したが、違う。今晩の目的はそっちではない。
名残惜しいが、フィルは本来の目的のダーナの部屋に向かった。だが、灯はついていなくて真っ暗だった。
「おかしいな。寝る時間ではないし」
見ると屋敷は、使用人がいる区画以外は全部真っ暗だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます